α世代はAIと分断超越できるか、オードリー・タン氏が語る未来
はじめに
2010年から2024年頃に生まれたα(アルファ)世代は、物心つく頃には身近にiPhoneとSNSがあり、人工知能(AI)とともに育つ世界初の世代です。2025年頃には約20億人に達すると言われる歴史上最大数の世代であり、2030年代以降に社会の主役となります。政治の分極化が進む米国を筆頭に、民主主義は世界各国・地域で揺らいでいますが、AIとともに育つα世代は分断を乗り越えられるのでしょうか。台湾の初代デジタル相、オードリー・タン氏に聞いた日本経済新聞のインタビューから、α世代とデジタル民主主義の未来を詳しく解説します。
α世代とは何か
真のAIネイティブ世代
α世代は2010年から2024年頃に生まれた世代で、21世紀に生まれた最初の世代です。物心つく頃には身近にiPhoneとSNSがあり、人工知能(AI)とともに育つ、2030年代以降に社会に進出する世代として定義されます。
従来の「デジタルネイティブ」の概念をさらに超え、AGI(汎用人工知能)と日常的に対話しながら育つ、“真のAGIネイティブ”となる点が特徴です。現実世界とオンラインコミュニティが分かち難く結び付いており、デジタルとリアルの境界が曖昧な環境で成長しています。
20億人の未来を担う世代
α世代は地球上で毎週280万人以上が出生し、2025年頃には約20億人となる歴史上最大数の世代に成長すると言われています。特にインドやアフリカで出生数が増加しており、グローバルな視点で見れば、新興国のα世代が人口の大部分を占めることになります。
情報革命の次の革命である第四次産業革命の進展と共に成長する新しいデジタルネイティブ世代であり、産業や娯楽、教育など様々な分野で大変革をもたらすと期待されています。
オードリー・タン氏が語るα世代の可能性
単なるデジタルネイティブではない
台湾の初代デジタル相オードリー・タン氏は、α世代を「単なるデジタルネイティブではなく、AIと共存するデジタルの住人」と定義しています。デジタル環境をサービスとして消費するのではなく、デジタル世界そのものを居住空間とする世代だという認識です。
タン氏によれば、α世代はデジタルツールを使うだけでなく、デジタル技術の仕組みを理解し、自ら創造する能力を持つ世代になると予想されます。プログラミング教育が学校教育に含まれ、生まれた時から様々な情報を簡単に統合して扱えるSNSが普及している環境で育つことが、その背景にあります。
デジタル分断を超える可能性
政治の分極化が進む米国を筆頭に、民主主義は世界各国・地域で揺らいでいます。しかし、タン氏はα世代がこの分断を乗り越える可能性を指摘しています。AIを活用したブロードリスニング(広範な民意の収集)により、多様な声を集約し、対話を促進する新しい民主主義の形を実現できるというビジョンです。
新興国のα世代が先行する可能性も示唆されています。デジタルインフラの整備が先進国より遅れた新興国では、逆に最新技術を一気に導入する「リープフロッグ現象」が起きやすく、古いシステムに縛られない柔軟な発想でデジタル民主主義を実践できる可能性があります。
ブロードリスニングとデジタル民主主義
テックで広げる民意の収集
オードリー・タン氏は、テックを使って幅広い民意を収集する「ブロードリスニング」を手がけた台湾の初代デジタル相として知られています。ブロードリスニングとは、多様な市民の声を幅広く収集し、分析する手法のことです。
タン氏によると、テレビやラジオは少数から多数への一方通行の放送(ブロードキャスティング)ですが、デジタルは数万人の声を同時に集める、いわゆる「ブロードリスニング」が可能です。この技術により、従来の代議制民主主義では拾いきれなかった多様な声を政策に反映させることができます。
台湾での実践例
台湾では、デジタル民主主義が進んだ契機の一つとして、2014年のひまわり学生運動があります。この運動を通じて、市民参加型のデジタルプラットフォームの重要性が認識されました。
ブロードリスニングの代表例の一つが、台湾の行政プラットフォーム「Join(ジョイン)」です。デジタル技術を活用することで、すべての人がいつでもどこでも、社会問題や公共的課題について優れたアイデアがあれば、社会に提案して広め、政府の政策に反映させることができます。
Pol.isによる対話の促進
タン氏が活用してきたツールの一つに「Pol.is(ポリス)」があります。このプラットフォームは、多数の意見を視覚化し、対立する意見の間に共通点を見出すことを支援します。従来の多数決では少数派の意見が埋もれてしまいますが、Pol.isでは異なる立場の人々が共有できる価値を探り、建設的な対話を促進します。
AIとブロードリスニングのリスクと可能性
AIの正しい使い方
タン氏は、「ブロードリスニング」ではなく「ブロードキャスティング」にAIを使ってしまうと、特定の声を強化し、権威主義を助長するリスクがあると警告しています。少数の知性を拡張するのではなく、集団の知性を拡張する方向でAIを利用すべきだと述べています。
AIには判断に潜む偏見(バイアス)の問題もあります。学習データに含まれる偏見がAIの判断に反映され、特定の集団に不利益をもたらす可能性があります。α世代はこうしたAIのリスクを理解し、批判的に活用する能力を身につける必要があります。
集団の知性を拡張する
一方で、AIを適切に活用すれば、集団の知性を大幅に拡張できる可能性があります。数万人、数十万人の意見をAIが分析し、共通点や対立点を可視化することで、より包摂的な政策形成が可能になります。
α世代は、AIを単なるツールとしてではなく、集団の知性を拡張するパートナーとして捉える最初の世代になるでしょう。AIとの共存を前提とした教育を受けることで、AIの可能性とリスクを理解し、適切に活用する能力を身につけることが期待されます。
α世代の教育と課題
情報リテラシーとメディアリテラシー
α世代には情報リテラシー教育、プログラミング教育、メディアリテラシーが必要とされています。膨大な情報の中から信頼できる情報を選別し、フェイクニュースや誤情報に惑わされない判断力が求められます。
Z世代との違いでは、学校教育にプログラミング教育が含まれていることや、生まれた時から様々な情報を簡単に統合して扱えるSNSが普及している環境で育つことの影響があると指摘されています。デジタルツールを使うだけでなく、その仕組みを理解し、創造する能力を養うことが重要です。
新興国のα世代が先行する可能性
オードリー・タン氏は、新興国のα世代が先行する可能性を示唆しています。デジタルインフラの整備が先進国より遅れた新興国では、逆に最新技術を一気に導入する「リープフロッグ現象」が起きやすく、古いシステムに縛られない柔軟な発想でデジタル民主主義を実践できる可能性があります。
インドやアフリカでは、α世代の人口が急増しており、これらの地域でデジタル民主主義の実験が進む可能性があります。モバイル決済やオンライン教育など、デジタル技術を活用した社会システムの構築において、新興国が先進国を追い越す事例も出てくるでしょう。
民主主義の未来とα世代の役割
分断を超える対話の仕組み
政治の分極化が進む現代において、α世代が分断を乗り越えるためには、ブロードリスニングのような対話の仕組みが不可欠です。多様な意見を可視化し、共通点を見出すプロセスを通じて、対立を超えた合意形成が可能になります。
AIを活用したブロードリスニングは、従来の代議制民主主義を補完し、より包摂的な政策形成を実現する可能性を秘めています。α世代は、こうした新しい民主主義の形を実践する最初の世代となるでしょう。
理想郷かディストピアか
一方で、AIが「見守る」社会は理想郷かディストピアかという議論もあります。AIによる監視社会の懸念や、プライバシーの侵害、アルゴリズムによる差別など、AIの負の側面も無視できません。
α世代は、AIとの共存がもたらす利益とリスクを理解し、適切なバランスを見出す責任を負っています。デジタル民主主義が真の民主主義の発展につながるか、それとも新たな形の権威主義を生むかは、α世代の選択にかかっています。
2026年、α世代の時代の幕開け
日本経済新聞の特集が示す関心の高まり
日本経済新聞は2026年1月1日からα世代が主役となる未来をテーマにした「α-20億人の未来」を連載しています。産業や娯楽、教育など様々な切り口から大変革の時代を生きるα世代の時代を展望する試みです。
この特集は、α世代が単なる若年層ではなく、社会全体の未来を左右する重要な存在として認識されつつあることを示しています。企業、政府、教育機関など、あらゆるセクターがα世代への対応を模索し始めています。
私たちが今すべきこと
α世代に未来を託しすぎず、私たちが今すべきことは何でしょうか。第一に、α世代が健全にAIと共存できる環境を整備することです。情報リテラシー教育、プログラミング教育、メディアリテラシー教育を充実させ、AIのリスクと可能性を理解する能力を養う必要があります。
第二に、デジタル民主主義の実験を支援し、ブロードリスニングのような新しい対話の仕組みを社会に実装することです。α世代が分断を乗り越えるためには、彼らが活用できるツールと制度を整えることが不可欠です。
第三に、新興国のα世代との協力を深めることです。デジタル民主主義の実践において、新興国が先行する可能性を認識し、相互学習の機会を創出すべきです。
まとめ
α世代は2010年から2024年頃に生まれた世界で20億人に達する歴史上最大の世代であり、AIと共存する真のデジタルネイティブです。台湾の初代デジタル相オードリー・タン氏は、α世代がブロードリスニングを通じて政治の分断を乗り越える可能性を指摘しています。
AIを適切に活用すれば、集団の知性を拡張し、より包摂的な民主主義を実現できます。一方で、AIの負の側面にも注意が必要であり、α世代には情報リテラシーとメディアリテラシーが求められます。
新興国のα世代が先行する可能性も示唆されており、デジタル民主主義の実践は世界規模で進むでしょう。2026年、α世代の時代の幕開けに際して、私たちは彼らが分断を超え、より良い未来を築くための環境を整備する責任を負っています。
参考資料:
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