片山財務相が円安けん制、「あらゆる手段排除せず」
はじめに
片山さつき財務相は2026年1月14日、外国為替市場での円安進行に対し「投機的な動きを含めて行き過ぎた動きに対しては、あらゆる手段を排除せずに適切な対応をとる」と発言しました。
円相場は160円という心理的節目に接近しており、政府・日銀による為替介入への警戒感が高まっています。片山財務相は直前の訪米でベッセント米財務長官とも会談し、一方的な円安に対する懸念を共有したことを明らかにしました。
本記事では、片山財務相の発言の背景と円安の現状、そして今後の見通しについて解説します。
片山財務相の発言内容
「あらゆる手段を排除せず」
片山さつき財務相は1月14日、首相官邸で高市早苗首相と面会した後、記者団の取材に応じました。
外国為替市場での円安進行について「投機的な動きを含めて行き過ぎた動きに対しては、あらゆる手段を排除せずに適切な対応をとる」と述べ、為替介入も選択肢に含める姿勢を示しました。
また、為替相場について「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映して安定に戻ってもらわないと困る」と発言し、現在の円安水準が経済の実態と乖離しているとの認識を示しました。
ベッセント米財務長官との会談
片山財務相は12日、米ワシントンで開催された重要鉱物に関するG7財務相会合に出席し、ベッセント米財務長官と個別に会談しました。
会談では、「9日に一方的に円安が進んだ場面が見られた」として、為替動向を「憂慮していることを伝え、長官もこうした認識を共有した」と明らかにしました。
財務省幹部によると、為替相場への対応について、必要に応じて日米の大臣代理レベルで連絡を取りあうことも確認されたとのことです。片山財務相の会見後、円は対ドルで一時157円台後半まで上昇する場面がありました。
円安の現状と背景
160円接近への警戒
ドル円相場は、政府・日銀による円買い介入が最後に実施された2024年7月以来の水準まで上昇しています。2024年は160円の大台超えで為替介入が行われており、2026年も同水準は大きな節目として注目されています。
ただし、1月14日に片山財務相や城内経済財政相など政府高官が円安をけん制(口先介入)しましたが、市場の反応は限定的でした。高市首相が自民党幹部に衆院解散の意向を伝達したと伝わると、日本の財政悪化への懸念から円売りが優勢となり、ドル円は159円台まで上昇しました。
日銀の金利政策
日銀は2025年12月の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%程度まで引き上げることを決定しました。1995年以降の政策金利が0.50%以下であったため、実に30年ぶりの金利水準となりました。
背景には円安是正の意図があり、円安は物価上昇圧力となるため、1ドル160円の手前で止めておきたいという点で、政府と日銀は政策目標を一致させています。
しかし、日銀の利上げ意向が明らかになったにもかかわらず、円安の流れが止まっていないのが意外な状況です。日米金利差の縮小でも為替が円安に振れる矛盾について、専門家は「潜在的な円安圧力が日米金利差の縮小という変化を上回っている」と分析しています。
構造的な円安要因
現在の円安の背景には複数の要因があります。
まず、日米の金利差が依然として大きいことが挙げられます。アメリカはインフレ対策として大幅な利上げを実施し、長期金利が4%台で推移しています。IMFの見通しによると、2025年のアメリカの経済成長率は2.0%と底堅く、FRBが大幅な利下げを急ぐ必要がない状況です。
また、高市政権の拡張的な財政政策と日銀の緩やかな利上げペースを材料とする投機的な円売りも影響しているとみられています。日本のインフレリスクや財政不安が、金利差縮小という変化を上回る円安圧力となっている可能性があります。
円安が日本経済に与える影響
物価高への影響
円安が進むと、輸入品やエネルギー価格が上昇し、生活費が押し上げられます。日本は食料品やエネルギーの多くを輸入に頼っているため、物価が為替レートの影響を大きく受けます。
日本銀行の「輸入物価指数」によると、「石油・石炭・天然ガス」は2020年を100とすると、契約通貨ベースでは175.8でしたが、円ベースでは247.6とさらに高い水準になっています。
第一生命経済研究所の試算によると、2026年の家計の一人あたり負担増加額は前年から約2.2万円(4人家族で約8.9万円)の増加が見込まれています。
企業への影響
日本経済は「K字型」と呼ばれる二極化の状態にあります。大企業・輸出企業は円安のメリットを享受できる一方、中小企業は輸入コストの高騰を価格に転嫁しにくく、利益が減りやすい傾向があります。
2025年度上半期の倒産は5,172件で12年ぶりの高水準となり、2025年1〜11月の倒産は9,372件と2年連続で1万件超えが確実な状況です。負債1億円未満の小規模倒産が7割超を占めており、中小企業の厳しい経営環境が浮き彫りになっています。
また、円安になっても輸出数量は増えにくくなっています。2022年から2024年まで3年連続で輸出数量指数はマイナスを記録しました。リーマンショック後の円高時代に生産拠点が海外へ移転し、円安メリットが国内に波及しにくい構造になったことが背景にあります。
注意点・展望
為替介入の可能性
2024年は160円の大台超えで為替介入が実施されました。2026年も160円という水準は大きな節目であり、同水準を超えるような円安となる場合には為替介入が入るとみられています。
ただし、為替介入は一時的な効果にとどまることが多く、根本的な解決策にはなりません。構造的な円安要因が解消されない限り、介入後も再び円安方向に振れる可能性があります。
今後の見通し
三井住友DSアセットマネジメントの予測によると、2026年のドル円相場は目先ドル高・円安方向に振れやすい状況が続くものの、時間の経過とともにドル安・円高方向へ緩やかに転じていくと予想されています。年末着地水準は150円に設定されています。
野村證券は、2026年後半の米ドル円は1ドル150円を再び割り込み、140円台前半に向けて調整すると予想しています。日銀利上げとFRB利下げにより、キャリー選好に基づく円安・米ドル高圧力はピークアウトが見込まれるとしています。
高市政権への影響
さらなる円安の進行は、輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力を高めるため、高市首相にとってリスク要因となります。物価高は国民の生活に直結する問題であり、政権支持率にも影響を与える可能性があります。
円安リスクを意識し高市政権が利上げ容認の姿勢を打ち出す場合は、年内に1.25%への利上げを強く織り込む可能性も指摘されています。
まとめ
片山さつき財務相は1月14日、円安進行に対し「あらゆる手段を排除せず適切に対応する」と発言し、為替介入も選択肢に含める姿勢を示しました。
ベッセント米財務長官との会談でも一方的な円安への懸念を共有しており、政府として円安対策に注力していく姿勢を明確にしました。
円相場は160円という心理的節目に接近しており、政府・日銀による為替介入への警戒感が高まっています。しかし、日米金利差や財政不安など構造的な円安要因が解消されない限り、一時的な介入効果にとどまる可能性もあります。
物価高が国民生活に影響を与える中、政府・日銀の対応が注目されます。
参考資料:
- 片山財務相「あらゆる手段排除せず」 円安進行をけん制 - Bloomberg
- 片山財務相「一方的な円安を憂慮」、ベッセント米財務長官と認識共有 - Bloomberg
- G7財務相、重要鉱物サプライチェーン巡り協議 - 時事ドットコム
- 円安はいつまで続く?2026年1月、今後の見通し - ORICON
- 2026年のドル円相場見通し - 三井住友DSアセットマネジメント
- 2026年の為替見通し - 野村證券
- 追加利上げで政策金利0.75%へ - 第一生命経済研究所
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