民泊規制が急速に強化、事業者が迫られる転換点
はじめに
訪日外国人旅行者の急増とともに普及してきた民泊が、大きな転換点を迎えています。騒音やゴミ出しルール違反といった住民トラブルの深刻化を受け、東京都豊島区では年間営業日数を大幅に制限する条例が可決され、大阪市では特区民泊の新規申請受け付けを停止する方針が示されました。
民泊事業者にとっては、事業の存続そのものに関わる規制強化です。パナソニックホームズが民泊用に建設予定だった物件の賃貸転用を検討するなど、業界全体に動揺が広がっています。
本記事では、各地で進む規制強化の全容と背景、そして事業者が取り得る対応策について解説します。
全国に広がる民泊規制の波
豊島区:営業日数120日に制限、既存施設にも適用
東京都豊島区は2025年12月に民泊規制条例を可決しました。年間の営業日数上限を120日とし、営業できる期間を夏休み(7〜8月)、冬休み(12月15日〜1月14日)、春休み(3月15日〜4月10日)に限定しています。
注目すべきは、この規制が既存施設にも遡及適用される点です。適用開始は2026年12月16日からで、現在営業中の事業者も対応を迫られます。また、新規開設を禁止する地域は区の面積の5割から7割に拡大され、住居専用地域・文教地区に加え、住居地域や準工業地域も対象となります。
豊島区の民泊施設数は2024年度時点で1,473件と前年度比5割増加しており、民泊に関する区への苦情は120件に上りました。町会長へのアンケートでは、ゴミ出しや騒音に困った経験があるとの回答が全体の7割を占めています。
大阪市:特区民泊の新規申請を停止へ
大阪市は国家戦略特区を活用した「特区民泊」の新規申請受け付けを2026年半ばに停止する方向で動いています。大阪市の特区民泊届出件数は7,000件を突破し、2024年度の苦情件数は399件と前年度比で倍増しました。
特区民泊では、本来禁止されている1泊での宿泊を受け入れる施設が後を絶たないなど、ルール違反が横行している実態があります。事業者の半数近くが外国籍の人による経営で、住民の苦情に対する迅速な対応ができないという構造的な問題も指摘されています。
大阪府寝屋川市は2025年8月に国家戦略特区のエリアからの離脱を表明しており、特区民泊制度そのものへの不信感が広がっています。
東京23区全体に波及
民泊規制の動きは豊島区にとどまりません。東京23区では4区が新たに営業制限を設ける予定で、江戸川区を除く22区に規制が広がる見通しです。新宿区では2024年度の苦情が561件と大幅に増加しており、墨田区でも平日営業を原則禁止とする条例見直しが検討されています。
トラブルの実態と住民の不満
騒音・ゴミ問題が最多
観光庁の調査によると、民泊に関する近隣からの苦情のうち「騒音」が最も多く全体の10.7%を占めます。「ゴミ出し」に関する苦情も4.7%あり、深夜の大声や分別ルール違反が住民の生活を脅かしています。
民泊施設は一般住宅やマンションの一室で営業されることが多く、旅行者が頻繁に出入りすることで、オートロックの意味がなくなったり、共用部分の汚損が発生したりするケースも報告されています。
無届け民泊の横行
2025年9月時点で民泊届出件数は3万5,246件に達していますが、実際にはこの数字に含まれない無届け民泊も多数存在するとみられています。2025年4月施行の建築基準法改正により、違法民泊への立ち入り検査や罰則が強化されましたが、取り締まりが追いついていない状況です。
観光庁は2026年度に稼働予定の新システムで、違法民泊を仲介サイトから排除し、特区民泊や簡易宿所も一元管理する計画を進めています。
事業者の対応策と今後の選択肢
賃貸への転用を検討する動き
パナソニックホームズは、民泊用に建設予定だった物件について、規制により営業できない場合は賃貸住宅への転用も検討する方針を示しています。同社の営業戦略部は「急な話で困っている」と規制の急速な展開に不満を示しています。
民泊事業者にとって、営業日数が120日に制限されると収益性が大幅に低下するため、事業モデルの根本的な見直しが必要になります。
簡易宿所への切り替え
営業日数の制限を回避する方法として、旅館業法に基づく簡易宿所営業許可の取得があります。簡易宿所であれば年間365日の営業が可能です。ただし、消防設備の拡充や建築基準法への適合など厳しい基準をクリアする必要があり、数百万円規模の投資が求められます。
管理体制の強化
一部の自治体では、24時間常駐管理体制を確保できる場合に規制の例外を認める仕組みも検討されています。管理体制を充実させることで、住民とのトラブルを減らしながら営業を続ける道も残されています。
注意点・展望
規制と観光振興のバランス
民泊は訪日客の宿泊先不足を補う重要なインフラです。規制を強化しすぎると、宿泊施設の供給不足を招き、観光産業全体に悪影響を及ぼす可能性があります。住民の生活環境と観光振興のバランスをどう取るかが、今後の政策課題です。
2026年後半以降の動向に注目
豊島区の条例は2026年12月16日から適用されるため、それまでの約1年間が事業者にとっての準備期間です。他の自治体の動向も含め、2026年後半は民泊業界にとって大きな転機となる見通しです。
まとめ
民泊をめぐる規制強化は、騒音やゴミ問題など住民トラブルの深刻化が直接の引き金です。豊島区の120日制限や大阪市の新規停止は、民泊事業者にとって事業モデルの再検討を迫る動きです。
事業者には、簡易宿所への転換、賃貸への転用、管理体制の強化といった選択肢があります。一方で、規制の急速な展開に対する事業者の反発も根強く、今後は住民の生活環境と観光振興の両立に向けた議論がさらに活発化する見通しです。
参考資料:
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