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by nicoxz

日本男子ゴルフツアーが直面する試練と若手流出

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はじめに

日本の男子ゴルフツアーが、かつてないほどの試練に直面しています。1980年代には世界最高水準を誇った賞金規模は今や米ツアーの足元にも及ばず、国内ツアーで賞金王になっても世界ランキングはトップ100にも入れない状況が続いています。

2025年末には「ジャンボ」こと尾崎将司さんが死去し、石川遼は2026年から米下部ツアーを主戦場とする決断を下しました。女子ツアーの活況とは対照的に、日本ツアーの「顔」が次々と去り、かつての黄金期の記憶は薄れつつあります。

本記事では、日本男子ゴルフツアーが直面する課題と、その背景にある構造的な問題について詳しく解説します。

日本男子ツアーの現状

試合数と賞金規模の推移

日本男子ゴルフツアーは長年にわたり、試合数の減少に苦しんできました。1990年には年間44試合が開催されていましたが、その後は年々減り続け、2000年には33試合、2007年には年間24試合まで減少しました。その後は25試合前後で推移し、2025年度も24試合という、過去最少に並ぶ試合数となっています。

賞金総額の面でも厳しい状況が続いています。2019年のZOZO選手権を除く国内22試合の賞金総額は31億円程度で、アメリカツアーの1/10にも満たない水準です。コロナ前の2018-19年シーズンの米国男子ツアー(PGA)は賞金総額3億3,260万ドル(約366億円)でしたが、2021-22年シーズンには4億8,105万ドル(約553億円)にまで増額されています。

賞金王でも世界100位に入れない現実

日本ツアーの深刻さを物語るのが、賞金王の世界ランキングです。国内ツアーで優勝を重ねて賞金王になっても、世界ランキングではトップ100にも入れないケースが続いています。

2024年の賞金王・金谷拓実選手は、PGAツアーのQスクールを突破して2025年からPGAツアーに参戦しましたが、2025年度の世界ランキングは172位からスタートしました。その後、好成績を収めて99位まで上昇しフルシード権を獲得しましたが、これは国内ツアーではなくPGAツアーでの成績によるものです。

この状況は、国内ツアーで得られる世界ランキングポイントが少ないことに起因しています。世界のトッププレーヤーが集まるPGAツアーや欧州ツアーと比較して、日本ツアーの大会は配分されるポイントが限られているためです。

ツアーの「顔」が去る

ジャンボ尾崎の死去

2025年12月23日、「ジャンボ」の愛称で親しまれた尾崎将司さんが、S状結腸がんのため78歳で亡くなりました。尾崎さんは日本ゴルフツアー通算94勝、賞金王12回という不滅の記録を持ち、青木功、中嶋常幸とともに「AON」として男子ゴルフの一時代を築いた伝説的なプレーヤーです。

高校野球の投手として1964年選抜大会で優勝した後、プロ野球西鉄に入団するも実働3年で退団し、ゴルフ選手に転身。1971年の日本プロで初優勝を飾り、現在のツアー制が施行された1973年には日本ツアーの初代賞金王に輝きました。2010年には世界ゴルフ殿堂入りも果たしています。

弔辞で青木功さんは「また一人、大切な戦友を失い寂しい気持ちでいっぱい」と語り、中嶋常幸さんは「僕が頑張ってこられたのもジャンボのおかげ。残念でならない」とコメントしました。

石川遼の米下部ツアー挑戦

2026年、石川遼選手は米下部コーンフェリーツアーを主戦場とする決断を下しました。2025年12月のQシリーズ・ファイナルステージを34位タイで終え、「6位~40位タイ」の出場カテゴリーでツアー参戦資格を獲得しています。

石川選手は2013年からPGAツアーメンバーとして参戦し、2014年にはプレーオフシリーズ2戦目まで進出した実績があります。しかし、腰痛による長期離脱などもあり2017年に出場権を喪失。2018年からは国内男子ツアーを主戦場としていました。

腰痛の克服と大幅なスイング改造を経て、33歳となった石川選手は再び世界最高峰への挑戦を決意しました。「中途半端では絶対に通用しない」と意気込みを語り、2026年1月11日のバハマでの開幕戦では、ボギーなしの「67」で暫定38位発進と好スタートを切っています。

コーンフェリーツアーからPGAツアーへの昇格条件は、年間ポイントランキング上位20人。2024年までの30人から2025年に縮小され、より狭き門となっています。

若手の海外流出

「チームジャパン」の形成

国内ツアーの低迷とは対照的に、日本の若手選手は積極的に海外に挑戦しています。現在、PGAツアーにシード権を持つ日本人選手は、松山英樹、久常涼、金谷拓実、星野陸也、大西魁斗の5人。「チームジャパン」として勢力を拡大しています。

特に久常涼選手は、国内ツアーを経ずに欧州ツアー新人王を獲得してPGAツアー入りを果たした「ツネルート」と呼ばれる独自のキャリアパスを開拓しました。中島啓太選手はPGAツアー公式の「2026年に注目すべき26歳未満の26選手」に選出されるなど、世界から注目を集めています。

欧州ツアーを経由する登竜門

日本からは国内男子ツアーの賞金ランキング上位3位までがDPワールドツアー(欧州男子ツアー)の出場権を得られる仕組みがあります。このため、日本の若手トップクラスが世界の頂点への足掛かりとして参戦する「登竜門」としての色合いが強まっています。

しかし、この仕組みは同時に、国内ツアーで活躍した選手が次々と海外に流出する要因にもなっています。2023年に国内賞金王となった中島啓太選手、2024年の金谷拓実選手と、連続して賞金王が翌年PGAツアーに参戦するという状況が続いています。

女子ツアーとの対比

盛り上がる女子ツアー

男子ツアーの低迷とは対照的に、日本の女子ゴルフツアーは活況を呈しています。2025年のJLPGAツアーは37試合が開催され、下部のステップ・アップ・ツアーも22試合と充実した日程となっています。2026年は賞金総額が史上最高の約49億円に達する見込みです。

米女子ツアーでも日本勢の活躍が目覚ましく、2025年シーズンはメジャー2勝を挙げ、年間ランクトップ25に8人がランクインしました。竹田麗央、山下美夢有、岩井明愛・千怜姉妹など、メルセデス・ランキング上位選手の海外挑戦も相次いでいます。

視聴率の逆転

男子ツアーの衰退を象徴するのが視聴率の逆転です。2006年には男子ツアーの視聴率が5%まで落ち込み、女子ツアーの視聴率を下回る結果となりました。スター選手の存在、試合展開の面白さ、そして選手の発信力など、女子ツアーは多くの面で男子を上回る魅力を打ち出すことに成功しています。

復活への取り組み

新規大会の開催

2025年度は4増4減で24試合を維持しましたが、新規大会には注目すべきものがあります。特に「前澤杯 MAEZAWA CUP」は、ZOZOの創業者・前澤友作氏が関わり、賞金総額は最大で国内男女ツアー史上最高額の4億円、優勝賞金は最大8,000万円を想定しています。

諸星裕JGTO会長は「試合数を減らすことは絶対にしたくなかった」と強調し、レギュラーツアー、下部ツアーともに交渉中の大会があることを明かしています。

課題は山積み

一方で、下部チャレンジツアーは「ABEMA」とのスポンサー契約が今季限りで終了し、2減の10試合となりました。若手選手の育成の場が縮小することは、長期的なツアーの発展にとって懸念材料です。

また、2024年の賞金王が獲得した賞金額は1億1,955万円。これは米国ツアーの賞金王が獲得する金額の10分の1以下であり、世界との格差は開く一方です。

今後の展望

LIVゴルフの影響

2022年からはサウジ政府系の投資ファンドが出資するLIVゴルフが登場し、ゴルフ界の勢力図を大きく変えています。20億ドル(約2,600億円)もの資金が投じられたとも言われ、PGAツアーも対抗して賞金をアップしました。

こうしたマネー競争に日本ツアーが参入することは現実的ではありませんが、独自の魅力を打ち出すことで一定のポジションを確保することは可能かもしれません。

ゴルフ業界の2025年問題

日本のゴルフ業界全体が「2025年問題」に直面しています。団塊世代の引退によりゴルフ人口の減少が加速することが予想され、韓国・中国からの訪日ゴルファー誘致など、新たな市場開拓が急務となっています。

男子ツアーの復活には、魅力的なスター選手の育成、放映権収入の拡大、スポンサー企業の開拓など、多角的なアプローチが必要です。石川遼選手が米下部ツアーで成功を収め、再びPGAツアーに返り咲くことができれば、日本ゴルフ界全体への波及効果も期待できるでしょう。

まとめ

日本男子ゴルフツアーは、賞金規模の低迷、試合数の減少、若手選手の海外流出という三重苦に直面しています。ジャンボ尾崎の死去は一つの時代の終わりを象徴し、石川遼の米下部ツアー挑戦は国内ツアーの空洞化をさらに加速させる可能性があります。

一方で、PGAツアーで活躍する「チームジャパン」の存在は、日本人選手の実力が世界で通用することを証明しています。国内ツアーが再び魅力を取り戻し、若手選手が「まず国内で活躍したい」と思えるような環境を整備できるかが、今後の鍵となるでしょう。

女子ツアーの成功事例を参考にしながら、日本男子ゴルフツアーの復活に向けた取り組みが続くことを期待したいと思います。

参考資料:

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