川崎重工が株価最高値を更新した背景と防衛関連株の展望
はじめに
2026年1月13日、東京株式市場で川崎重工業(7012)の株価が急騰し、株式併合考慮後の上場来高値を更新しました。前週末比930円(7.51%)高の1万3300円まで買われ、2025年10月27日以来約3か月ぶりの高値更新となっています。
背景にあるのは、高市早苗首相が通常国会の冒頭で衆議院を解散するとの観測が浮上したことです。総選挙で与党が議席を増やせば、積極財政路線が加速するとの思惑から、防衛関連株を中心に幅広い銘柄に買いが入りました。
この記事では、川崎重工の株価上昇の背景、防衛事業の現状、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
日経平均が初の5万3000円台を記録
衆院解散観測が市場を動かした
1月13日の日経平均株価は前週末比1609円(3.10%)高の5万3549円で取引を終え、史上初めて5万3000円台に乗せました。一時は1874円90銭高の5万3814円79銭まで上昇する場面もありました。
きっかけとなったのは、1月9日夜に読売新聞が報じた「高市首相が23日召集予定の通常国会の冒頭で衆院を解散する検討に入った」というニュースです。この報道を受けて、大阪証券取引所の日経225先物(3月限)は10日午前6時の終値で5万3590円と、報道前から2.47%上昇しました。
「高市トレード」第2幕の幕開け
市場関係者の間では「高市トレード第2幕」という言葉が使われています。2025年10月の高市政権発足時に見られた、防衛・半導体関連株への買いが再燃したのです。
高市政権が戦略分野に掲げるAI・半導体関連の上昇も目立ち、アドバンテストと東京エレクトロン、ソフトバンクグループの3銘柄だけで日経平均を約870円押し上げました。
円安の進行も追い風となっています。1月13日にはドル・円相場が1年半ぶりの円安水準まで下落し、輸出比率の高い日本企業の収益改善期待が高まりました。
川崎重工の防衛事業と成長戦略
国内防衛産業の中核企業
川崎重工業は三菱重工業、IHIと並ぶ「防衛三羽烏」の一角を占めています。2015年度の防衛中央調達額では三菱重工業を抜いて日本第1位、世界第28位の実績があります。
同社のグループ全体の売上高(2023年3月期)は1兆7256億円で、このうち防衛事業が約2400億円(14%)を占めています。しかし、政府の防衛力強化方針を受けて事業規模は急拡大しており、2023年度の防衛装備品の契約額は3886億円と前年度から倍増しました。
2030年度には防衛事業の売上高を5000億〜7000億円に引き上げる計画を発表しています。
潜水艦事業での圧倒的な存在感
川崎重工の強みは潜水艦事業にあります。国内で潜水艦を製造できるのは川崎重工と三菱重工業の2社のみという寡占市場です。海上自衛隊が保有する25隻の潜水艦のうち、12隻が川崎重工で建造されました。
2025年3月には最新鋭の潜水艦「らいげい」を防衛省に引き渡しています。これは「たいげい」型潜水艦の4隻目で、リチウムイオン電池採用による高い潜航性能や、高性能ソーナーによる捜索能力の向上、ステルス性能の向上などが図られています。
指名停止問題からの回復
一方で、川崎重工は不祥事の影響も受けています。2024年12月には、潜水艦向け発電用ディーゼルエンジンの検査で長期にわたり不正を行っていたことが発覚し、防衛省から2.5か月間の指名停止処分を受けました。
また、2018〜2023年度の6年間で計17億円の架空取引が行われていたことも明らかになっています。しかし、これらの問題は一時的なものと捉えられ、防衛費増額という大きな流れの中で株価への影響は限定的でした。
防衛費増額が追い風に
GDP比2%を2年前倒しで達成
日本の防衛費は急速に拡大しています。2025年度の防衛費総額は約11兆円まで膨らみ、GDP比2%という政府目標を当初予定より2年前倒しで達成しました。
2022年12月に決定した「防衛力整備計画」では、2027年度までの5年間で総額43兆円を投じる方針が示されています。この「防衛特需」が川崎重工をはじめとする防衛関連企業の業績を押し上げています。
重工大手3社の成長計画
防衛費拡大の恩恵を最も受けているのが、三菱重工業、川崎重工業、IHIの重工大手3社です。
- 三菱重工業: 防衛事業売上高を2022年度の5000億円弱から、2024〜2026年度に年間1兆円規模へ
- 川崎重工業: 2030年度に5000億〜7000億円(2022年度は2400億円)
- IHI: 2030年度に2500億円(2022年度は1000億円規模)
いずれも防衛事業を大幅に拡大する計画を掲げています。
衆院解散のシナリオと市場への影響
通常国会冒頭解散の可能性
高市首相が検討しているとされる衆院解散のシナリオは、1月23日召集の通常国会の冒頭での解散です。実現すれば「1月27日公示―2月8日投開票」または「2月3日公示―15日投開票」という日程が想定されています。
早期解散を検討する背景には、内閣支持率の高さがあります。読売新聞の世論調査では政権発足時に71%、12月時点でも73%と高水準を維持しています。この勢いを活かして議席を増やし、政権基盤を強化する狙いがあると見られています。
市場が期待する政策推進
市場が期待しているのは、総選挙での与党勝利による政策推進力の強化です。高市政権は17の重点投資分野を掲げており、その中には防衛産業も含まれています。
与党が議席を増やせば、防衛費のさらなる増額や、防衛装備品の輸出拡大といった政策が推進しやすくなるとの期待があります。
注意点と今後の展望
早期解散への慎重論も
一方で、早期解散には慎重論もあります。通常国会冒頭での解散となれば、2026年度予算案の成立が4月以降に遅れる可能性があります。また、「解散の大義に欠ける」という批判も出ています。
与野党からは異論の声も上がっており、解散の実現には不確定要素が残ります。
防衛装備品輸出という次の成長機会
防衛産業にとって次の焦点は、装備品の輸出拡大です。2023年12月に政府は「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定し、輸出の条件を緩和しました。
2026年は輸出拡大の「分水嶺」になる可能性があります。国内需要だけでなく、海外市場への進出が重工大手の成長を左右する重要な要素となっています。
地政学リスクの影響
ウクライナ戦争の長期化や、中国の軍拡、台湾海峡の緊張など、地政学リスクは高止まりしています。トランプ米大統領が2027会計年度の国防予算について「1.5兆ドルにやすやすと到達できる」と発言したことも、世界的な防衛産業への追い風となっています。
まとめ
川崎重工業の株価上場来高値更新は、衆院解散観測と防衛費増額期待が重なった結果です。「高市トレード第2幕」として、防衛関連株への買いが再燃しています。
川崎重工は潜水艦事業を中心に国内防衛産業で確固たる地位を築いており、政府の防衛力強化方針による恩恵を受けています。2030年度には防衛事業売上高を現在の2〜3倍に拡大する計画です。
ただし、衆院解散の実現には不確定要素があり、検査不正問題などのリスクも存在します。投資判断にあたっては、政治動向と企業のガバナンス改善の両面に注目する必要があります。
参考資料:
関連記事
日経平均が初の5万4000円台突破、衆院解散観測で高市トレード再燃
2026年1月14日、日経平均株価が史上初めて5万4000円台に到達。高市首相の通常国会冒頭での衆院解散観測を背景に「高市トレード」が再燃し、海外投機筋の買いが相場を押し上げています。
日経平均5万3500円突破、高市トレード再燃で史上最高値
衆院解散観測を受けて「高市トレード」が再加速し、日経平均株価が初の5万3000円台に到達。防衛・半導体銘柄が主導した歴史的高値更新の背景と今後の展望を解説します。
日経平均が史上初の5万3000円台、衆院解散観測で急騰
日経平均株価が史上初の5万3000円台を記録。高市早苗首相の衆院解散検討報道を受け、積極財政継続への期待から「高市トレード」が再燃しています。
日経平均5万4千円突破、選挙アノマリーの実力
日経平均株価が史上初の5万4000円台を記録。高市首相の衆院解散観測が株高を後押しした背景と、「選挙は買い」の投資アノマリーについて、過去データを交えて解説します。
日経平均5万4000円突破、衆院解散観測で高市トレード加速
衆議院解散観測を背景に日経平均株価が5万4000円台に乗せ、連日最高値を更新。「選挙は買い」のアノマリーと高市トレードの実態、6万円到達の可能性を解説します。
最新ニュース
南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦
探査船「ちきゅう」が南鳥島沖でレアアース泥の試掘を開始。水深6000メートルからの世界初の採掘試験と、日本の経済安全保障における意義を解説します。
1年4カ月で国政選挙3回、頻繁な選挙が招く政策停滞
高市首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討。国政選挙が短期間に3回目となり、社会保障改革など長期的視点の政策が後回しになる懸念が高まっています。
第174回芥川賞・直木賞が決定、3氏が受賞の栄誉
第174回芥川賞に鳥山まこと氏「時の家」と畠山丑雄氏「叫び」、直木賞に嶋津輝氏「カフェーの帰り道」が決定。前回の両賞該当なしから一転、充実の受賞作が揃いました。受賞作の魅力と作家の経歴を詳しく解説します。
日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
証券取引APIを提供するフィンテック企業アルパカが企業価値10億ドルを突破。日本人だけで創業した新興企業として米国初のユニコーン達成の背景を解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。