エプスタイン文書公開で英政界に激震、マンデルソン氏が離党
はじめに
2026年1月末、米司法省が性犯罪で起訴され勾留中に死亡した富豪ジェフリー・エプスタイン氏に関する300万ページ超の捜査資料を公開しました。この文書により、英国の政界と王室に激震が走っています。
特に注目を集めているのが、労働党の重鎮であるピーター・マンデルソン氏への疑惑です。駐米大使を解任され、2月1日には労働党からの離党を表明しました。さらに、英国王チャールズ3世の弟であるアンドルー・マウントバッテン・ウィンザー氏(元王子)に関する新たな写真も公開され、王室への波紋も広がっています。
本記事では、エプスタイン文書の公開経緯と、英国政界・王室への影響について詳しく解説します。
エプスタイン事件とは
ジェフリー・エプスタインの経歴
ジェフリー・エプスタイン氏は、米国の金融業界で成功を収めた富豪でした。しかし、2006年に少女への性的虐待容疑で逮捕され、2008年に有罪判決を受けています。その後も複数の著名人との交友関係を維持していましたが、2019年7月に改めて性的人身売買の罪で逮捕されました。
同年8月、勾留中のニューヨークの拘置所で死亡しているのが発見されました。公式発表では自殺とされていますが、その死因については今なお議論が続いています。
文書公開の経緯
エプスタイン氏の死後、被害者への補償や関係者の追及を求める声が高まっていました。米司法省は段階的に捜査資料の公開を進めており、2026年1月30日には300万ページを超える大量の文書が新たに公開されました。
この文書には、エプスタイン氏と交流のあった政治家、実業家、王族などの名前が多数含まれており、各国で大きな反響を呼んでいます。
マンデルソン氏への疑惑
7万5000ドルの金銭授受
公開された銀行記録によると、エプスタイン氏は2003年から2004年にかけて、マンデルソン氏またはそのパートナー(現在の夫)であるレイナルド・アビラ・ダ・シルバ氏に関連する銀行口座へ、計7万5000ドル(約1,160万円)を3回に分けて送金していたとされます。
マンデルソン氏はこの金銭授受について、「受け取った記憶がない」として文書の信憑性に疑問を呈しています。離党に際して労働党に宛てた書簡では、この件について調査すると述べています。
政府機密情報の漏洩疑惑
さらに深刻なのは、マンデルソン氏が閣僚在任中に機密性の高い政府情報をエプスタイン氏に漏洩していた可能性があるという点です。文書によると、複数の事例が指摘されています。
2009年6月13日には、マンデルソン氏がエプスタイン氏に対し、200億ポンドの資産売却と労働党の税制政策に関するダウニング街(首相官邸)の機密文書を漏洩したとされています。
また2010年5月9日には、EUによるユーロ救済のための5,000億ユーロの融資枠について、公式発表前に電子メールでエプスタイン氏に伝えていた疑いがあります。「今夜発表されるはずだ」と記されていたとのことです。
銀行幹部報酬へのロビー活動
英メディアの報道によると、マンデルソン氏はエプスタイン氏の意を受けて、銀行幹部のボーナスへの課税に反対するロビー活動を行っていた疑いもあります。
2009年の電子メールでは、マンデルソン氏がエプスタイン氏に対し、政府が発表した銀行ボーナス税を「骨抜きにしようと努力している」と伝え、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOが英国の財務大臣に「穏やかに圧力をかける」べきだと助言していたとされています。
マンデルソン氏の経歴と離党
労働党での重鎮としての地位
ピーター・マンデルソン氏は、トニー・ブレア元首相時代の労働党を支えた中心人物の一人です。貿易産業大臣などを歴任し、「新しい労働党」の構築に貢献した功績から、2008年に男爵位を授与されています。
キア・スターマー現首相の政権下では、2024年から駐米英国大使を務めていました。しかし、エプスタイン氏との関係を示す電子メールの存在が明らかになり、2025年9月に大使職を解任されています。
離党の経緯
2026年2月1日、マンデルソン氏は労働党からの離党を表明しました。党宛ての書簡では「労働党にこれ以上迷惑をかけたくない」と述明しています。
労働党のスポークスパーソンは「マンデルソン氏がもはや労働党員ではないことは正しい判断だ。離党前から懲戒手続きが進行中だった」とコメントしています。
貴族院からの追放要求
スターマー首相は、マンデルソン氏を貴族院(上院)から追放すべきだとの見解を示しています。ダウニング街のスポークスパーソンは2月2日、「首相はこの件について緊急に検討するよう求めた。首相はマンデルソン氏が貴族院の議員であり続けるべきではなく、称号を使用すべきでもないと考えている」と述べました。
また、改革UK党とスコットランド国民党は2月2日、マンデルソン氏をロンドン警視庁に告発しました。閣僚在任中のダウニング街機密文書の漏洩について、「公務員の職権濫用」に該当する可能性があるとして捜査を求めています。
アンドルー元王子への影響
新たに公開された写真
エプスタイン文書には、アンドルー・マウントバッテン・ウィンザー氏(チャールズ国王の弟、元王子)に関する衝撃的な写真も含まれていました。日付不明の3枚の写真には、床に横たわる女性(顔はモザイク処理)の上に四つんばいでかがみ込む同氏の姿が写っています。
過去の経緯
アンドルー氏は2019年のBBCインタビューで、エプスタイン氏が2009年に少女買春で有罪判決を受けた後は連絡を取っていないと主張していました。しかし、昨年公開された電子メールでは、2011年にエプスタイン氏に対し「密接に連絡を取り続けよう」「我々は一心同体だ」と伝えていたことが判明しています。
これを受けて、チャールズ3世は2025年10月にアンドルー氏から王族の称号を剥奪し、ウィンザー王室領地からの退去手続きを開始しました。
米議会での証言要求
スターマー首相は、アンドルー氏が米議会でエプスタイン氏との関係について証言すべきだと述べています。「証言に関しては、情報を持っている者は誰でも、どのような形であれ求められればその情報を共有する用意があるべきだ。被害者中心の姿勢を取るなら、そうしなければならない」と強調しました。
閣僚のスティーブ・リード氏も、アンドルー氏とマンデルソン氏の両者に対し、エプスタイン氏の被害者を助けるために「道義的義務」があると述べています。
今後の展望
スターマー政権への影響
エプスタイン文書の公開は、スターマー首相の政権運営にも影響を与えています。マンデルソン氏は労働党の象徴的存在であり、その離党は党内に動揺を広げました。
報道によると、多くの労働党議員が首相のリーダーシップに対して公私で不満を表明しており、2026年の地方選挙やウェールズ議会選挙での結果次第では、党首交代を求める声が強まる可能性があるとの見方もあります。
文書分析の継続
300万ページを超える文書の分析はまだ始まったばかりです。今後、新たな関係者の名前や疑惑が浮上する可能性があります。米国内でも、トランプ大統領やオバマ政権の法務顧問への言及が含まれていることが報じられており、国際的な影響がさらに広がることが予想されます。
まとめ
米司法省によるエプスタイン文書の公開は、英国の政界と王室に深刻な影響を与えています。マンデルソン氏は金銭授受と政府情報漏洩の疑惑を受けて労働党を離党し、貴族院からの追放も検討されています。アンドルー元王子に関しても新たな写真が公開され、米議会での証言を求める声が高まっています。
エプスタイン事件は、権力者と富裕層の交友関係が持つ危険性を改めて浮き彫りにしました。被害者への正義がどのように実現されるのか、今後の展開が注目されます。
参考資料:
- CNN:The Epstein files are rocking Britain from the palace to parliament
- PBS News:British politician Peter Mandelson faces pressure to quit House of Lords
- Al Jazeera:UK’s ex-ambassador Mandelson quits Labour over Epstein links
- Bloomberg:Mandelson Shared UK Government Emails With Epstein
- Washington Post:Epstein file photos appear to show Andrew crouched over female on floor
関連記事
エプスタイン文書300万ページ公開で欧州政界・王室に激震
米司法省が追加公開したエプスタイン文書により、英国前駐米大使やノルウェー皇太子妃など欧州の政界・王室関係者への批判が高まっています。事件の全容と影響を解説します。
クリントン夫妻がエプスタイン調査で議会証言へ
ビル・クリントン元大統領とヒラリー元国務長官が、エプスタイン事件に関する下院監視委員会の調査で証言に同意。議会侮辱罪を回避し、2月下旬に証言予定です。
エプスタイン氏にロシアスパイ疑惑、ポーランドが調査開始
米司法省が公開したエプスタイン文書でロシア情報機関との関係が浮上。ポーランドのトゥスク首相が調査を表明した背景と、「世界最大のハニートラップ」疑惑の詳細を解説します。
中国が英国産ウイスキー関税半減、脱「氷河期」へ
中国が英国産ウイスキーの関税を10%から5%に引き下げ、ビザ免除にも合意。スターマー首相の8年ぶり訪中で動き出した中英関係の改善と、その背景にある米中対立の構図を解説します。
エプスタイン文書300万ページ追加公開、米司法省が作業完了を宣言
米司法省がエプスタイン関連の捜査資料300万ページ超を追加公開。著名人との関係を示す文書の内容、非公開分への批判、今後の影響を詳しく解説します。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。