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by nicoxz

近大が世界初ノドグロ完全養殖、事業化への道筋

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はじめに

近畿大学水産研究所が、高級魚ノドグロ(標準和名:アカムツ)の完全養殖に世界で初めて成功したと発表しました。2026年2月5日の発表によると、富山実験場(富山県射水市)で人工種苗から育てた親魚からの採卵・ふ化に成功し、完全養殖のサイクルを確立しています。

近畿大学といえば、2002年にクロマグロの完全養殖に世界で初めて成功した実績で知られます。「近大マグロ」に続く今回の快挙は、日本の水産養殖技術の高さを改めて示すものです。

本記事では、ノドグロ完全養殖の技術的な背景と、事業化に向けた計画について詳しく解説します。

ノドグロとはどんな魚か

「白身のトロ」と呼ばれる高級魚

ノドグロは北陸から九州の日本海側に生息する深海魚です。脂質が豊富で、上品な甘みと濃厚な旨味から「白身のトロ」とも呼ばれています。刺身、焼き物、煮付けなど幅広い調理法で楽しめる魚です。

豊洲市場(東京・江東)ではマダイの10倍、マグロの5倍の高値がつくこともある希少な高級魚です。小さくてもキロあたり2,000円以上、大型の釣り物では1万円以上の値がつきます。

漁獲量の減少と価格上昇

ノドグロの漁獲量は年々減少傾向にあります。海水温の上昇により生息域が変化し、従来の漁場での漁獲が難しくなっていることが一因です。日本近海では海面温度が0.7〜1.6℃上昇しており、深海魚であるノドグロの分布にも影響を及ぼしています。

漁獲量の減少に伴い市場価格は上昇を続けており、安定供給の確保が水産業界の課題となっていました。完全養殖技術の確立は、この課題を解決する大きな一歩です。

完全養殖成功の軌跡

10年にわたる飼育研究

近畿大学水産研究所富山実験場では、2015年にノドグロの飼育研究を開始しました。ノドグロは成長が遅く、光や音に敏感な深海魚であるため、養殖は極めて難しいとされてきました。

2016年10月に漁獲したノドグロからの採卵による人工ふ化に成功。その後、飼育技術の改良を重ね、2022年には約1万尾、2023年には3万尾以上の種苗生産に成功しています。新潟県の海洋高校や上越漁協の協力も得ながら、技術を磨いてきました。

完全養殖の達成過程

完全養殖とは、人工ふ化させた魚を親魚まで育て、その親魚から卵を採り、再び人工ふ化させるサイクルを確立することです。天然の卵や稚魚に頼らず、養殖だけで世代を重ねることができます。

2022年9月に新潟県上越沖で採取した卵から人工ふ化したノドグロの飼育群が3歳魚に成長。2025年8月から自然成熟と催熟の両面から採卵を試みました。ホルモン投与によって産卵を促した雌6尾から計8回、約36万個の卵が得られ、2025年10月6日に人工ふ化に成功しました。

これにより、人工種苗から育てた親魚による次世代の誕生が確認され、完全養殖が達成されました。2026年2月5日時点で稚魚の飼育期間は122日に達しています。

クロマグロに続く近大の養殖技術

世界初のクロマグロ完全養殖

近畿大学水産研究所は、養殖研究の分野で世界的に知られる存在です。1970年にクロマグロの養殖研究を開始し、産卵のない年が11年にも及ぶなど困難を乗り越えながら、2002年に世界初のクロマグロ完全養殖に成功しました。

研究開始から成功まで32年という長い歳月がかかりましたが、2004年には完全養殖クロマグロの出荷にも成功。「近大マグロ」は同大学のブランドとして広く知られるようになりました。

養殖技術の蓄積が活きた

ノドグロの完全養殖は研究開始から約10年での達成であり、クロマグロの32年と比べると格段に早い成果です。これはクロマグロをはじめとする長年の養殖研究で培われた技術やノウハウが活かされた結果といえます。

近畿大学水産研究所では、クロマグロのほかにもマダイやブリ類など多くの魚種の養殖研究に取り組んでおり、日本の水産養殖技術をリードしています。

事業化に向けた計画

3年後に飲食店への出荷開始

近畿大学は今後3〜5年をかけて事業化を進める計画です。まず3年後をめどに、近畿大学発ベンチャーが運営する大阪・東京の飲食店での提供を目指しています。

なお、完全養殖ではないものの、2022年に生産された養殖ノドグロについては、これらの飲食店で月内にも提供が始まる予定です。消費者が養殖ノドグロを味わえる機会が近づいています。

5年後に稚魚販売とブランド化

5年後には養殖業者への稚魚販売を開始し、「近大ノドグロ」としてブランド化する方針です。2030年の商業化を目指しています。養殖業者が稚魚を購入して育てる仕組みが整えば、ノドグロの供給量は大幅に増加する見通しです。

完全養殖技術が確立されたことで、天然資源に依存しない安定的な種苗供給が可能になります。これは水産資源の持続可能な利用という観点からも重要な意味を持っています。

注意点・展望

養殖の技術的課題

完全養殖に成功したとはいえ、商業化に向けてはまだ課題があります。ノドグロは成長が遅い魚であるため、出荷サイズまで育てるには時間がかかります。また、深海魚特有の飼育環境の管理や、大量生産時のコスト削減も重要な課題です。

養殖魚の品質管理も欠かせません。天然のノドグロに匹敵する脂の乗りや食味を安定的に実現できるかが、ブランド化の成否を左右します。

水産資源管理への貢献

ノドグロの完全養殖技術は、減少する天然資源の保全にも貢献します。養殖による安定供給が実現すれば、天然のノドグロへの漁獲圧力を軽減できる可能性があります。

海水温の上昇による水産資源の変動が世界的な課題となる中、養殖技術の発展は食料安全保障の観点からも注目されています。

まとめ

近畿大学が世界で初めてノドグロの完全養殖に成功しました。10年にわたる研究の成果であり、クロマグロに続く画期的な成果です。3年後の飲食店出荷、5年後の稚魚販売と、段階的な事業化計画が示されています。

高級魚の安定供給と水産資源の持続可能な利用に向けた重要な一歩です。「近大ノドグロ」が食卓に届く日が待ち遠しいところです。

参考資料:

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