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by nicoxz

メモリー価格が9割上昇、AI需要が招く供給不足の深層

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はじめに

パソコンやサーバーに使われるメモリーの価格が異常な勢いで上昇しています。香港の調査会社カウンターポイントリサーチが2026年2月5日に発表した予測によると、2026年1〜3月期のメモリー価格は前四半期比で9割〜2倍に跳ね上がる見通しです。

この価格高騰の原因は、メモリーメーカー各社がAI用の高帯域メモリー(HBM)の生産に注力するあまり、汎用メモリーの生産を大幅に絞ったことにあります。本記事では、メモリー価格高騰の構造的な背景と、パソコンやスマートフォンへの影響を解説します。

メモリー価格高騰の実態

DRAMは91〜98%の上昇

カウンターポイントリサーチのデータによると、2026年1〜3月期のDRAM価格はパソコン向けで91%、サーバー向けで98%の値上がりが見込まれています。前四半期(2025年10〜12月期)にも60〜76%上昇しており、2四半期連続で大幅な値上がりが続いている状況です。

NAND型フラッシュメモリーも同様の状況で、パソコン向けで100%、サーバー向けで90%の上昇が予測されています。さらに4〜6月期にはDRAMがパソコン向けで20%、サーバー向けでも追加の上昇が見込まれており、価格高騰に歯止めがかかる気配はありません。

PC・スマホへの波及

メモリー価格の高騰はすでに消費者向け製品の値上げにつながり始めています。国内ではマウスコンピューターが2026年からPCの値上げを実施し、シャープ系企業も値上げを検討していると報じられています。カウンターポイントリサーチは、メモリー不足によるBOM(部品表)コストの上昇を受けて、2026年のスマートフォン出荷台数予測を下方修正しています。

AI用HBMが汎用メモリーを「食っている」構造

HBMとは何か

HBM(High Bandwidth Memory)は、AIアクセラレーターやGPUに搭載される高性能メモリーです。NVIDIAのAIチップに不可欠な部品であり、従来のDRAMと比べてはるかに高い帯域幅を実現します。AIデータセンターの爆発的な拡大に伴い、HBMの需要は急増しています。

ウエハー面積3倍の問題

価格高騰の核心は、HBMの生産に必要なウエハー面積が通常のDRAMの約3倍に達するという点にあります。メモリーメーカーがHBM1チップを製造すると、同じウエハーから作れたはずの汎用DRAM3チップ分の生産能力が消えてしまうのです。

Samsung、SK Hynix、Micronの大手3社はいずれもHBMとエンタープライズ向けDDR5への生産シフトを加速させています。HBMは利益率が高いため、経営判断としては合理的ですが、その結果として汎用メモリー市場に深刻な供給不足が生じています。

レガシー製品からの撤退

TrendForceの分析によると、2026年にはDDR4が事実上の生産終了(EOL)状態に入ると見られています。3大メモリーメーカーがレガシー製品から「完全撤退」に近い動きを見せており、従来型メモリーの供給ネットワークが急速に縮小しています。

Micronは消費者向けメモリー市場から完全に撤退し、エンタープライズおよびAI顧客に注力する方針を明確にしました。SK Hynixは2026年分のHBM、DRAM、NANDの生産能力がほぼ完売したと報告しています。

メモリーメーカー3社の戦略

SK Hynix:HBM市場のリーダー

SK HynixはHBM市場で圧倒的なシェアを持ち、NVIDIAへの主要供給元として2026年分の生産能力を売り切っています。HBM4の量産を2026年2月に前倒しし、NVIDIAの次世代「Rubin」アーキテクチャ向けの供給体制を構築しています。

Samsung:生産能力の拡大を急ぐ

Samsungはメモリー不足が業界全体の価格高騰を引き起こすと警告するとともに、2026年中のメモリー生産能力増強を発表しています。AI需要に対応するため、SK Hynixとともにスターゲート・プロジェクトへの参画も決定しました。

Micron:AI特化へ転換

MicronはAIがDRAMとHBMを希少資産に変えたとして、全社的にAI向けメモリーへの転換を進めています。消費者市場からの撤退により、エンタープライズおよびAI分野での収益最大化を図る戦略です。

注意点・展望

供給回復は2027年後半以降か

新規のメモリー工場建設には数年のリードタイムが必要です。現在建設中の製造施設が稼働しても、供給の本格的な回復は2027年後半以降になるとアナリストは予測しています。DDR5 64GBモジュールの価格は2026年末までに2025年初頭の2倍になる可能性があります。

買いだめへの対応

Samsung、SK Hynix、Micronの3社は、供給逼迫が続く中で顧客による買いだめ(ホーディング)を抑制するため、受注管理を厳格化しています。しかし、この対応が逆に品薄感を強め、さらなる価格上昇を招くリスクもあります。

データセンターがメモリーの7割を消費

2026年にはデータセンターが世界のメモリー生産量の70%を消費すると予測されています。AI需要がメモリー市場の構造を根本から変えつつあり、消費者向けPCやスマートフォンの市場は「残りの30%」を奪い合う構図になっています。

まとめ

メモリー価格の9割上昇は、AI用HBMへの生産集中が引き起こした構造的な供給不足が原因です。Samsung、SK Hynix、Micronの3社がAI向けに生産をシフトした結果、汎用メモリーの供給が大幅に縮小しています。

新たな製造能力が稼働するまで供給不足は続く見通しで、PCやスマートフォンの値上げは避けられない状況です。消費者にとってはメモリーやSSDの購入を早めに検討することが現実的な対応策となるでしょう。

参考資料:

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