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by nicoxz

日本版ESTA「JESTA」導入へ――訪日客の事前審査が義務化

by nicoxz
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はじめに

日本政府は、訪日外国人に対する新たな事前入国審査制度「JESTA(Japan Electronic System for Travel Authorization)」を2028年度中に導入する方針を固めました。これは、短期滞在ビザが免除されている71の国・地域からの渡航者を対象に、日本への渡航前にオンラインで審査を受けることを義務付ける制度です。認証を得ていない旅行者については、航空会社などの交通事業者に搭乗を拒否するよう義務付ける内容が、入管法改正案に盛り込まれています。

2025年の訪日外国人旅行者数は約4,268万人と過去最高を記録し、インバウンド需要が拡大を続ける一方、不法滞在者は約7万1,000人に上るなど入国管理上の課題も顕在化しています。こうした背景のもと、安全保障と観光振興の両立を目指す本制度は、日本の出入国管理政策における大きな転換点となりそうです。

JESTAの仕組みと制度の全容

対象者と申請の流れ

JESTAの対象となるのは、日本との間で短期滞在ビザを免除する取り決めがある71の国・地域からの渡航者です。現在、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、韓国、台湾、シンガポールなど、多くの主要国がビザ免除対象となっており、これらの国からの観光客やビジネス渡航者がJESTAの申請対象に含まれます。

申請はオンラインで行われ、渡航者は以下の情報を事前に申告する必要があります。

  • 氏名・パスポート情報:基本的な身元確認情報
  • 職業:現在の就労状況
  • 渡航目的:観光、ビジネス、親族訪問など
  • 宿泊場所:滞在先のホテル名や住所

出入国在留管理庁がこれらの情報を審査し、問題がなければ「認証」を発行します。認証の有効期間や具体的な審査基準については、今後の政省令で詳細が定められる見通しです。

航空会社への搭乗拒否義務

今回の入管法改正案で特に注目されるのが、交通事業者に対する義務付けの規定です。JESTA認証を取得していない旅行者について、航空会社や船舶事業者は搭乗・乗船を拒否しなければなりません。これにより、リスクのある渡航者を日本到着前の段階で排除する「水際対策の前倒し」が実現します。

航空会社側は、チェックイン時にJESTA認証の有無を確認するシステムを導入する必要があり、既存の予約・搭乗管理システムとの連携が求められます。アメリカのESTA(Electronic System for Travel Authorization)では、航空会社がチェックイン時にESTA認証の確認を行う仕組みがすでに定着しており、JESTAもこの運用を参考にしたものと見られます。

手数料と財源

JESTA申請にあたっては手数料が徴収される見込みです。具体的な金額は未確定ですが、報道によると2,000円から3,000円程度が想定されています。参考として、アメリカのESTAは21米ドル(約3,200円)、EUが2026年後半に導入予定のETIAS(European Travel Information and Authorisation System)は7ユーロ(約1,100円)の申請手数料を設定しています。

徴収された手数料は、システムの運営・維持費に充てられるほか、入国審査体制の強化にも活用される見通しです。

導入の背景と「不法滞在者ゼロプラン」

増加するインバウンドと入国管理の課題

日本を訪れる外国人旅行者数は年々増加を続けています。2025年には年間約4,268万人に達し、前年比15.8%増で過去最高を更新しました。コロナ禍からの回復が一巡した後も、円安効果やアジアを中心とした旅行需要の高まりにより、訪日客数は堅調に推移しています。

一方、入国管理の現場では深刻な課題が生じています。日本国内の不法滞在者は約7万1,000人に上り、国籍別ではベトナムが最多の約1万3,000人、次いでタイ、韓国が続きます。在留資格別では、短期滞在からのオーバーステイ(不法残留)が約4万3,000人と最も多く、ビザ免除制度を利用して入国した後にそのまま滞在を続けるケースが目立ちます。

空港での入国審査も混雑が常態化しています。訪日客数の急増に対して審査官の増員が追いつかず、主要空港では入国審査に1時間以上を要するケースもあり、旅行者の利便性を損なう要因となっていました。

「不法滞在者ゼロプラン」との連動

JESTAは、出入国在留管理庁が2025年5月に発表した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」の重要施策として位置づけられています。このプランは「入国管理」「在留管理・難民審査」「出国・送還」の3段階に分け、それぞれの段階で対策を強化する包括的な計画です。

同プランでは、退去強制命令を受けた外国人の速やかな帰国実現を柱とし、入管職員の護送を伴う強制送還者数を3年後に倍増させることや、退去強制命令が確定しても日本に留まる外国人を2030年末までに半減させることが目標として掲げられています。JESTAは「入国管理」段階の中核施策として、問題のある渡航者を入国前に把握し、水際で対処する機能を担います。

在留資格手数料の大幅引き上げ

今回の入管法改正案には、JESTA導入に加えて、在留資格に関する手数料の上限引き上げも含まれています。現行法では手数料の上限が1万円と定められていますが、改正後は大幅な引き上げが見込まれています。

具体的には、在留資格の変更・更新手数料は現行の6,000円から30,000円から40,000円前後に、永住許可申請は現行の10,000円から100,000円超の水準に引き上げが検討されています。背景には、在留外国人の増加に伴い入管業務の負担が増大していることや、主要国と比較して日本の手数料が極端に低い水準にとどまっていることがあります。

世界の電子渡航認証制度との比較

先行する各国の制度

電子渡航認証制度はすでに多くの国で導入されており、JESTAは国際的な潮流に沿った施策といえます。

アメリカ ESTAは2009年に導入され、ビザ免除プログラム参加国からの渡航者に義務付けられています。申請料は21米ドルで、認証は2年間有効です。年間数千万件の申請を処理する世界最大規模の電子渡航認証システムであり、JESTAのモデルケースとなっています。

オーストラリア ETAは、渡航者に対して公式アプリからの申請を義務付けており、申請料は20豪ドル、有効期間は1年間です。3カ月以内の観光・商用目的の入国に対応しています。

EU ETIASは2026年後半に導入予定で、シェンゲン協定加盟国への渡航にあたりビザ免除国の国民に申請を義務付けます。申請料は7ユーロ、有効期間は3年間です。

韓国 K-ETAは2021年に導入されましたが、インバウンド促進のため現在は一時免除措置が2026年末まで延長されています。

JESTAの特徴と差異

JESTAが他国の制度と異なる点としては、導入時期が2028年度と比較的遅いことが挙げられます。これは後発の利点として、先行各国の運用実績やシステム上の課題を参考にできるという側面があります。また、訪日客数が年間4,000万人を超える規模であり、大量の申請を安定的に処理するシステム基盤の構築が求められます。

手数料の水準については、2,000円から3,000円程度と想定されており、アメリカのESTAと同程度ですが、日本では別途、出国時に国際観光旅客税(出国税)1,000円が課されており、2026年7月には3,000円への引き上げが予定されています。JESTAと出国税を合わせると、渡航者1人あたり約6,000円の負担となる点は、観光業界から懸念の声も上がっています。

注意点・展望

JESTAの導入は入国管理の強化と効率化に大きく寄与する一方、いくつかの課題も指摘されています。

まず、インバウンド需要への影響です。野村證券の試算によれば、ビザ手数料の引き上げにより訪日客数は年間約1.7%(63万人)減少し、インバウンド消費額は約2,840億円押し下げられる可能性があります。ただし、年間GDPへの影響は約0.05%と軽微であり、制度導入が観光立国の流れを大きく損なうことはないとの見方が主流です。

次に、システムの安定運用です。年間4,000万人超の訪日客に対応するシステムの構築には、堅牢なITインフラと多言語対応が不可欠です。申請から認証までの処理時間を短縮し、旅行者の利便性を確保することが制度の成否を左右します。

さらに、航空会社や旅行業界との連携も重要です。チェックイン時のJESTA認証確認を円滑に行うためには、航空各社の予約システムとの接続や、旅行代理店への周知徹底が必要となります。Visit Japan Webなど既存の入国手続きシステムとの統合・連携も、旅行者の負担軽減に向けた課題です。

まとめ

日本政府が2028年度中の導入を目指す電子渡航認証制度「JESTA」は、ビザ免除国からの訪日客に対して渡航前のオンライン審査を義務付け、未認証者の搭乗を禁止する画期的な制度です。「不法滞在者ゼロプラン」の一環として入国管理の強化を図るとともに、到着後の入国審査の迅速化により旅行者の利便性向上も期待されています。

アメリカのESTAやEUのETIASなど世界的に広がる電子渡航認証制度の流れに日本も加わることで、安全で開かれた国際観光の実現に向けた一歩が踏み出されます。在留資格手数料の引き上げや出国税の見直しと合わせ、日本の出入国管理政策は大きな転換期を迎えています。今後の法改正の審議や制度の詳細設計の動向に注目が集まります。

参考資料:

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