SpaceXがxAI買収、マスク氏の宇宙データセンター構想始動
はじめに
イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業SpaceXは2026年2月2日、同氏のAI企業xAIを買収すると発表しました。米報道によると買収金額は約2600億ドル(約39兆円)に達し、統合後の企業評価額は1.25兆ドルを超える見通しです。
この買収の最大の目的は、宇宙空間にデータセンターを構築することです。急速に拡大するAIの電力需要に対し、地上のインフラだけでは対応できないという課題を、宇宙という新たなフロンティアで解決しようという壮大な構想です。
本記事では、SpaceXとxAIの統合の背景、宇宙データセンター構想の詳細、そしてマスク氏の「帝国」形成の行方について解説します。
SpaceXによるxAI買収の詳細
買収規模と評価額
SpaceXは2025年12月の二次株式売却で約8000億ドルの評価を受けており、xAIは2026年1月の資金調達ラウンドで2300億ドルの評価額となっていました。今回の統合により、両社を合わせた企業評価額は1.25兆ドル(約190兆円)に達すると見られています。
マスク氏はSpaceXの公式サイトに投稿したメモで、この合併を「AI、ロケット、宇宙ベースのインターネット、モバイルデバイスへの直接通信、そして世界最先端のリアルタイム情報と言論の自由のプラットフォームを持つ、地球上(そして宇宙)で最も野心的な垂直統合イノベーションエンジン」と表現しました。
IPOへの布石
ウォール街では、統合後の企業が今年後半に最大500億ドルを調達するIPO(新規株式公開)を予定しているとの見方が広がっています。これが実現すれば、史上最大級のIPOとなる可能性があります。
xAIの財務状況
xAIは現在、月間約10億ドルを消費しており、急速な資金流出が課題となっていました。一方、SpaceXは2025年に150億〜160億ドルの売上に対して約80億ドルの利益を上げたと報じられており、安定した収益基盤を持っています。この統合により、xAIは巨額のAI開発資金を確保できることになります。
宇宙データセンター構想とは
AIが直面する電力危機
マスク氏が宇宙データセンターを推進する最大の理由は、AIの電力需要が急速に拡大していることです。IEA(国際エネルギー機関)の試算によると、世界のデータセンター電力需要は2024年の約4150億kWhから、2030年には約9450億kWh(約2.3倍)に達する見込みです。これは現在の日本一国分に相当する電力消費に近い規模です。
マスク氏は「AIに対する世界の電力需要は、地域社会や環境に負担をかけることなく地上で満たすことは、短期的にも不可能だ」と断言しています。地上でのデータセンター建設には土地取得、電力会社との接続、建屋の建設など、稼働まで5年から8年の歳月を要するという制約もあります。
宇宙空間の利点
宇宙空間には、データセンター運用において複数の優位性があります。
無限の太陽光発電: 宇宙空間では雲も雨も、そして夜もなく、常に最大限の太陽エネルギーを24時間365日受け続けることができます。
天然の冷却環境: 日陰に入れば絶対零度に近い極低温環境となり、サーバーの熱を効率的に宇宙空間へ放射できます。地上のデータセンターでは冷却に膨大なエネルギーを消費しますが、宇宙ではこの問題が大幅に軽減されます。
土地の制約がない: 地上のような用地取得の問題がなく、理論上は無限に拡張可能です。
FCCへの申請
SpaceXは連邦通信委員会(FCC)に対し、最大100万基の衛星からなる「軌道上データセンター」コンステレーションの打ち上げ許可を申請しました。既存のStarlinkネットワークとの統合により、宇宙でのAI計算処理と地上への高速データ転送を一体的に行う構想です。
競合他社の宇宙データセンター計画
先行する実証実験
SpaceXだけが宇宙データセンターに注目しているわけではありません。米国のスタートアップStarcloud社は「Starcloud-1」という衛星を2025年11月にFalcon 9ロケットで打ち上げ、NVIDIAの「H100」GPUを搭載した世界初の商用宇宙データセンター実証機として軌道上で運用しています。
Google「Project Suncatcher」
2025年11月にGoogleが発表した「Project Suncatcher」は、太陽光発電を搭載した人工衛星群にAIチップ(TPU)を載せ、宇宙空間でAI計算処理を行う計画です。
日本の取り組み
日本ではNTTとスカパーJSATの合弁会社であるSpace Compass社が、静止軌道衛星における宇宙データセンター事業を立ち上げることを目指しています。
マスク氏の「帝国」形成
事業再編の全体像
今回のSpaceX-xAI統合により、マスク氏の事業群は明確な構図に再編されました。
SpaceX-xAI-X グループ: 宇宙開発、AI、ソーシャルメディアを統合。2025年3月にはxAIがX(旧Twitter)を330億ドルで買収済みで、今回の統合でさらに巨大化しました。
Tesla グループ: 電気自動車、エネルギー貯蔵、ロボティクス(Optimus)を展開。公開企業として独立した運営を継続します。
その他: Neuralink(脳インターフェース)、The Boring Company(トンネル掘削)は引き続き独立運営です。
Teslaとの統合は見送り
当初はSpaceX、Tesla、xAIの3社を統合し、3兆ドル規模の超巨大企業を形成する構想も報じられていました。しかし、Teslaは公開企業であり、非公開企業との合併には株主への受託者義務など複雑な法的課題があるため、今回の統合からは除外されました。
なお、Teslaは先月xAIに20億ドルを投資しており、両社の協力関係は維持されています。宇宙データセンターの太陽光発電システムには、Teslaのエネルギー貯蔵技術が活用される可能性があります。
課題と展望
技術的なハードル
宇宙データセンターの実現には多くの技術的課題が残されています。
放射線対策: 宇宙空間の放射線はチップを破壊するリスクがあり、耐放射線設計が必要です。
熱設計の難しさ: 宇宙空間での熱制御は地上とは異なるアプローチが求められます。
スペースデブリ: 既に軌道上には大量の宇宙ゴミが存在し、衝突リスクへの対策が不可欠です。
規制と国際協調
100万基規模の衛星コンステレーションには、国際的な周波数調整や宇宙環境への影響評価など、規制面でのハードルも高くなります。
Starshipが鍵を握る
SpaceXの大型再利用ロケット「Starship」の実用化が、宇宙データセンター構想の成否を左右します。輸送コストを大幅に削減できれば、宇宙でのインフラ構築が経済的に成り立つ可能性が高まります。
まとめ
SpaceXによるxAI買収は、単なる企業統合を超えた壮大な構想の第一歩です。AIの電力需要が地上の限界を超えようとしている今、宇宙という新たなフロンティアにデータセンターを構築するという選択肢は、もはやSFの世界の話ではなくなりつつあります。
マスク氏の「帝国」形成は着実に進んでおり、今後のIPOや技術開発の進展によって、テクノロジー業界の勢力図が大きく変わる可能性があります。宇宙とAIの融合がもたらす未来に、世界の注目が集まっています。
参考資料:
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