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by nicoxz

EUV露光装置の国内導入が加速、半導体復活の基盤に

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はじめに

最先端半導体の製造に欠かせない極端紫外線(EUV)露光装置の日本国内への導入が加速しています。1台あたり300億円以上という超高額装置ですが、2025年には3台が国内に設置されました。かつて先端半導体の開発競争から撤退し「EUV不毛の地」と呼ばれた日本ですが、政府の大規模な政策支援を背景に、産業復活の基盤が急速に整いつつあります。

本記事では、EUV露光装置の技術的特徴と、日本国内での導入状況、そして半導体産業復活に向けた展望について解説します。

EUV露光装置とは何か

半導体微細化の切り札

EUV露光装置は、波長13.5nmの極端紫外線を使って半導体ウエハー上に極めて微細な回路パターンを描く装置です。従来のArF(フッ化アルゴン)露光装置が使用する波長193nmと比べて、約14分の1という短い波長を利用するため、はるかに細かいパターンを1回の露光で形成できます。

7nm以下の先端プロセスでは、従来のArF露光装置で多重パターニング(複数回の露光で微細パターンを形成する手法)が必要でしたが、EUVならば1回の露光で同等以下のパターンを形成できます。これにより製造工程が大幅に簡素化され、歩留まりの向上やコスト削減が可能になります。

世界でASML1社だけが製造

EUV露光装置を実用レベルで製造・供給できるのは、オランダのASMLホールディングスただ1社です。この究極の独占状態は、EUV技術の開発に莫大な投資と数十年にわたる技術蓄積が必要だったことに起因しています。

ASMLの2025年12月期決算では、総売上高が327億ユーロ(約5.2兆円)に達し、前年比16%の増収を記録しました。EUV関連の売上はシステム収益の48%を占め、前年の38%から大きく拡大しています。AI半導体の需要爆発がEUV装置の受注を牽引しており、2026年の売上高は340億〜390億ユーロとさらなる成長が見込まれています。

国内導入の最新動向

ラピダス:2台目のEUVを搬入

ラピダスは北海道千歳市の第1工場「IIM-1」に、2024年12月にASMLの最新鋭EUV露光装置「TWINSCAN NXE:3800E」を国内で初めて搬入しました。2025年4月にはパイロットラインが稼働を開始し、同年7月には世界最先端の2nm半導体のゲートオールアラウンド(GAA)トランジスタの動作確認に成功しています。

そして2026年に入り、ラピダスは2台目のEUV露光装置の搬入を開始しました。2026年4月以降にはさらに複数台の導入が計画されており、投資額は1,000億円を超える見通しです。千歳工場にはこれまでにEUV露光装置を含む200台以上の製造装置が搬入されており、2027年の2nm半導体量産開始に向けた設備整備が着実に進んでいます。

マイクロン:広島工場で量産用に初導入

米マイクロン・テクノロジーは、広島工場にEUV露光装置を導入し、2026年から最先端DRAM「1γ(ワンガンマ)」世代の量産を開始する計画です。日本国内でEUV露光装置を量産用途で使用するのはマイクロンが初めてとなります。

1γ世代DRAMは、従来の1β世代と比べてウエハーあたりのビット容量が約30%向上し、消費電力は約20%低減されます。AI向けの高帯域メモリ(HBM)をはじめとする先端メモリの需要増加に対応するため、マイクロンは広島での先端製造能力の強化を急いでいます。

経済産業省はマイクロンの広島工場への支援として最大5,000億円の助成を認定しており、国を挙げた支援体制が整っています。

TSMC熊本:第2工場でのEUV導入が焦点

台湾TSMCの日本子会社JASMは、熊本県菊陽町で第2工場の建設を進めています。当初は6nmプロセスでの製造を計画していましたが、より先端の4nmプロセスへの切り替えが検討されていると報じられています。4nmへの転換が実現すれば、EUV露光装置の大規模導入が必要となります。

第2工場は2027年12月の稼働を目指していましたが、プロセス見直しに伴い、スケジュールの変更が生じる可能性があります。投資額は約2兆1,000億円が見込まれ、政府からは最大7,320億円の助成が認定されています。

「EUV不毛の地」からの脱却

なぜ日本はEUVを失ったのか

日本の半導体産業は1980年代には世界シェア50%以上を誇っていましたが、その後の国際競争で徐々にシェアを失っていきました。2010年代に入り、先端プロセスの開発にはEUV露光装置の導入が不可欠となりましたが、1台数百億円という投資規模は、日本の半導体メーカーにとってあまりに重い負担でした。

結果として、先端半導体の製造からの撤退が相次ぎ、日本は「EUV不毛の地」となりました。TSMCやサムスン電子、インテルといったグローバル大手がEUVを活用した先端プロセスの量産を進める中、日本はこの分野で完全に後れを取っていたのです。

10兆円規模の政府支援が転機に

この状況を大きく変えたのが、政府の半導体産業に対する大規模な政策支援です。2024年11月に策定された「AI・半導体産業基盤強化フレーム」では、2030年度までの7年間で10兆円超の公的支援を行い、10年間で50兆円超の官民投資を誘発する計画が打ち出されました。

ラピダスに対しては累計2.9兆円の政府支援が決定しており、2026〜2027年度に約1兆円の追加支援が行われる予定です。さらに政府は、2026年度以降は毎年1兆円規模の支援を当初予算で確保する方針を示しており、補正予算頼みからの脱却を図っています。

ASMLも日本への対応を強化

EUV露光装置の唯一のメーカーであるASMLも、日本市場への対応を急速に強化しています。日本法人の人員を2026年末までに約600人規模に増員し、全国8カ所に拠点を構える計画です。EUV露光装置は導入後の保守・メンテナンスにも高度な専門人材が必要であり、ASMLの現地サポート体制の拡充は、日本の半導体産業にとって不可欠な基盤整備です。

注意点・展望

次世代「High NA EUV」の動向

ASMLは現行のEUV露光装置に加え、次世代の「High NA(高開口数)EUV」装置の出荷を開始しています。High NA EUVは、現行機よりもさらに微細なパターンの形成が可能で、2nm以降のプロセスで必要となる技術です。1台の価格は500億円を超えるとされ、投資規模はさらに拡大します。

2025年には複数のHigh NA EUVシステムが世界の主要ファウンドリに出荷されました。日本がこの次世代技術にいつ対応できるかが、半導体産業の国際競争力を左右する重要な指標となります。

人材確保が最大の課題

EUV露光装置の運用には、光学、プラズマ物理、真空技術、精密制御など多岐にわたる専門知識を持つ人材が必要です。装置の導入は進んでいますが、それを使いこなす人材の育成・確保が日本の半導体復活における最大のボトルネックです。

ラピダスは北海道大学や東京大学との連携を進め、マイクロンも広島地域での人材育成に取り組んでいますが、グローバルな人材獲得競争はますます激化しています。

投資回収の不確実性

政府の大規模支援は半導体産業復活の大きな追い風ですが、投資回収の見通しには不確実性も残ります。ラピダスの2nm半導体が市場で競争力を持てるか、マイクロンの先端DRAMが安定的に量産できるかなど、技術的・商業的なハードルは依然として高い状況です。

まとめ

EUV露光装置の国内導入の加速は、日本の半導体産業が長い低迷期から脱却し、再び最先端の製造能力を取り戻しつつあることを象徴しています。ラピダスの2台目搬入、マイクロンの広島工場での量産開始、TSMC熊本第2工場の計画と、2025年から2027年にかけて日本の半導体製造基盤は大きく変貌する見込みです。

政府の10兆円規模の支援により設備導入のハードルは下がりましたが、人材の確保や技術の実用化、投資回収といった課題は残ります。日本が半導体産業で再び存在感を示せるか、今後数年間の動向が決定的な意味を持ちます。

参考資料:

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