外国人労働者230万人時代の日本が抱える排外主義の矛盾
はじめに
2024年10月末時点で、日本における外国人労働者数は230万2,587人と過去最高を更新しました。前年より約25万4千人増加し、増加率は12.4%に達しています。製造業、医療・福祉、サービス業を中心に、日本経済は外国人労働力への依存度を急速に高めています。その一方で、政治の世界では「排外主義(xenophobia)」という言葉が飛び交い、外国人受け入れへの慎重論や反対論も根強く存在します。オックスフォード大学の苅谷剛彦教授は「排外主義の裏で外国人労働への依存高く」「中国出身人材はAIやDX技術に不可欠」と指摘し、この矛盾した状況に警鐘を鳴らしています。本記事では、日本が直面する「感情と現実の乖離」を独自調査で明らかにします。
外国人労働者230万人時代の実態
過去最高を更新し続ける受け入れ数
厚生労働省の「外国人雇用状況」によれば、2024年10月末時点の外国人労働者数は230万2,587人で、前年の204万8,675人から25万3,912人増加しました。これは12年連続の増加であり、増加幅は過去最大となりました。2014年時点では約78万8千人だったことを考えると、この10年で約3倍に膨れ上がったことになります。
産業別の依存状況
産業別では、製造業が59万8,314人で全体の26.0%を占め最大です。次いでサービス業(他に分類されないもの)が15.4%、卸売業・小売業が13.0%となっています。特に製造業では、北関東や東海地方で働く外国人労働者が全体の4〜5割を占める地域もあり、地方における依存度の高さが顕著です。
産業別の詳細を見ると、食料品製造業、繊維工業、輸送用機械器具製造業などで外国人労働者割合が高くなっています。これらの業種では、日本人労働者の確保が困難であり、外国人なしには事業継続が難しい状況に陥っています。
急増する医療・福祉分野
増加率が最も高かったのは「医療、福祉」で、11万6,350人と前年比28.1%増でした。高齢化に伴う介護人材の需要増加を背景に、医療・福祉分野での外国人労働者受け入れが急拡大しています。2030年代には団塊の世代が85歳以上となり、さらなる需要増が見込まれることから、この傾向は今後も加速するでしょう。
国籍別の内訳と変化
国籍別では、ベトナムが最も多く57万708人(全体の24.8%)、次いで中国40万8,805人(17.8%)、フィリピン24万5,565人(10.7%)となっています。ベトナムがトップに立った背景には、技能実習制度や特定技能制度での受け入れ拡大があります。一方、中国からの労働者は高度人材や技術者の比率が高いのが特徴です。
「排外主義」の真の意味と日本の矛盾
Xenophobiaは感情、主義ではない
オックスフォード大学の苅谷剛彦教授は、日本経済新聞のインタビューで重要な指摘をしています。「排外主義という言葉が日本の政治の世界でも使われるようになった。英語のxenophobiaの訳語だが、『主義』という言葉が付いているため、何らかの思想をあらわす言葉に聞こえるかもしれない。だがもとの英語は『外国人嫌い』という感情を意味する」。
つまり、xenophobiaは「外国人を排斥すべきだ」という思想体系ではなく、「外国人が嫌い」という個人的な感情に過ぎません。感情があたかも思想として扱われ、政治的な意味を持つようになっているのが現状だというのです。
2024年バイデン発言の波紋
2024年5月、バイデン米大統領は日本、中国、ロシア、インドを「xenophobic(外国人嫌い)」な国と名指しし、移民を受け入れない姿勢が経済問題につながっていると示唆しました。この発言は日本政府の批判を招きましたが、データを見る限り、日本が外国人労働者を急速に増やしているのは事実であり、バイデン発言は現実と乖離していると言えます。
矛盾する現実:依存しながら排斥
苅谷教授が指摘する最大の矛盾は、「排外主義の裏で外国人労働への依存高く」という点です。製造業や医療・福祉では外国人なしに事業が成り立たないほど依存度が高まっている一方で、政治の世界では外国人受け入れ拡大への慎重論が根強く残ります。2025年の参院選でも、外国人労働者の拡大か制限かが争点となり、「排外主義の懸念」が議論されました。
入管庁が2024年3月に公表した調査では、68.3%の人が外国人に対して偏見や差別があると考えている一方で、73.0%の人が外国人との交流がなく、41.5%は外国人の知り合いがいないと回答しています。つまり、実際に外国人と接する機会がない人ほど、漠然とした「外国人嫌い」の感情を持ちやすいという構造が見えてきます。
中国人材がAI・DX分野で不可欠な理由
グローバルAI人材の4割が中国出身
苅谷教授は「中国出身人材はAIやDX技術に不可欠」と指摘しています。実際、米国の企業や研究機関に在籍する優れたAI研究者の約4割を中国の大学出身者が占めており、すでに米国の大学出身者を上回り主力を担っています。AI研究の最前線では、中国人材が欠かせない存在になっているのです。
日本企業が中国製AIを採用する理由
日本のAIベンチャーであるライトブルーとアクセプトは、中国製AIモデルQwenの日本語性能の高さ、サポート体制、柔軟なモデルサイズなどを評価して採用しています。オープンソースのAIが将来的に優勢になる可能性が高く、その場合、中国企業が提供するオープンソースAIを使わざるを得ない局面が増えると専門家は指摘します。
中国のAI人材育成計画
中国は2022年末時点で、デジタル経済の規模が50兆2,000億元(GDPの41.5%)に達しました。中国人力資源・社会保障部は、ビッグデータやAI、スマート製造、データセキュリティといったデジタル分野の新職業に重点を置き、年間約8万人のデジタルエンジニアを育成・トレーニングする計画を発表しています。
DeepSeekの衝撃
2025年1月、中国AI企業DeepSeekが発表したAIモデルが世界に衝撃を与えました。わずか2億円規模の開発費で、OpenAIなどの巨額投資に匹敵する性能を実現したとされ、「制約が生んだ中国AI」として注目されました。資金・半導体では「無し」ながら、人材は豊富で「放任」という強みを活かしたイノベーションです。創業1年半の天才集団には「2億円人材」もおり、「イノベーションには好奇心と創造的な野心」が原動力だとされています。
技能実習制度の闇:差別と搾取の実態
40%が不適切な扱いを報告
外国人労働者への依存が高まる一方で、その処遇には深刻な問題があります。日本の技能実習制度において、約40%の実習生が不適切な扱いを受けていたことが2023年の調査で明らかになりました。低賃金、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントといった差別的状況が日常的に発生しています。
国際的批判と制度改革
技能実習制度は「実質的に安価な労働力を確保する手段」として国際的な批判を受けてきました。日本政府は2024年に技能実習制度を廃止し、新たな「育成就労制度」を2027年から開始する方針を示しましたが、実効性には疑問の声もあります。外国人を「使い捨ての労働力」として扱う構造が改善されなければ、日本の国際的評価は低下し続けるでしょう。
「戻ってこない」選択をする外国人
ベトナムやフィリピンなどのアジア諸国でも経済成長が進み、自国での雇用機会が増えています。日本での差別的扱いや低賃金が改善されなければ、優秀な外国人材は日本を選ばなくなる可能性があります。すでに一部の国では、日本よりも待遇の良い韓国や台湾への出稼ぎを選ぶ傾向が出ています。
苅谷教授が提唱する「感情の曇りを除く教育」
事実の伝達が第一歩
苅谷教授は「感情の曇りを除く教育は事実の伝達から」と述べています。外国人に対する漠然とした不安や嫌悪感は、往々にして事実に基づかない先入観や偏見から生まれます。教育において、まず客観的な事実を伝えることが重要だと強調しています。
例えば、以下のような事実を正確に伝えるべきです:
- 日本の労働力人口は減少しており、外国人労働者なしに経済が成り立たない分野が増えている
- 外国人犯罪率は日本人と比べて特段高いわけではない(むしろ一部の統計では低い)
- 多くの外国人労働者が日本の法律を守り、真面目に働いている
- AI・DX分野など先端技術において、外国人材が重要な役割を果たしている
ステレオタイプからの脱却
メディアでは外国人による犯罪や問題行動が大きく報じられる一方、大多数の外国人が社会に貢献している事実はあまり報じられません。このメディア報道の偏りが、外国人に対するネガティブなステレオタイプを強化しています。教育現場では、こうしたステレオタイプを批判的に検証する力を育むことが必要です。
多文化共生教育の推進
実際に外国人と交流する機会を増やすことも重要です。前述の入管庁調査では、外国人との交流がない人ほど偏見を持ちやすい傾向が示されました。学校教育や地域活動で、外国人との対話や協働の機会を意図的に創出することで、「外国人嫌い」という感情を和らげることができるでしょう。
注意点と今後の展望
移民政策の明確化が不可欠
日本政府は「移民政策は取らない」と繰り返していますが、実態として230万人以上の外国人労働者を受け入れており、事実上の移民受け入れ国になっています。この建前と本音の乖離が、外国人の処遇改善や社会統合政策の遅れを招いています。「移民」という言葉を避けるのではなく、現実を直視した政策論議が必要です。
地方自治体の先進事例に学ぶ
一部の地方自治体では、外国人との共生に向けた先進的な取り組みが進んでいます。多言語での行政サービス提供、外国人向けの日本語教育支援、文化交流イベントの開催など、地域に根差した取り組みが成果を上げています。こうした好事例を全国に広げることが重要です。
企業の責任と役割
外国人労働者を雇用する企業には、適正な賃金支払い、労働環境の改善、日本語教育支援など、責任ある対応が求められます。短期的なコスト削減のために外国人を「安価な労働力」として扱う企業は、長期的には人材確保が困難になるでしょう。ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも、外国人労働者の処遇は重要な評価項目となっています。
AI時代の人材競争
AI・DX分野における中国人材の重要性は今後さらに高まるでしょう。日本が「外国人嫌い」の感情に基づいた政策を続ければ、優秀な外国人材を他国に奪われることになります。シリコンバレーの成功は、世界中から優秀な人材を集めたことに起因しています。日本も「開かれた国」として、人材の多様性を競争力の源泉とする発想が必要です。
まとめ
日本は外国人労働者230万人時代を迎え、製造業や医療・福祉など多くの分野で外国人なしに経済が成り立たない状況になっています。特にAI・DX分野では中国出身人材が不可欠であり、グローバルAI人材の4割を中国大学出身者が占める現実があります。
その一方で、「排外主義(xenophobia)」という感情に基づいた議論が政治の場で繰り広げられています。苅谷剛彦教授が指摘するように、これは「外国人嫌い」という感情が思想として扱われている矛盾した状況です。外国人との交流がない人ほど偏見を持ちやすく、事実に基づかない先入観が「外国人嫌い」を生み出しています。
この矛盾を解消するには、「感情の曇りを除く教育」が必要です。まず客観的な事実を伝え、ステレオタイプからの脱却を促し、多文化共生教育を推進することです。同時に、技能実習制度の改革など、外国人労働者の処遇改善も急務です。差別と搾取の構造を放置すれば、日本は優秀な人材から選ばれない国になるでしょう。
「排外主義を言える状況ではない」という苅谷教授の言葉は、現実を直視せよという警告です。感情ではなく事実に基づき、外国人との共生を真剣に考える時が来ています。
参考資料:
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