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by nicoxz

データセンター電力網の「空押さえ」問題、家庭の電気代に波及か

by nicoxz
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はじめに

生成AIの爆発的な普及を背景に、日本国内でデータセンターの建設ラッシュが続いています。しかし、その裏側で深刻な問題が浮上しています。データセンター事業者が送電網の接続枠を実際の使用量より多めに確保する「空押さえ」と呼ばれる行為が常態化し、電力インフラへの過剰投資を招いているのです。

東京電力の管内では、データセンター向けに整備する送電網のうち、事前の契約容量の約3割が実際には使われない見通しだと報告されています。この過剰投資のコストは送電網の利用料金(託送料金)を通じて、最終的に一般家庭の電気代にも転嫁される可能性があります。本記事では、データセンターの電力需要急増と「空押さえ」問題の実態、そしてその解決に向けた取り組みについて解説します。

データセンター電力需要の急増と送電網のひっ迫

世界的なデータセンター電力消費の拡大

国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、世界のデータセンター、AI、暗号資産を合わせた電力消費量は、2022年の約460テラワット時(TWh)から、2026年には最大1,050TWhへと倍増以上になる可能性があります。この数字は日本全体の年間総電力消費量にほぼ匹敵する規模です。

生成AIの訓練や推論に使われるGPUサーバーは従来のサーバーに比べて電力消費が桁違いに大きく、1ラックあたりの消費電力はこれまでの数キロワットから数十キロワット、場合によっては100キロワットを超えるケースもあります。データセンターが「ギガワット級」の施設へと大型化する流れは、今後さらに加速すると見られています。

日本国内で集中する電力需要

日本においても、データセンターの新設・増設が活発に進んでいます。資源エネルギー庁の資料によれば、データセンターや半導体工場の新増設に伴い、2034年度の全国の需要電力量は2024年度比で約6%増加すると見込まれています。

特に集中が著しいのが千葉県印西市です。同市は都心からの近さや地盤の安定性などの好条件から「データセンター銀座」と呼ばれ、国内最大規模のデータセンター集積地となっています。2027年度の電力需要は2017年度の6倍に達するとの見通しもあり、東京電力パワーグリッドは千葉印西変電所と新京葉変電所を結ぶ10.1キロメートルの洞道を整備し、275キロボルトの超高圧電力を送電する大規模工事を2024年6月に完成させました。

しかし、こうした整備を進めても需要の伸びには追いつかず、2025年3月時点で印西・白井エリアだけで40件、合計2.5ギガワットもの電力接続待ちが発生しています。データセンター1カ所への電力供給開始まで「10年待ち」「15年待ち」と言われる状況が、業界全体の深刻な課題となっています。

「空押さえ」問題の実態と電気代への影響

送電網の「空押さえ」とは何か

「空押さえ」とは、データセンター事業者が実際に使用する見込みよりも多くの送電網容量を事前に契約で確保しておく行為を指します。経済産業省・資源エネルギー庁の調査によると、印西エリアでは以下の3つのパターンが確認されています。

第1に、接続工事に必要な協議が進められず保留状態になっているケースです。土地取得や建設許可などが整わないまま、送電網の枠だけを先に押さえている状況が見られます。

第2に、いったん提出した計画を下方修正したり、送電開始日を延期したりするケースです。当初の見通しよりも実際の開発が遅れ、契約した容量を使い切れない事態が生じています。

第3に、提出された計画に比べて実際の電力使用量が伸びないケースです。テナントの入居が進まなかったり、サーバーの稼働率が想定を下回ったりすることで、契約容量と実使用量に大きな乖離が生まれています。

過剰投資が生む電気料金上昇リスク

この問題が深刻なのは、送電網整備にかかるコストが最終的に一般消費者の電気料金に跳ね返る構造になっている点です。印西・白井エリアだけでも、今後必要とされる送電網工事の総額は2,000億円を超える見込みです。

送電網の整備費用は「託送料金」として電気料金に上乗せされます。託送料金は「総括原価方式」で決定されており、送配電網の維持・運営にかかったコストに一定の利益率を上乗せして収入を保証する仕組みです。上位系統(高圧の基幹送電網)の工事費用はエリア全体の託送料金で賄われる「一般負担」となっているため、データセンター事業者が使わない分の設備投資コストも、そのエリアの一般家庭や中小企業が負担することになりかねません。

契約容量の3割が未使用ということは、単純計算でその分の設備投資が無駄になるリスクがあるということです。仮に2,000億円規模の投資のうち3割が過剰だとすれば、600億円もの不要な投資が託送料金を通じて全利用者に転嫁される計算になります。

米国でも顕在化する「ゴーストデータセンター」

同様の問題は米国でも深刻化しています。実現性の低い「ゴーストデータセンター」の建設計画を電力会社に提出し、電力の枠を先に確保する手法が横行しているのです。電力需要を実体以上に大きく見せることで、発電所の建設計画や料金設定が混乱し、米政府もこの投機的な動きを問題視しています。

米国ではデータセンター需要に対応するための送配電網投資が増加し、家庭向け電気料金が2割高くなるとの試算もあります。日本がこの轍を踏まないためにも、早急な対策が求められています。

注意点・展望

政府はこの問題に対し、いくつかの具体的な対策を打ち出しています。まず、「空押さえ」を防止するために、申し込みから初期費用の入金までに「1年以内」といった期限を設けることが検討されています。期限内に費用を支払わなければ接続枠を失う仕組みにすることで、実需のない契約を排除する狙いです。

また、送配電会社に契約内容を定める約款の修正を求めるとともに、停電対策の蓄電池などの準備があればデータセンターが電力系統に早期接続できるようルールを見直す方針です。さらに、各送配電事業者が短期に電力供給を開始できるエリアを示した「ウェルカムゾーンマップ」の公開も進められています。

一方で、日本総研の報告によれば、再生可能エネルギー電源が不足し、遠隔地から電力を運ぶ送電網も十分でないため、首都圏のデータセンターは火力発電に大きく依存せざるを得ない実態があります。データセンターの電力問題は、送電網だけでなく電源構成や脱炭素化とも密接に関わる複合的な課題です。

まとめ

データセンターの急速な拡大は、日本のデジタル競争力を左右する重要なテーマです。しかし、送電網の「空押さえ」による過剰投資が放置されれば、その負担は一般家庭の電気料金上昇という形で広く社会に転嫁されます。

政府が検討する初期費用の期限設定や約款の見直しは正しい方向性ですが、実効性のある制度設計が不可欠です。データセンター事業者、電力会社、そして政策当局が連携し、実需に基づいた適切な送電網投資を行うことが、デジタル社会の発展と消費者保護の両立に向けたカギとなるでしょう。

参考資料:

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