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by nicoxz

核融合炉W7-Xが世界記録を達成、43秒間の高性能プラズマ維持

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はじめに

ドイツ北東部の都市グライフスバルトにあるマックス・プランク・プラズマ物理学研究所が運営する核融合実験炉「ヴェンデルシュタイン7-X(W7-X)」が、核融合研究における重要な指標「三重積(トリプルプロダクト)」で世界記録を達成しました。2025年5月22日の実験で、約4,000万度のイオン温度を持つプラズマを43秒間にわたり維持することに成功しています。

核融合エネルギーは「地上の太陽」とも呼ばれ、燃料となる重水素は海水中に豊富に含まれ、二酸化炭素を排出しないことから究極のクリーンエネルギーとして期待されています。今回の記録達成は、核融合発電の実用化に向けた大きな一歩です。本記事では、W7-Xの技術的特徴と今回の成果の意義を詳しく解説します。

ヴェンデルシュタイン7-Xとは何か

世界最大のステラレータ型核融合炉

W7-Xは、「ステラレータ」と呼ばれるタイプの核融合実験炉です。核融合炉には大きく分けて「トカマク型」と「ステラレータ型(ヘリカル型)」の2種類があります。現在、国際的に主流となっているのはトカマク型で、フランスで建設中の国際熱核融合実験炉「ITER(イーター)」もこの方式を採用しています。

トカマク型はドーナツ状の容器内でプラズマに電流を流し、磁場でプラズマを閉じ込める仕組みです。短時間での高性能プラズマ生成に優れますが、プラズマ電流を維持するために外部から継続的にエネルギーを投入する必要があり、長時間運転に課題を抱えています。

一方、ステラレータ型は複雑にねじれたコイルの形状そのもので磁場を生み出すため、プラズマに電流を流す必要がありません。これにより、原理的に定常運転(長時間連続運転)が可能という大きな利点があります。W7-Xはこのステラレータ型として世界最大の装置で、2015年の完成以来、段階的に性能を向上させてきました。

複雑な構造が生む安定性

W7-Xの内部構造は、その複雑さで知られています。50個の超伝導コイルが精密に配置され、プラズマを閉じ込めるための最適な磁場形状を作り出しています。装置の設計には20年以上の計算と最適化が費やされました。内部を見学したナショナル ジオグラフィックの写真家パオロ・ベルゾーネ氏は、装置の中に入った体験を「まるで星の中に入っていくようだった」と表現しています。

2022年の大規模アップグレードでは、水冷式のダイバータ(不純物除去装置)や内壁の冷却システムが導入され、より長時間の実験が可能になりました。このアップグレードが今回の記録達成の土台となっています。

三重積の世界記録が意味すること

核融合の成績指標「三重積」とは

核融合反応を実現するためには、プラズマの「密度」「温度」「閉じ込め時間」の3つの条件を同時に高い水準で満たす必要があります。この3つの値の積が「三重積(トリプルプロダクト)」で、核融合炉の性能を総合的に評価する最も重要な指標です。

三重積が一定の値(ローソン条件)を超えると、核融合反応で発生するエネルギーが投入エネルギーを上回る「点火」状態に到達します。つまり、三重積の向上は核融合発電の実現に直結する指標なのです。

43秒間のプラズマ維持という偉業

今回の実験では、約1ミリメートル大の凍結水素ペレットを約90個、43秒間にわたってプラズマ中に連続注入しました。同時に強力なマイクロ波でプラズマを加熱し、イオン温度は約4,000万度に達しました。これは太陽の中心温度(約1,500万度)の2倍以上に相当します。

注目すべきは、この記録が30秒以上の長時間放電において達成されたという点です。それまで10秒以上のプラズマ放電における三重積の世界記録を保持していたのは、英国のJET(欧州合同トーラス)トカマクでした。JETは2023年末に運転を終了しましたが、W7-XはJETの3分の1のプラズマ体積、5分の1の加熱パワーでこの記録を上回りました。

ステラレータの可能性を証明

この結果は、ステラレータ型がトカマク型に匹敵する、あるいはそれを超える性能を発揮できることを世界に示しました。特に長時間運転における優位性は、将来の発電用核融合炉にとって極めて重要です。実際の発電炉では、数時間から数日にわたる連続運転が求められるためです。

核融合発電の実用化に向けた展望

世界の核融合開発競争

核融合エネルギーの開発は現在、世界各国で加速しています。フランスで建設中のITERは2035年頃の本格運転開始を目指しており、中国のEAST(実験用超伝導トカマク)も長時間プラズマ維持で成果を上げています。米国や英国では民間企業による核融合スタートアップも急増しており、2030年代の商用炉実現を掲げる企業も出てきました。

こうした中でW7-Xの成果は、ステラレータ型という「もう一つの道」が実用的であることを裏付けるものです。トカマク型一辺倒だった核融合開発に多様性をもたらし、技術的なリスク分散にもつながります。

残された課題と今後の計画

W7-Xの成果は画期的ですが、実用化にはまだ多くの課題があります。現時点では重水素プラズマのみを使用しており、実際の核融合燃料である重水素-三重水素(D-T)混合燃料での実験は行われていません。また、発電に必要な「自己点火」条件にはまだ到達しておらず、さらなる性能向上が必要です。

マックス・プランク研究所は今後もW7-Xのアップグレードを続け、より長時間・高性能のプラズマ運転を目指す計画です。EUROfusion(欧州核融合開発機構)をはじめ、スペインのCIEMAT、ドイツのKIT(カールスルーエ工科大学)など国際的な研究機関の協力も拡大しています。

まとめ

ヴェンデルシュタイン7-Xによる三重積の世界記録達成は、核融合エネルギーの実用化に向けた重要なマイルストーンです。ステラレータ型の長時間運転における優位性が実証され、核融合開発の選択肢が広がりました。

核融合は「あと30年」と言われ続けてきましたが、W7-Xの成果のように着実な技術進歩が積み重なっています。気候変動対策としてクリーンエネルギーへの転換が急がれる中、「地上の太陽」の実現に向けた歩みは確実に加速しています。今後の実験の進展に注目していきましょう。

参考資料:

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