英オクトパスエナジーが都市ガス大手と連携、日本の電力小売に参入拡大
はじめに
英国の電力小売り最大手オクトパスエナジーが、大阪ガスなど日本の都市ガス大手と連携し、販売網を広げようとしています。家庭向けで最大約6%安い水準の電気料金と、ガスとのセット販売による利便性を武器に、消費者の選択肢を増やす狙いです。
外資の参入が限定的だった日本の電力小売市場で、AI(人工知能)技術を駆使した英国発のエネルギー企業がどのように存在感を高めようとしているのか。本記事では、オクトパスエナジーの日本戦略と電力小売市場への影響を解説します。
オクトパスエナジーとは何者か
英国で急成長した「テック企業」
オクトパスエナジーは2016年に英国で設立された電力小売企業です。単なるエネルギー会社ではなく、テクノロジー企業としての側面が強いのが特徴です。2023年には英シェルの子会社シェル・エナジーの家庭向け電力・ガス小売事業を買収し、2026年1月には英国での電力・ガス販売で首位に立ちました。
現在は日本を含む8カ国で事業を展開し、グローバルで急速に拡大しています。
AI技術「Kraken」が競争力の源泉
同社の競争力の核心は、独自開発したエネルギープラットフォーム「Kraken(クラーケン)」にあります。高度なデータ分析と機械学習を活用し、エネルギーの供給チェーンの多くを自動化するシステムです。顧客管理の効率化、業務の合理化、コスト削減を一体的に実現し、その結果として低価格な電気料金を提供できる仕組みです。
Krakenは東京ガスにもライセンス提供されており、約300万世帯の顧客管理に活用されています。
日本市場での展開と拡大戦略
東京ガスとの合弁で事業開始
オクトパスエナジーの日本進出は、2021年の東京ガスとの合弁会社「TGオクトパスエナジー」設立に始まります。東京ガスが70%、オクトパスエナジーが30%を出資する形で、100%再生可能エネルギー由来の電力を供給しています。
2025年12月初旬時点で契約件数は50万件を突破し、前年比54%の成長を記録しています。供給エリアも首都圏から全国に拡大し、北海道から九州まで9つの電力エリアをカバーしています。
都市ガス大手との連携拡大へ
オクトパスエナジーは、東京ガスとの協業にとどまらず、大阪ガスなど他の都市ガス大手との提携を通じて販売網をさらに広げる方針です。電気とガスのセット販売により、消費者にとっての利便性を高めるとともに、大都市圏での顧客基盤を強化します。
都市ガス会社にとっても、電力自由化の競争が激化するなかで、オクトパスエナジーのAI技術を活用した料金プラン設計や顧客管理のノウハウは、自社サービスの付加価値向上に繋がるメリットがあります。
AIを使った料金プラン設計
オクトパスエナジーは、太陽光パネルを持つ家庭向けに昼間の電気料金を安くする「All-Electric Octopus Sunshine」や、EV(電気自動車)向けに夜間だけでなく昼間も割安な料金を適用する「EV Octopus」など、ライフスタイルに合わせた料金プランを展開しています。AI技術を活用して個人の電力消費パターンを分析し、最適なプランを設計する点が従来の電力会社との違いです。
注意点・今後の展望
日本の電力小売市場の課題
2016年の電力小売全面自由化以降、日本では多数の新電力が参入しましたが、2022年の電力価格高騰で経営破綻や撤退が相次ぎました。新電力のシェアは伸び悩み、消費者の間にも「電力会社を切り替えて大丈夫か」という不安が残っています。
オクトパスエナジーは英国での実績とグローバルな事業基盤を持つ点で、国内のみで展開する新電力とは異なる信頼性を訴求できますが、日本の規制環境や商慣行への適応が引き続き課題となります。
再エネ普及への貢献
オクトパスエナジーが供給する電力は100%再生可能エネルギー由来です。日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラル目標の達成に向けて、再エネ電力の選択肢を増やす役割が期待されています。
2026年以降の展開
今後はデジタルトランスフォーメーション、顧客中心の成長、家庭内エネルギー管理の3本柱で事業を強化する方針です。首都圏に加えて全国での顧客基盤拡大を進め、新たな料金オプションやプログラムの導入も計画されています。
まとめ
英国最大の電力小売企業オクトパスエナジーが、大阪ガスなど日本の都市ガス大手との連携を通じて販売網を拡大します。AI技術「Kraken」を活用した効率的な運営で最大6%安い電気料金を実現し、ガスとのセット販売で消費者の利便性も高めます。外資の参入が限定的だった日本の電力小売市場に新たな競争をもたらす動きとして注目されます。
参考資料:
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