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by nicoxz

円安でも強い経済は実現可能か?高市首相の戦略とリスク

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はじめに

2026年1月末、高市早苗首相が選挙応援演説で発した「円安でホクホク」という言葉が大きな波紋を呼びました。この発言は「円安容認」と受け止められ、直後の為替市場では1円70銭程度の円安ドル高が進行しています。

高市首相はその後、「為替変動にびくともしない日本をつくる」と釈明しましたが、「弱い円でも強い日本」は本当に実現可能なのでしょうか。本記事では、円安が日本経済に与える影響を整理し、超円安のリスクと高市政権の経済戦略を検証します。

高市首相の為替スタンスと経済政策

「円安ホクホク」発言の真意

高市首相は2026年1月31日の川崎市での応援演説で、円安について「輸出産業にとっては大チャンス」「外為特会は円安で助かっている。ホクホク状態だ」と発言しました。翌日にはSNS上で「円高と円安のどちらが良くてどちらが悪いということではなく、為替変動にも強い経済構造を作りたいとの趣旨」と弁明しています。

この発言の背景には、2025年10月の所信表明演説で掲げた「責任ある積極財政」路線があります。補正予算は事業規模42.8兆円に達し、「日本成長戦略本部」を設立してAI・半導体など17分野を重点投資対象に指定しました。

積極財政がもたらす円安圧力

大和総研は、高市政権の財政拡張的な政策スタンスが円安を助長する可能性を指摘しています。歴史的に見ても、財政赤字の拡大は通貨安につながりやすく、積極財政と「為替変動に強い経済」の両立は容易ではありません。

市場関係者は高市首相の発言を「円安容認」と解釈する傾向にあり、投機的な円売りを誘発するリスクも懸念されています。首相は投機的な為替の動きに対しては「しっかりと注視する」「必要な対応を打つ」と為替介入も示唆していますが、口先介入の効果には限界があります。

円安の光と影——メリットとデメリットの再検証

円安がもたらす恩恵

円安には一定のメリットがあります。輸出企業の競争力が向上し、自動車や電子機器メーカーの円建て利益が増加します。インバウンド観光も活性化し、海外旅行者にとって日本が「お得な旅行先」となります。外為特会の含み益も拡大し、政府の財政にはプラスに作用します。

海外子会社の円建て利益が膨らむ効果もあり、大企業の決算では為替差益が業績を押し上げるケースが目立ちます。

「74%がマイナス」と回答する理由

しかし、2026年の経済学者調査では74%が円安を日本経済にとって「マイナス」と回答しています。その理由は明確です。

日本はエネルギーと食料品の大部分を輸入に依存しており、円安は直接的に輸入コストの上昇につながります。ガソリン、電気代、食品価格の上昇は家計を圧迫し、特に所得の低い層ほど影響が大きくなります。

中小企業にとっても、原材料の輸入コスト増は深刻です。大企業のように海外拠点を持たず、為替ヘッジの手段も限られる中小企業は、円安の恩恵を受けにくい構造にあります。

製造業の海外移転が変えた構造

かつて日本が「輸出大国」だった時代は、円安が経済全体に恩恵をもたらしました。しかし、製造業の海外移転が進んだ現在、円安の恩恵は限定的です。日本企業の多くは生産拠点を海外に移しており、円安になっても国内の雇用や投資が大幅に増えるわけではありません。

みずほ銀行は高市首相の発言に対し、異例の警鐘レポートを発表しました。「為替が是正されれば日本企業が劇的に変わる」という認識は「時代遅れの価値観」であり、「前時代的な発想」だと指摘しています。

超円安の危険性と実質賃金への影響

実質賃金の行方

日本の実質賃金は4年連続でマイナスが続きました。2026年1月にようやくプラス転化の兆しが出ていますが、円安が再加速すれば企業の値上げが積極化し、再びマイナス圏に沈むリスクがあります。

日銀も「企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」と指摘しています。つまり、円安が物価に転嫁されやすい環境にあるということです。

「弱い通貨でも強い経済」は可能か

歴史的に見ると、通貨安と経済の強さは必ずしも一致しません。米国は2002年から2008年にかけてドルが約25%下落しましたが、経済は好調でした。韓国も弱いウォンを活用して輸出主導型の成長を実現しています。

しかし、日本の場合は構造的な課題があります。少子高齢化による労働力不足、製造業の海外移転、エネルギー自給率の低さなど、「弱い円」の恩恵を最大化しにくい条件が揃っています。欧州経済政策研究センター(CEPR)は「強い経済=強い通貨」の法則には多くの例外があると分析していますが、日本の場合は例外に当てはまりにくい構造です。

注意点・展望

2026年の為替見通し

為替の先行きについて、野村證券は2026年前半は円安圧力が持続し、後半に140円台前半へ調整すると予想しています。三井住友DSアセットマネジメントは155円中心から150円中心へのレンジ移行を見込んでいます。

日銀は2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げており、半年に1回程度のペースで追加利上げが見込まれます。FRBの利下げと日銀の利上げにより日米金利差が縮小すれば、キャリートレードの巻き戻しで円高方向に転じる可能性があります。

リスクシナリオ

最大のリスクは、トランプ政権の関税政策によるインフレ再燃です。米国のインフレが再加速すれば、FRBの利下げが停滞し、日米金利差が縮小しないまま円安が長期化する恐れがあります。高市政権の積極財政路線もまた、財政赤字の拡大を通じて円安圧力として作用する可能性があります。

まとめ

「弱い円でも強い日本」の実現は、理論的には不可能ではありませんが、現在の日本の経済構造では難しい課題です。製造業の海外移転が進み、エネルギー・食料を輸入に依存する日本にとって、円安は家計や中小企業を圧迫する方向に作用しやすいためです。

高市首相が掲げる「為替変動に強い経済構造」を本気で実現するなら、AI・半導体への重点投資や産業構造の転換を加速させる必要があります。短期的な為替水準に一喜一憂するのではなく、中長期的な構造改革の進捗こそが「強い日本」を決定づける鍵となるでしょう。

参考資料:

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