円と債券にくすぶる下落懸念、積極財政の行方
はじめに
高市早苗首相率いる自民党が2026年2月8日の衆院選で316議席を獲得し、歴史的大勝を収めました。選挙後、日本株は過去最高値を更新する一方、円相場と国債市場では積極財政への懸念がくすぶり続けています。
市場の懸念は単なる債務不履行(デフォルト)リスクではなく、インフレ加速による債券や通貨の実質的な価値目減りです。過去最大の122兆円を超える2026年度予算案、国債発行残高1145兆円の見通しが、その不安を裏付けています。
本記事では、衆院選後の金融市場の動向と、積極財政がもたらすリスクについて解説します。
衆院選後の市場反応
株高と円相場の一時的な安定
衆院選での自民党大勝を受け、市場は当初好意的に反応しました。政策の実行力が高まるとの期待から日本株は上昇し、円相場も一時的に安定した推移を見せました。
みずほ銀行のディレクターが「この動きは想定していなかった」と語ったように、選挙前には円安・金利急騰を予想する声が多かっただけに、想定外の落ち着きとなりました。高市政権に対する市場の一定の信任が示された形です。
なお残る財政懸念
しかし、この安定は必ずしも懸念の解消を意味しません。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」への警戒感は依然として根強いものがあります。
長期金利(10年国債利回り)は高市政権発足以降上昇傾向にあり、2026年1月の衆院解散会見後には一時2.37%と27年ぶりの高水準を記録しました。政策金利と長期金利のスプレッドも急拡大しており、市場は財政拡張のリスクを織り込み始めています。
積極財政とインフレリスクの本質
過去最大の予算規模
2026年度予算案は一般会計が過去最大の122兆3092億円に達しました。国債費は31兆2758億円と過去最大を更新し、国債発行残高は2026年度末時点で1145兆円に膨らむ見通しです。利払い費だけで13兆円に急増しており、金利上昇が財政を一段と圧迫する構造が鮮明になっています。
与野党が衆院選で消費税減税を公約に掲げたことも、歳入減少への懸念を強めています。歳出拡大と歳入減少の組み合わせは、財政規律への信頼を揺るがす要因です。
インフレ加速のメカニズム
市場が懸念するのは、積極財政がインフレを加速させるリスクです。日銀の政策金利が期待インフレ率を下回る状況では、財政拡張によって実質金利がマイナスに深化し、インフレ圧力が高まりやすくなります。
具体的なメカニズムとしては、財政懸念から国債が売られて金利が上昇し、それに連動して円安が進行します。円安は輸入物価の上昇を通じてコスト・プッシュ型のインフレを引き起こします。これがさらなる国債売りと円安を招く悪循環に陥るリスクがあるのです。
英国「トラスショック」の教訓
市場との対話を軽視した財政拡張がもたらすリスクの実例として、2022年の英国「トラスショック」が想起されています。トラス政権が大規模な減税策を発表した際、英国債と英ポンドが急落し、年金基金の破綻危機に発展しました。
日本の状況は英国とは異なりますが、市場の信認を失った場合の影響は甚大です。財政規律と成長戦略のバランスが、高市政権に問われる最大の課題です。
注意点・展望
今後の焦点は、高市政権が「積極財政」の中身をどこまで具体化し、成長戦略との整合性を示せるかにあります。「責任ある」と「積極」の両立は容易ではありません。
日銀の追加利上げも重要な変数です。金融引き締めが進めば長期金利はさらに上昇し、国債の利払い負担が一段と増加します。金利上昇局面での財政拡張は、過去の教訓からも極めて慎重な運営が求められます。
為替市場では、高市首相が「為替変動にびくともしない日本をつくる」と表明していますが、国内投資の強化だけでは円安圧力を抑えきれない可能性もあります。構造的な経常収支の変化にも注目が必要です。
まとめ
衆院選での自民党大勝により市場は一時的な安定を見せていますが、積極財政へのインフレ懸念は依然としてくすぶっています。過去最大の予算規模、膨張する国債費、金利上昇の加速は、日本の財政持続性に対する市場の信認を試す局面です。
投資家や生活者にとって重要なのは、インフレによる資産の実質的な価値目減りへの備えです。金利・為替・物価の動向を注視しつつ、長期的な資産防衛の視点を持つことが求められます。
参考資料:
関連記事
金融市場が恐れるのはデフォルトよりインフレの加速
高市政権の積極財政を受け、金融市場の懸念はデフォルトではなくインフレによる資産価値の目減りに。円相場や国債利回りの動向と、積極財政がもたらすリスクを解説します。
高市流「TACO」外交と積極財政の綱渡り
日米関係が良好に見える中、高市政権には積極財政による金利上昇リスクが迫ります。トランプ氏との関係構築と財政規律のバランスが問われる局面を解説します。
高市首相の積極財政を支える議連と経済ブレーンの全容
高市早苗首相が推進する「責任ある積極財政」を支える自民党議連と経済学者の布陣を解説。日銀審議委員への人事や成長戦略会議の構成から、政策転換の方向性を読み解きます。
日経平均に影落とすトランプ関税の不透明感と国内政策期待
米最高裁のIEEPA関税違憲判決を受けトランプ大統領が通商法122条で新関税を発動。NYダウ800ドル超安の中、高市内閣2.0の積極財政への期待が日本株の下支え要因として注目される。
円安でも強い国は実現するか?高市政権の経済戦略を読み解く
高市早苗首相が掲げる「為替変動に強い経済構造」は実現可能か。積極財政と国内投資促進の政策、円安のメリット・デメリット、そして市場が抱くリスクを多角的に分析します。
最新ニュース
中国全人代を前に習近平の軍粛清が止まらない理由
3月の全人代開催を控え、習近平政権による軍高官の粛清が加速しています。張又侠の失脚、100人超の将校排除の背景と、人民解放軍への深刻な影響を解説します。
「ECの死」到来か、AIショッピングエージェントの破壊力
「SaaSの死」に続き「ECの死」が叫ばれています。AIショッピングエージェントがECビジネスをどう変えるのか、AmazonとWalmartの異なる戦略から読み解きます。
ハイアット東京を1260億円で取得、REIT最大規模
ジャパン・ホテル・リートがハイアットリージェンシー東京を国内REIT史上最大の1260億円で取得。好調なインバウンド需要を背景に、ホテル投資市場が過去最高を更新する中での大型案件を解説します。
メキシコが週40時間労働へ憲法改正、残業超過で3倍賃金の衝撃
メキシコが週40時間労働への憲法改正を承認。残業超過で3倍賃金の義務化が日本企業の製造拠点に与える影響と対応策を、段階的スケジュールとともに解説します。
楽天グループが金融3社統合へ、10月めど再編の全容
楽天グループが楽天銀行・楽天カード・楽天証券の金融3社を2026年10月をめどに統合する再編計画を発表。金利上昇時代の競争激化を背景に、エコシステム強化とコスト削減を狙う大型再編の詳細と課題を解説します。