日本エネルギー政策転換、原発「最大限活用」へ方針明確化
はじめに
日本のエネルギー政策が大きな転換点を迎えています。政府は最新のエネルギー基本計画で「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削除し、原子力発電を再生可能エネルギーとともに「最大限活用」する方針を明確にしました。
背景にあるのは、生成AIの普及に伴うデータセンターや半導体工場の新設による電力需要の急増です。IEA(国際エネルギー機関)は、データセンターやAI関連の電力消費が2026年までにほぼ倍増すると予測しています。
本記事では、日本の電源構成の現状、原発再稼働の状況、再生可能エネルギーの課題、そして2040年に向けた目標について解説します。
日本の電源構成の現状
火力が65%、再エネが27%
現在の日本の電源構成は、火力発電が約65%を占めています。内訳はLNG(液化天然ガス)29.1%、石炭28.2%、石油1.4%、その他火力6.3%です。
再生可能エネルギーは約26.6%で、太陽光11.4%、水力7.9%、バイオマス5.9%、風力1.1%、地熱0.3%となっています。
原子力は8.5%
2023年時点で原子力発電の割合は8.5%まで回復しましたが、これは先進国の中では低い水準です。フランスでは約62.8%、アメリカでは約18%を原子力発電が占めています。
福島第一原子力発電所事故前は約30%を占めていた原子力が、大幅に縮小した状態が続いています。
原発再稼働の状況
33基中14基が再稼働
2025年3月時点で、日本には合計33基の原子炉があり、設備容量は33GW(ギガワット)です。建設中の3基を加えると37GWとなります。
このうち14基(13GW)が再稼働しています。すべて2011年の福島事故後に設けられた新規制基準に適合した原子炉です。
認可済みだが未稼働の3基
再稼働の認可を受けているものの、実際には稼働していない原子炉が3基あります。柏崎刈羽原子力発電所の6号機と7号機、東海発電所の2号機です。
柏崎刈羽の2基は地元の反対があるほか、テロ対策施設の建設完了が2029年8月(7号機)と2031年9月(6号機)にずれ込む見通しです。東海2号機は新規制基準の安全対策を2026年12月に完了する予定です。
地元同意の壁
原発再稼働には、技術的な安全対策だけでなく、地元自治体の同意が必要です。福島事故の記憶は依然として強く、住民の不安を払拭することが課題となっています。
電力需要の急増
AI・データセンターが牽引
生成AIの普及により、データセンターの電力需要が急増しています。IEAは、世界の電力需要が今後3年間でより速いペースで増加し、2026年まで年平均3.4%増加すると予想しています。
データセンター、AI、暗号通貨セクターの電力消費は、2026年までにほぼ倍増すると予測されています。
半導体工場の新設
日本国内でもTSMCの熊本工場をはじめ、半導体工場の新設が相次いでいます。これらの工場は大量の電力を消費するため、電力供給の確保が課題となっています。
電化の進展
自動車の電動化(EV化)や、産業部門での脱炭素化に向けた電化も、電力需要を押し上げる要因です。
再生可能エネルギーの課題
出力変動への対応
太陽光や風力といった再生可能エネルギーは天候に左右され、出力が変動します。電力の安定供給を維持するには、出力調整が可能な電源が必要です。
現状では、火力発電がこの調整役を担っていますが、脱炭素の観点からは課題があります。
送電網の整備
再エネの大量導入には、送電網の整備が不可欠です。地方で発電した電力を都市部に送る送電線の増強や、需給調整のためのシステム構築が必要です。
コストの問題
再エネのコストは低下傾向にありますが、送電網整備や調整力確保のコストを含めると、総合的な負担は依然として課題です。
2040年に向けた目標
再エネ4〜5割、原子力2割
政府は2040年度のエネルギーミックスについて、発電電力量1.1〜1.2兆kWh程度と想定した上で、電源構成を再エネ4〜5割程度、原子力2割程度、火力3〜4割程度とする見通しを示しています。
2030年度の中間目標では、再エネ比率36〜38%を掲げています。
2026年度に排出量取引開始
2026年度にはGX-ETS(排出量取引制度)が始動し、企業の脱炭素努力が炭素価格として市場で評価される仕組みが導入されます。
まとめ
日本政府は、AI・データセンター需要による電力需要急増を背景に、原発を再エネとともに「最大限活用」する方針を明確化しました。現在33基中14基が再稼働し、原子力の発電比率は8.5%まで回復しています。
2040年度の目標は、再エネ4〜5割、原子力2割、火力3〜4割。IEAは2026年までにAI・データセンター関連の電力消費がほぼ倍増すると予測しており、電力供給の確保は喫緊の課題です。
地元同意の壁、再エネの出力変動、送電網整備など課題は山積していますが、エネルギー安全保障と脱炭素の両立に向けた取り組みが進んでいます。
参考資料:
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