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by nicoxz

ミキハウスが挑む超高級子供服「ゴールドレーベル」の全貌

by nicoxz
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はじめに

「日本では『いいものを安く』とすり込まれている。高く売らんと日本のものづくりはなくなる」。子供服ブランド「ミキハウス」を展開する三起商行の創業者・木村皓一社長(81歳)の言葉は、長年のデフレに苦しんできた日本のアパレル業界に一石を投じています。

三起商行は2022年秋、最高級シリーズ「ミキハウス ゴールドレーベル」を投入しました。ビキューナやベビーカシミヤを使用したセーターは143万円、マントは110万円と、子供服としては桁違いの価格帯を打ち出しています。しかし、この戦略は単なる高価格化ではありません。半世紀以上にわたって培ってきた「子どものことを第一に考えたものづくり」を極限まで追求した結果生まれたブランドであり、日本のものづくりの価値を世界に発信する挑戦でもあります。

本記事では、ミキハウスの高級化戦略の全容と、その背景にある木村社長の経営哲学、そして日本のアパレル業界への示唆について詳しく解説します。

ゴールドレーベル誕生の背景と戦略

コロナ禍で顕在化した富裕層のニーズ

ミキハウス ゴールドレーベルの構想が具体化したきっかけは、コロナ禍における消費者行動の変化でした。パンデミックの最中、価格よりも品質や安全性を重視する顧客層の存在が改めて浮き彫りになったのです。特に中国をはじめとするアジアの富裕層が、日本製で安心・安全な子供服を求める傾向が顕著になりました。

三起商行はコロナ禍の期間中にもかかわらず海外店舗を積極的に拡大し、直近3年間で新規店舗数を大幅に増やしました。2023年には海外の売上高が初めて国内を上回り、海外の店舗数も100店舗を超えて日本国内の数を上回る見通しとなっています。販売比率はコロナ禍以前の「国内70%・海外30%」から逆転し、海外が60%に達する勢いです。

世界最高峰の素材へのこだわり

ゴールドレーベルの最大の特徴は、世界最高峰の素材を惜しみなく使用している点です。その代表格が「海島綿(シーアイランドコットン)」です。カリブ海・西インド諸島の限られた地域でしか栽培できない極めて希少なコットンで、絹のような光沢とカシミヤの肌触りを持つのが特徴です。繊維に含まれる油脂分が多く、他に類を見ないなめらかさと肌触りの良さを実現しています。ベビー・子供服ブランドで海島綿を本格的に取り入れているのは、ミキハウスだけと言われています。

さらに、2024年秋冬コレクションでは、初めて100万円を超えるニット製品を投入しました。使用されたのは、世界で最も希少な獣毛素材であるビキューナとベビーカシミヤです。ビキューナを100%使用すると子供の肌には刺激が強すぎるため、ビキューナ50%・ベビーカシミヤ50%という独自の配合で編み立てています。セーターで税込143万円、マントは110万円、ブランケットは165万円という価格設定です。

そのほかにも、ポーランド産のホワイトグースダウンを使用したダウンジャケット、シルクのパジャマなど、大人のラグジュアリーブランドに匹敵する素材を用いた商品が並びます。

「いいものを高く売る」経営哲学と販売戦略

木村皓一社長の信念

木村皓一氏は1945年生まれ。1971年に「三起産業」(後の三起商行)を創業し、ミキハウスブランドを育て上げました。その経営哲学の根底にあるのは、「いいものは高く売らなければならない」という確固たる信念です。

木村社長は、日本のアパレル業界が長年にわたり「いいものを安く」という価値観に縛られてきた結果、職人や製造現場が疲弊し、日本のものづくり自体が存続の危機に瀕していると警鐘を鳴らしています。適正な価格で販売することで、素材の調達から縫製に至るサプライチェーン全体に適正な利益を還元し、高品質な日本製品を持続可能な形で世界に届けることを目指しています。

この哲学は創業初期から一貫しています。木村社長は松下幸之助の経営塾にも登壇した経験を持ち、「いいモノは高く売る」という考え方を長年にわたって実践してきました。ゴールドレーベルの投入は、この哲学をさらに極限まで推し進めた結果と言えるでしょう。

プレミアムな接客と店舗空間

ゴールドレーベルの販売戦略において重要なのが、接客力と店舗空間の磨き上げです。三起商行は単に高価な商品を棚に並べるだけでなく、クローズドで特別感のある空間づくり、VIPスペースの活用、そして専門知識を持つスタッフによるコンサルティング型接客を展開しています。

国内では百貨店を中心に展開し、店舗リニューアルにも積極的に投資しています。京都伊勢丹ではゴールドレーベルのポップアップショップを開催するなど、ブランドの世界観を体感できる場を提供しています。

海外では、パリやロンドンの直営店に加え、中国の北京SKPや海南島の大型免税店など、世界の一等地に12店舗以上を構えています。さらに、米国ではニューヨークの名門ホテル「ザ・プラザ」内にブティックを開設し、ゴールドレーベルやチエコサクなどのプレミアムラインをハンドピックして展開するなど、ラグジュアリーブランドにふさわしい立地選びを徹底しています。

売上構成に見る海外富裕層の支持

ゴールドレーベルの2023年の売上高は約3億円に達しました。注目すべきはその内訳です。売上の7割が海外店舗で占められ、残る3割の国内店舗の売上についても、その7割がインバウンド(訪日外国人)や海外バイヤーによる購買です。つまり、実質的に売上の9割以上が海外の富裕層に支えられている計算になります。

三起商行全体としても、2025年春夏シーズン終了時点で年間売上が前年比70%増という驚異的な成長を記録しています。ゴールドレーベル自体は全体売上の2%程度に過ぎませんが、ブランド全体のイメージ向上に大きく貢献し、ミキハウスの「高品質な日本製子供服ブランド」としての認知度を世界的に押し上げる効果をもたらしています。

日本のものづくりとアパレル業界への示唆

少子化時代の生存戦略

日本の子供服市場は少子化の影響を直接受ける業界です。国内のベビー・子供服市場規模は2024年に前年比0.2%増の約8,405億円と推計されており、頭打ちの傾向にあります。出生数の減少が続く中、数量ベースでの成長を見込むことは困難な状況です。

こうした環境下で三起商行が選んだのが、量から質への転換です。販売数量を追うのではなく、一着あたりの付加価値を最大化することで売上と利益を確保する戦略は、縮小する国内市場に対する一つの回答と言えます。

「さらばデフレ」の挑戦

日本のアパレル業界全体を見ると、値上げを成功させている企業はまだ少数派です。専門家からは、国内アパレル企業の値決めのやり方が古く、プライシングに科学的・定量的な戦略アプローチを適用できていないという指摘もあります。

一方で、衣料品市場は2011年頃から緩やかなインフレ局面に転じており、消費者のニーズも高級志向と低価格志向の二極化が進んでいます。ミキハウスの高級化戦略は、この二極化の「高級側」に明確にポジションを取ったものであり、40代以上の国内消費者やインバウンド需要をうまく取り込んでいます。

ラグジュアリーホテルとの連携

ミキハウスの高付加価値路線は、アパレル業界だけでなくラグジュアリーホテル業界からも注目を集めています。高級ホテルにおいて子ども向けサービスの充実が求められる中、海島綿のバスローブやシルクのパジャマといったゴールドレーベルの商品が「富裕層のゲストに喜ばれるコンテンツ」として期待されています。

さらに、ミキハウスは輪島塗の「兜」や「雛人形」も発表しており、白蝶貝を使用した螺鈿細工を施した逸品を展開するなど、子供服の枠を超えた日本の伝統工芸との融合にも取り組んでいます。

今後の展望と注意点

ミキハウスのゴールドレーベル戦略は順調に推移していますが、いくつかの課題も存在します。

第一に、海外富裕層への依存度の高さです。売上の大部分を海外顧客に頼る構造は、地政学リスクや為替変動の影響を受けやすいという脆弱性をはらんでいます。特に中国市場への依存度が高い点は、中国経済の減速や日中関係の変動によるリスク要因となり得ます。

第二に、ブランドの希少性の維持です。高級ブランドの価値は希少性と品質の両立によって成り立ちます。店舗数の拡大を続ける中で、ブランドの希少性やプレミアム感をいかに保つかが中長期的な課題となるでしょう。

第三に、後継者問題です。木村皓一社長は81歳を迎えており、創業者のカリスマ性に依存した経営から、組織としての持続的成長への移行が今後の重要なテーマとなります。

一方で、日本のものづくりの価値を世界に発信するという方向性自体は、インバウンド需要の拡大やメイド・イン・ジャパンへの国際的な評価の高まりを背景に、大きな追い風を受けています。政府レベルでも国内アパレルの高付加価値化が推進されており、ミキハウスの取り組みは業界全体のモデルケースとなる可能性を秘めています。

まとめ

三起商行が展開するミキハウス ゴールドレーベルは、子供服ブランドが「ラグジュアリー」の領域に挑戦する、日本のアパレル業界における画期的な取り組みです。海島綿やビキューナといった世界最高峰の素材を使い、100万円を超える子供服を実際に販売し、支持を得ているという事実は、「いいものを高く売る」という木村社長の哲学の正しさを証明しています。

少子化で国内市場が縮小する中、高付加価値化と海外展開を両輪とする三起商行の戦略は、日本のアパレル企業のみならず、ものづくりに携わるすべての企業に対して重要な示唆を与えています。デフレマインドからの脱却と、日本の品質を世界に届けるための「適正な価格設定」の重要性は、今後ますます多くの企業が直面するテーマとなるでしょう。

ミキハウスの挑戦は、日本のものづくりの未来を占う試金石として、引き続き注目に値します。

参考資料

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