エプスタイン文書300万ページ公開で欧州政界・王室に激震
はじめに
米司法省が2026年1月30日に追加公開した故ジェフリー・エプスタイン氏に関する捜査資料が、欧州の政界や王室を大きく揺るがしています。約300万ページの文書、2,000本超の動画、18万点の画像を含む膨大な資料からは、欧州の有力者たちとエプスタイン氏との交流の実態が明らかになりつつあります。
英国の前駐米大使ピーター・マンデルソン氏は辞任に追い込まれ、爵位剥奪も検討されています。ノルウェーのメッテ・マリット皇太子妃についても、エプスタイン氏との親密なメールのやり取りが公開され、王室への支持率が急落しています。本記事では、エプスタイン事件の概要から最新の文書公開による影響まで、詳しく解説します。
エプスタイン事件とは何か
事件の概要
ジェフリー・エドワード・エプスタイン(1953〜2019年)は、アメリカの富豪投資家でした。投資業で成功を収める一方、児童への性的暴行などの容疑で逮捕・有罪となりました。その犯罪は、未成年との性的行為を含む「性的人身売買」と広範な「性的搾取」でした。13〜14歳程度の少女を含む多数の未成年者を、富と贈与を餌に勧誘・搾取していたとされています。
2008年にはフロリダ州での少女への性的行為で有罪となり禁錮18か月の判決を受けましたが、当時の検事との司法取引により軽い刑となっていました。
2019年の逮捕と死亡
2019年7月、エプスタイン氏は再び逮捕されました。2002年から2005年までの間、ニューヨークやフロリダの自宅で14歳を含む未成年の少女数十人に対する性的虐待を行った疑いでした。
しかし同年8月10日、エプスタイン氏はニューヨーク市のメトロポリタン矯正センターの独房で遺体で発見されました。検視当局は首吊りによる自殺と断定しましたが、監房に同房者がいなかったこと、看守による30分ごとの見回りが実施されていなかったこと、監房前のカメラ2台が故障していたことなど、不審な点が多く残されています。
ラスムセンの世論調査では、エプスタイン氏が自殺したと考えるアメリカ人は29%にとどまり、42%が「著名人に関する証言を防ぐために暗殺された」と考えていました。
政財界への広がる人脈
エプスタイン氏は欧米の政財界に極めて広い人脈を持っていました。これまでにトランプ大統領、クリントン元大統領、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、実業家イーロン・マスク氏など、多くの著名人との交流を示す写真やメールが公開されています。
文書公開の経緯と内容
透明性確保法に基づく公開
今回の文書公開は、2025年にトランプ大統領が署名した「エプスタイン・ファイル透明性法」に基づいています。司法省は300万ページ超の文書に加え、約2,000本の動画と18万点の画像を公開しました。これにより、これまでの公開分を含めて約350万ページの資料が明らかになっています。
司法省の見解
司法副長官のトッド・ブランシュ氏は、「大統領に不利な内容が黒塗りされた」という見方を否定しています。「われわれはトランプ大統領を守っていない」「誰かを守ったり、守らなかったりということはしていない」と述べ、被害者保護などを理由とした黒塗り以外の編集は行っていないと説明しました。
英国政界を揺るがす衝撃
ピーター・マンデルソン前駐米大使の失脚
英国で最も大きな衝撃を受けたのは、ピーター・マンデルソン前駐米大使です。マンデルソン氏は政界で「闇の王子」の異名で知られる実力者でしたが、2025年9月にエプスタイン氏との関係を巡るスキャンダルの深刻化を受け、駐米大使を解任されていました。
2025年9月に公開されたエプスタイン氏の50歳の誕生日(2003年)に向けた「バースデーブック」には、マンデルソン氏が「私の最高の友人」と手書きしたメッセージが含まれていました。
機密情報漏洩の疑惑
今回の追加公開でさらに深刻な問題が浮上しました。マンデルソン氏が英国政府の機密税制計画をエプスタイン氏に漏洩していた可能性を示すメールが見つかったのです。
スターマー首相はマンデルソン氏の貴族院議員資格(爵位)の剥奪を求める意向を示しました。ダウニング街(首相官邸)報道官は「首相はこの問題を緊急に検討するよう求めている。首相はピーター・マンデルソンが貴族院議員であるべきではないと考えている」と述べています。
マンデルソン氏は「更なる恥をかかせることを避けるため」労働党を離党しました。
アンドルー元王子への再び注目
チャールズ国王の弟であるアンドルー・マウントバッテン・ウィンザー氏(元アンドルー王子)についても、エプスタイン氏との関係を示す新たな資料が公開されました。
公開されたメールには、エプスタイン氏をバッキンガム宮殿での夕食会に招待する内容や、エプスタイン氏が26歳のロシア人女性を紹介すると申し出た内容が含まれていました。また、アンドルー氏が床に横たわる身元不明の人物の上にひざまずいているように見える写真も公開されています。
英国メディアの報道によると、アンドルー氏は2011年にもエプスタイン氏に連絡を取り、「密に連絡を取り続けよう」「我々は一心同体だ」と伝えていたとされています。チャールズ国王は2025年10月にアンドルー氏から王族の称号を剥奪し、ウィンザー城の王室所有地から追放する手続きを開始していました。
スターマー首相はアンドルー氏に対し、米国議会での証言を促しています。
セーラ・ファーガソン元妃
アンドルー氏の元妻セーラ・ファーガソン氏も最新の文書で複数回言及されています。以前公開された文書でエプスタイン氏を「最高の友人」と呼んでいたことが明らかになった後、複数の英国慈善団体のパトロンや大使を辞任していました。
ノルウェー王室への深刻な打撃
メッテ・マリット皇太子妃とエプスタイン氏
公開された資料の中で、ノルウェーのメッテ・マリット皇太子妃の名前は少なくとも1,000回言及されています。2012年のメールでは、皇太子妃がエプスタイン氏を「心の優しい人」と呼んでいました。
別の2012年のやり取りでは、エプスタイン氏が「妻探しをしている」「スカンジナビア人の方が好みだ」と記したのに対し、皇太子妃はパリは「不倫には良い場所」だが「スカンジナビア人のほうが良い妻に向いている」と返信しています。
さらに2013年1月には、皇太子妃が友人とともにフロリダ州パームビーチにあるエプスタイン氏の自宅に4日間滞在していたことも、王室が認めています。この訪問は、エプスタイン氏が2008年に未成年者への性犯罪で有罪判決を受けた後のことでした。
皇太子妃の声明と国民の反応
メッテ・マリット皇太子妃は声明を発表し、エプスタイン氏との接触について「判断ミス」をしたことを認めました。「私は判断ミスを犯し、エプスタイン氏と何らかの接触を持ったことを後悔している。本当に恥ずかしい。ジェフリー・エプスタイン氏による虐待の被害者の方々に深い同情と連帯を示す」と述べています。
ノルウェー国民の反応は厳しいものでした。Aftenposten紙の調査によると、「メッテ・マリットは王妃になるのにふさわしい」と考えるノルウェー人はわずか22%にとどまっています。
皇太子妃長男の裁判
事態をさらに複雑にしているのは、メッテ・マリット皇太子妃の長男マリウス・ボルグ・ホイビー被告(29歳)のレイプ裁判です。エプスタイン文書の追加公開と同時期の2026年2月3日、オスロ地裁で裁判が開始されました。
ホイビー被告は元交際相手に対するレイプや継続的な暴行など計38の罪に問われており、裁判は約7週間続く見通しです。王室が抱える二重のスキャンダルにより、ノルウェーでは王政廃止の議論も活発化しています。
今後の展望と課題
更なる調査の可能性
公開された文書は膨大であり、全容の解明には時間がかかると見られています。司法省は「有罪を立証する決定的な証拠には至っていない」との慎重な立場を維持しつつも、関係者への追加捜査の可能性は残されています。
被害者への影響
文書公開の本来の目的は、エプスタイン氏による性的人身売買の全容を明らかにし、被害者の正義を実現することにあります。多数の黒塗り部分は被害者保護のためとされていますが、真相究明と被害者保護のバランスが今後も議論されることになるでしょう。
欧米関係への影響
英国では前駐米大使の解任という外交問題にまで発展しています。エプスタイン事件は単なるスキャンダルにとどまらず、権力者の責任と透明性、さらには国際関係にも影響を及ぼす問題となっています。
まとめ
米司法省によるエプスタイン文書の追加公開は、欧州の政界・王室に大きな衝撃を与えています。英国のピーター・マンデルソン前駐米大使は失脚し爵位剥奪も検討されています。ノルウェーのメッテ・マリット皇太子妃はエプスタイン氏との親密な交流が明らかになり、王室への支持率が急落しています。
エプスタイン事件は、富と権力を持つ者がいかにして法の網をかいくぐってきたか、そしてその人脈がいかに広範であったかを示しています。今後も文書の分析が進む中で、新たな事実が明らかになる可能性があります。被害者への正義の実現と、権力者の説明責任が問われ続けることになるでしょう。
参考資料:
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