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by nicoxz

食品消費税ゼロがドラッグストアを揺るがす仕組みを解説

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はじめに

2026年2月8日に投開票された衆院選で、多くの政党が公約に掲げた「食品の消費税ゼロ」。消費者にとっては食費負担の軽減という分かりやすいメリットがありますが、意外な業界に大きな影響を及ぼす可能性が浮上しています。それがドラッグストア業界です。

食品が非課税になると、ドラッグストアの調剤部門に関連する税控除が減少し、収益が悪化するという構図があります。本記事では、消費税の仕組みから紐解き、なぜ食品の税率変更がドラッグストアの経営戦略を揺るがすのかを解説します。

各党が競った「食品消費税ゼロ」公約

衆院選での各党の主張

2026年衆院選では、消費税の減税が与野党を問わず主要な争点となりました。中道改革連合は恒久的な「食料品消費税ゼロ」を掲げ、実現時期を「今秋から」と明確に設定しました。日本維新の会は期間限定での食品消費税ゼロを公約に掲げ、自民党にも同調を求めています。

共産党は消費税を直ちに5%に引き下げ、将来的な廃止を目指すとし、れいわ新選組は消費税そのものの廃止を訴えました。与野党が消費税減税で横並びとなる異例の選挙戦となったのです。

財源の課題

しかし、消費税率の引き下げには年間約5兆円の財源が必要とされています。野村総合研究所の分析では、食料品の消費税率をゼロにした場合の実質GDP押し上げ効果は+0.22%にとどまるとの試算もあります。減税の恩恵と財政への影響のバランスが、今後の政策議論の焦点となります。

ドラッグストアと消費税の複雑な関係

「共通対応」の仕組みとは

ドラッグストアへの影響を理解するには、消費税の「仕入税額控除」の仕組みを知る必要があります。事業者は商品の仕入れ時に消費税を支払いますが、この支払った消費税を売上にかかる消費税から差し引くことができます。これが仕入税額控除です。

ドラッグストアには、日用品や食品といった「課税売上」と、処方薬の調剤という「非課税売上」が混在しています。医薬品の仕入れは、課税売上と非課税売上の両方に対応する「共通対応」の仕入れとして分類されます。

課税売上割合が鍵を握る

共通対応の仕入れに対する税額控除の金額は、「課税売上割合」によって決まります。課税売上割合とは、全体の売上に占める課税売上の比率です。ドラッグストアの場合、食品や日用品の売上が課税売上割合を押し上げる役割を果たしています。

現在の制度では、ドラッグストアは食品や日用品の課税売上が大きいため、比較的高い課税売上割合を維持できています。この高い課税売上割合のおかげで、医薬品仕入れに関する仕入税額控除も多く受けられるのです。

食品非課税化がもたらす収益悪化のメカニズム

課税売上割合の低下

もし食品の消費税がゼロになり、食品が「非課税」扱いとなると、食品の売上は課税売上から除外されます。その結果、ドラッグストアの課税売上割合は大幅に低下します。

課税売上割合が下がると、共通対応の仕入れ(医薬品など)に対する仕入税額控除の金額も連動して減少します。つまり、仕入れ時に支払った消費税のうち、控除できない「損税」が増えるのです。

調剤部門の収益圧迫

調剤部門は元々、処方薬の販売が非課税取引であるため、仕入れにかかる消費税を十分に控除できないという構造的な課題を抱えています。食品の非課税化によって課税売上割合がさらに低下すると、この損税がさらに拡大します。

調剤部門の利益率は一般的に薄利であり、損税の増加は直接的に収益を圧迫します。結果として、ドラッグストアが調剤事業を手がけるメリットが薄まることになるのです。

非課税とゼロ税率の決定的な違い

ここで重要なのが、「非課税」と「ゼロ税率(免税)」の違いです。ゼロ税率は「税率0%で課税する」という仕組みのため、仕入税額控除の制度が適用されます。一方、非課税は課税の対象外となるため、仕入税額控除ができません。

各党の公約では「消費税ゼロ」と表現されていますが、制度設計として「非課税」と「ゼロ税率」のどちらを採用するかで、事業者への影響は大きく異なります。この点について、各党の公約は具体的な制度設計があいまいなままだという指摘もあります。

業界再編への影響

調剤薬局買収の動機が薄まる

近年、ドラッグストア大手は調剤薬局の買収を積極的に進めてきました。その背景には、調剤薬局を取り込むことで品揃えの幅を広げるだけでなく、税制面でのメリットを享受できるという計算がありました。

食品の消費税がゼロになると、この税制メリットが大幅に縮小します。調剤薬局の買収による税控除の増加効果が薄れるため、買収の投資対効果が悪化するのです。

再編の機運への影響

調剤薬局業界では、直近10年間で年間500〜1,000店舗ペースでM&Aが行われてきました。大手調剤薬局の上位10社の売上を合わせても市場全体の2割に満たないという低寡占状態にあり、さらなる再編が見込まれていました。

しかし、食品消費税ゼロが実現すれば、ドラッグストアによる調剤薬局買収のインセンティブが弱まり、業界再編の速度が鈍化する可能性があります。Amazon薬局の参入など競争環境が激変する中で、再編戦略の見直しを迫られる企業も出てくるでしょう。

注意点・今後の展望

制度設計の行方に注目

食品消費税ゼロの実現に向けては、「非課税」と「ゼロ税率」のどちらの方式を採用するかが最大の論点です。ゼロ税率であれば事業者への影響は比較的軽微ですが、非課税の場合は前述のような課税売上割合の低下を通じて、ドラッグストアをはじめとする多くの事業者に影響が及びます。

ドラッグストア各社の対応

大手ドラッグストアは、調剤事業の位置づけを再検討する必要が出てくる可能性があります。税制メリット以外の観点、たとえば顧客の利便性向上やヘルスケア事業としての成長性など、戦略的な意義を改めて評価することが求められます。

まとめ

「食品の消費税ゼロ」は、消費者にとっては歓迎すべき政策に見えます。しかし、その影響は単純な家計負担の軽減にとどまりません。消費税の仕入税額控除の仕組みを通じて、ドラッグストアの調剤部門の収益性や業界再編の動向にまで波及する可能性があります。

今後の政策議論では、非課税かゼロ税率かという制度設計の詳細に加え、事業者への影響をどう緩和するかが重要なテーマとなります。消費税改革の行方を注視するとともに、ドラッグストア各社がどのような戦略転換を図るのかにも注目が集まっています。

参考資料:

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