日本版ESTA「JESTA」導入へ――事前入国審査の全貌
はじめに
日本政府は、訪日外国人旅行者に対する新たな事前入国審査制度「JESTA(ジェスタ:Japan Electronic System for Travel Authorization)」を2028年度中に導入する方針を固めました。この制度では、短期滞在ビザが免除されている71の国・地域からの渡航者に対し、出発前にオンラインで入国審査を受けることを義務付けます。認証を取得していない場合、航空会社は搭乗を拒否しなければなりません。
インバウンド需要の急拡大と安全保障上の課題が同時に高まるなか、日本はどのような制度を構築しようとしているのでしょうか。本記事では、JESTAの仕組みや背景、諸外国の類似制度との比較、そして今後の展望について詳しく解説します。
JESTA制度の概要と仕組み
制度の基本構造
JESTAは、米国のESTA(Electronic System for Travel Authorization)をモデルにした電子渡航認証制度です。短期滞在ビザの免除対象となっている71の国・地域の国民が、観光や商用などの目的で日本に渡航する際、出発前にオンラインで申請を行い、出入国在留管理庁による事前審査を受ける必要があります。
申請者は、氏名やパスポート情報といった身元情報に加え、職業、渡航目的、日本国内での宿泊先や活動内容などの情報を提出します。出入国在留管理庁がこれらの情報を精査し、問題がなければ渡航認証を発行します。認証が得られなかった場合、日本行きの航空機や船舶への搭乗が認められません。
航空会社への義務付け
JESTAの実効性を担保するうえで重要なのが、航空会社に対する法的義務の付与です。政府は入管法改正案において、航空会社に対し、チェックイン時にJESTA認証の有無を確認し、未取得の旅客には搭乗を拒否するよう義務付ける方針です。航空会社はDCS(出発管理システム)をアップグレードし、認証の自動検証を行う体制を整える必要があります。
この仕組みは、米国のESTAにおいてすでに運用されている枠組みと同様のものです。未認証の旅客を日本に輸送した航空会社には、ペナルティが科される可能性も示唆されています。
導入の背景
JESTAが構想された背景には、大きく2つの課題があります。
第一に、不法滞在の増加への対応です。2024年1月時点で日本国内の不法滞在者数は約7万5,000人に上り、そのうち約2万8,000人がビザ免除国からの入国者でした。事前審査を導入することで、不法滞在やオーバーステイ、犯罪、テロなどのリスクがある渡航者を水際段階で選別できるようになります。
第二に、入国審査の効率化です。政府は訪日外国人数を年間6,000万人まで拡大する目標を掲げていますが、現行の入国審査体制ではこれだけの旅客数に対応することが困難です。JESTA認証を取得した渡航者は、到着後に審査端末で顔写真と指紋を登録し、問題がなければ自動化ゲートを通過して迅速に入国手続きを終えることが可能になります。これにより、審査現場の負担軽減と入国手続きの大幅な短縮が見込まれています。
手数料の徴収
JESTAの申請には手数料が徴収される予定です。具体的な金額や支払い方法はまだ決定されていませんが、米国ESTAの手数料(21ドル、約3,000円)が一つの参考指標となっています。なお、2025年10月以降、米国のESTA手数料は40ドルに引き上げられています。この手数料収入は、制度の運営費や外国人との共生施策に充当される見通しです。
米国ESTAとの比較、各国の類似制度
米国ESTA――先行する電子渡航認証制度
米国のESTAは2009年1月に義務化された電子渡航認証制度で、ビザ免除プログラム(VWP)の対象となる40カ国の国民がアメリカに渡航する際に事前申請が必要となります。日本もVWP対象国であるため、日本人が米国に渡航する際にはESTAの取得が必要です。
ESTAの認証は2年間有効で、渡米の72時間以上前に申請することが推奨されています。承認されなかった場合は航空機への搭乗が拒否されます。JESTAはこのESTAの仕組みを大きく参考にしており、オンライン申請、事前スクリーニング、航空会社による搭乗前確認という基本的な枠組みは共通しています。
EU・英国・韓国・カナダの制度
電子渡航認証制度は世界的に広がりを見せています。
EUでは「ETIAS(European Travel Information and Authorisation System)」が2026年後半に導入される予定で、シェンゲン域内への渡航にあたり、ビザ免除国の国民に事前認証を義務付けます。申請料は18歳から70歳の渡航者に対して20ユーロです。
韓国では「K-ETA(Korea Electronic Travel Authorization)」がすでに運用されており、ビザ免除国からの渡航者に事前申請を求めています。カナダの「eTA(Electronic Travel Authorization)」も同様の仕組みを採用しています。英国でも「ETA(Electronic Travel Authorisation)」が導入されています。
JESTAは、これら先行する各国の制度を参考にしつつ、日本独自の要件や審査基準を盛り込んだ制度として設計されています。
JESTA独自のポイント
JESTAが他国の制度と異なる点として注目されるのが、対象国の多さです。71の国・地域が対象となる見込みで、米国ESTA(約40カ国)やカナダeTA(約50カ国)と比較しても広範です。対象国には、米国、英国、カナダ、オーストラリア、韓国、台湾、シンガポール、タイ、インドネシア、EU諸国など、主要な訪日客送出国が含まれています。
また、JESTAの導入は、当初2030年までとされていた目標が2028年度中に前倒しされており、政府のインバウンド政策における優先度の高さがうかがえます。
注意点・展望
在留資格手数料の大幅引き上げ
今回の入管法改正案では、JESTAの導入と並んで、在留資格に関する手数料の大幅な引き上げも盛り込まれています。現行の入管法では手数料の上限が1万円と定められていますが、改正案ではこの上限が引き上げられる見通しです。
具体的には、在留期間の更新・変更手数料が現行の6,000円から3万〜4万円程度に、永住許可申請の手数料が現行の1万円から10万円以上にそれぞれ引き上げられる方向で検討が進んでいます。この見直しは欧米諸国の手数料水準とのバランスを取る狙いがあり、増収分は外国人との共生施策の拡充に充てられる予定です。2026年度中の施行が見込まれています。
旅行者・旅行業界への影響
JESTAの導入により、訪日旅行者は渡航前に新たな手続きが加わることになります。特に、これまでビザなしで気軽に日本を訪れていた国の旅行者にとっては、事前申請という新しいステップが必要になります。旅行会社やオンライン旅行予約サイトにおいても、JESTA取得に関する案内や注意喚起が求められるようになるでしょう。
一方で、事前認証を取得済みの旅行者にとっては、到着時の入国審査が大幅に迅速化されるというメリットがあります。自動化ゲートの利用により、長時間の入国審査待ちが解消される可能性があり、旅行者の利便性向上にもつながると期待されています。
制度設計上の課題
JESTA導入にあたっては、いくつかの課題も指摘されています。システムの安定運用体制の構築、個人情報保護への配慮、航空会社や船会社のシステム対応コスト、申請時のユーザビリティの確保、そして認証が拒否された場合の異議申し立て手続きの整備などが挙げられます。
また、2028年度中という導入スケジュールに対し、システム開発や法整備、関係機関との調整が間に合うかどうかも注視が必要です。
まとめ
JESTA(ジェスタ)は、日本が訪日外国人6,000万人時代を見据えて導入する事前入国審査制度です。短期滞在ビザ免除の71カ国・地域の渡航者に対し、出発前のオンライン認証を義務付け、未取得者には航空会社が搭乗を拒否するという強制力のある仕組みとなっています。
不法滞在や犯罪・テロのリスクを水際で抑止しつつ、事前審査済みの旅行者にはスムーズな入国を実現するという、安全と利便性の両立を目指す制度です。米国ESTA、EU ETIAS、韓国K-ETAなど世界的な潮流に沿った動きであり、日本のインバウンド政策における重要な転換点となるでしょう。
2028年度の制度開始に向け、今後の法改正の審議やシステム構築の進捗に注目が集まります。
参考資料
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