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by nicoxz

AI電力需要が米国の電力網に危機をもたらす背景

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はじめに

2026年1月16日、米国の株式市場で電力会社の株価が大幅に下落しました。コンステレーション・エナジーは9.8%安、ビストラは7.5%安となり、AI関連銘柄として注目されてきた電力セクターに異変が起きています。この背景には、トランプ政権が米国北東部の複数の州と連携し、電力不足とそれに伴う電気料金高騰に対処するための緊急対策を打ち出したことがあります。

人工知能(AI)ブームをけん引するハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)は、2026年に6,000億ドル(約88兆円)を超える巨額投資を続けていますが、その電力消費が一般消費者の電気料金上昇という社会問題を引き起こし始めました。本記事では、AI電力需要の実態とその影響、そしてトランプ政権が打ち出した対策について詳しく解説します。

AI電力需要の急激な拡大

ハイパースケーラーの投資規模

2026年、米国の主要ハイパースケーラー5社(Amazon、Google、Microsoft、Meta、Oracle)の設備投資は6,000億ドルを超える見込みです。これは2025年から36%増加という驚異的な伸びであり、このうち約75%にあたる4,500億ドルがAIインフラ(サーバー、GPU、データセンター、設備)に直接投資されます。

個別企業を見ると、Microsoftは四半期で349億ドルの設備投資を行い、前年同期比74%増を記録しました。Amazon、Microsoft、Google、Metaはそれぞれ2026年に1,000億ドルを超える設備投資を行うと予測されています。一部のハイパースケーラーでは設備投資が売上高の45~57%に達し、従来の現金調達型ビジネスモデルから、負債を活用するモデルへと変化しています。

データセンターの電力消費量

米国では、データセンターが2026年の総電力消費量の6%(260テラワット時)を占めると予測されています。AI業務だけで全データセンター電力の40%以上を消費する可能性があり、データセンターの重要コンポーネントを支える臨床電力は2023年から2026年の間にほぼ2倍になり、世界全体で96ギガワットに達する見込みです。

データセンターの電力需要は2035年までに106ギガワットに達すると予測されており、わずか7カ月前の見通しから36%も跳ね上がっています。AIワークロードの電力需要は、数十年前に建設された米国の電力網が設計された負荷を上回るペースで増加しています。

電力網インフラの危機

老朽化する送電網

米国の電力網の約70%が耐用年数の終わりに近づいており、前例のない負荷の増加が送電網の老朽化を露呈させています。AI、データ、クラウドコンピューティングによって駆動される非常に変動の大きい負荷プロファイルを持つ「小都市に相当する」規模の施設が生まれており、既存の電力網の容量をはるかに超えるペースで電化が進んでいます。

PJMインターコネクション(イリノイ州からノースカロライナ州まで13州で6,500万人以上にサービスを提供する米国最大の送電網運営者)は、2027年には信頼性要件を6ギガワット下回ると予測しています。このような電力不足は、停電リスクの増大や電気料金の高騰につながります。

地域的な影響

電力網をデータセンターに大量の電力を供給できるように拡張する必要がありますが、電力システムの仕組み上、その拡張費用を負担するのはデータセンターだけではなく、すべての電力消費者です。この費用負担の不公平さが、政治的・社会的な問題として浮上しています。

電気料金の高騰と消費者への影響

PJM容量市場の価格急騰

PJMインターコネクションの2026/2027年ベース・レジデュアル・オークション(2025年7月実施)では、容量価格が329.17ドル/MW日となり、2025年から22%上昇しました。その後の2027/2028年オークション(2025年12月実施)では333.44ドル/MW日とさらに1.3%上昇しています。

PJMの推定によれば、ペンシルベニア州知事との合意によって設定された一時的な価格上限がなければ、2027-28年の容量価格は530ドル/MW日近くになり、約60%高くなっていたとされています。総コストは2024年の22億ドルから147億ドルに跳ね上がり、最新のオークションでは161億ドルへとさらに9.5%増加しました。

家庭への影響

PJMは、2026年6月から始まる12カ月間の容量価格が記録的な高さになることで、州によっては一部の電力利用者の電気料金が1.5~5%上昇する可能性があると予測しています。具体的には、イリノイ州からノースカロライナ州にかけてのPJM電力市場では、データセンターが2025-26年容量市場で推定93億ドルの価格上昇を占め、平均的な家庭の電気料金はメリーランド州西部で月18ドル、オハイオ州で月16ドル上昇すると見込まれています。

2025年12月に終わる年間で、米国労働統計局が報告した消費者物価指数によれば、電気料金は6.7%上昇し、インフレ率の2倍以上となりました。この電気料金の上昇は、近年PJMインターコネクションにおいてテック企業がAIのトレーニングや運用のために建設しているデータセンターが一因となっています。

データセンター需要の急増

PJMの2026/2027年デリバリー年の予測ピーク負荷は前年比で5,400MW以上増加し、主にデータセンターの拡大、電化、経済成長によって推進されています。2027/2028年の予測ピーク負荷は2026/2027年の容量オークションで使用された予測よりも約5,250MW高く、その増加のうちほぼ5,100MWがデータセンター需要に起因しています。

トランプ政権の緊急対策

緊急電力オークションの提案

2026年1月16日、トランプ政権と超党派の州知事グループは、米国東部の送電網の大部分を管理するPJMインターコネクションにおいて、巨大テクノロジー企業に新規電力供給の建設費用を負担させることで高い電気料金に対処する計画を発表しました。

エネルギー長官のクリス・ライトと内務長官のダグ・バーガム、そしてペンシルベニア州、メリーランド州、バージニア州の知事らは、PJM地域で新規発電所の建設資金をテクノロジー企業に支払わせる緊急卸電力オークションの計画を概説しました。この協定により、150億ドル以上の新規発電プロジェクトが実現する見込みです。

オークションの特徴

テクノロジー企業は、新設される発電所からの15年契約の電力生成に入札できるようになります。この提案されたオークションは、契約期間が異例に長いこと、そして電力消費の多いデータセンターを建設するテクノロジー企業に限定されていることの両面で異例です。

声明はまた、PJMにこの電力の緊急容量オークションを実施し、住宅顧客を容量価格の上昇から保護するよう求めています。この計画では、データセンターが自社のために建設された新規発電に対して、実際に電力を使用するかどうかに関わらず、料金を支払うことが求められます。

消費者保護の側面

この政策の背景には、消費者の不満を抑え込む政治的な意図があります。トランプ政権は、AIデータセンターの建設を推進する一方で、一般消費者の電気料金上昇を最小限に抑える必要に迫られています。電力網の拡張費用を誰が負担すべきかという問題は、赤い州(共和党支持州)と青い州(民主党支持州)の両方で懸念が高まっています。

株式市場への影響

電力株の急落

1月16日の米国株式市場で売りが目立ったのは電力会社でした。コンステレーション・エナジーは9.8%安、ビストラは7.5%安となりました。これらの企業は、AI電力需要の恩恵を受ける「AI電力株」として注目されてきましたが、トランプ政権の政策発表により急落しました。

ビストラは史上最高値から約28%下落し、現在は技術的に重要なゾーン付近で値固めしています。コンステレーション・エナジーは2026年1月17日時点で307.71ドルで取引されており、前日終値の341.20ドルから下落しています。

市場の反応

売却は、超党派の知事グループがPJMインターコネクションに対し、急増するデータセンター需要に対応するために新規発電所の15年契約にテック企業を入札させることを目的とした緊急電力オークションを実施するよう圧力をかけたことで、投資家が規制リスクと短期的な不確実性を織り込んだものと見られています。

市場は、オークションが失敗したり遅延したりするリスクを織り込んでおり、急激な反応のように見えます。しかし、これらの企業はAIインフラと発電の交差点に位置しており、長期的にはAIによる電力需要増加の恩恵を受けると考えられています。

個別企業の動向

ビストラは2026年1月初旬に47億ドルでコジェントリックス・エナジーを買収すると発表しました。この買収は天然ガス発電の規模を大幅に拡大するもので、同社によれば、AIデータセンターと大規模産業顧客からの急増する需要に直接対応するために設計されています。

コンステレーション・エナジーは、カルパイン買収に関連して一部の元株主と登録権契約を締結し、最大4,963万3,207株の普通株式をカバーする自動棚登録届出書を提出しました。これが株式希薄化への懸念を引き起こした可能性があります。

注意点と今後の展望

解決困難な構造的課題

AI電力需要の問題は、一時的な政策では解決できない構造的な課題を含んでいます。2026年の予測では、すべての主要セクターで電化が加速し、米国の既存の電力網の容量を上回ると見られています。電力網の大規模な更新には莫大な投資と長い時間が必要です。

データセンターは受動的なエネルギー消費者から電力網のステークホルダーへとシフトしており、インフラのアップグレードへの共同投資、負荷の柔軟性の実現、オンサイト発電と蓄電の展開により、信頼性を向上させコストを管理しようとしています。しかし、これだけでは電力不足を完全に解消することは困難です。

政治的・社会的な対立

電力価格の上昇は、AIの恩恵を受けるテック企業と一般消費者の間の対立を生み出しています。トランプ政権の緊急オークション案は、この対立を緩和する試みですが、実効性には疑問も残ります。

テック企業が新規発電所の建設費用を負担しても、既存の電力網の拡張費用は引き続き広く消費者が負担する可能性があります。また、15年という長期契約がテック企業にとって受け入れ可能かどうかも不明です。

AIブームの持続可能性

ハイパースケーラーが設備投資を続けられるのは、AIが将来の収益を生み出すという期待があるためです。しかし、電力コストの上昇や規制の強化により、AI投資の経済性が悪化する可能性があります。

一方で、ハイパースケーラーは投資を減速させればAI競争で負けるというジレンマに直面しており、2026年も高水準の投資が続くと見られています。電力問題がAIブームにブレーキをかけるかどうかが、今後の注目点です。

まとめ

2026年1月、米国の電力会社の株価が急落した背景には、トランプ政権がAIデータセンターの電力需要増加による電気料金高騰に対処するため、緊急電力オークションを提案したことがあります。ハイパースケーラーは2026年に6,000億ドル以上を投資し、その75%がAIインフラに向けられますが、データセンターは米国の総電力消費の6%を占め、老朽化した電力網に大きな負担をかけています。

PJMインターコネクションの容量価格は2年間で約50%上昇し、一部地域では家庭の電気料金が月18ドル増加する見込みです。トランプ政権は、テック企業に新規発電所の15年契約を入札させる緊急オークションを提案し、一般消費者を保護しようとしていますが、その実効性は不透明です。

電力会社の株価下落は、短期的な政策不確実性への反応ですが、長期的にはAI電力需要の恩恵を受ける可能性があります。しかし、電力網の構造的な課題、政治的・社会的な対立、AIブームの持続可能性など、解決すべき問題は山積しています。AI時代の電力問題は、テクノロジーの進歩と社会インフラの限界という、現代社会が直面する根本的な矛盾を浮き彫りにしています。

参考資料:

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