ミキハウス創業以来初の社長交代、木村皓一の経営哲学
はじめに
子供服ブランド「ミキハウス」を展開する三起商行が、2026年6月1日付で創業以来初となる社長交代を実施します。創業者の木村皓一社長(80)が会長に退き、竹田欣克取締役(51)が新社長に就任する予定です。
1971年の創業から54年間、木村氏がワンマンで率いてきた同社の初めてのトップ交代は、日本の老舗企業における事業承継のあり方を考える上でも注目に値します。本記事では、木村氏が語るリーダーシップ論と、竹田新社長が担うグローバル戦略の展望を解説します。
創業者・木村皓一氏の歩み
逆境から生まれた経営者
木村皓一氏は1945年生まれ。3歳で小児麻痺を患い、歩行が困難な幼少期を過ごしました。中学入学後に「自力で歩く」と決意し、新聞配達のアルバイトで体を鍛え、歩行を取り戻したというエピソードは広く知られています。
26歳で子供服の製造卸会社を創業し、その後1978年に三起商行を設立しました。「世界一の子供服メーカーを目指す」という理念を掲げ、品質にこだわった商品づくりを一貫して追求してきました。現在は国内外に約200店舗を展開する高級子供服ブランドへと成長しています。
「自分が2、相手が8」の精神
木村氏の経営哲学の核心は「自分が2、相手が8」という利他の精神です。取引先や顧客、社員に対して相手の利益を優先する姿勢が、長期的な信頼関係を築く基盤になったと語っています。
致知出版社のインタビューで木村氏は「経営は情熱がベースにあって成り立つもの」と述べており、大きな社会変化の中でもこの原則は変わらないとしています。野球の監督に例え、「選手(社員)の技量をどれだけ引き出せるかが経営者の腕」という考えを示しています。
人材への大胆な投資
木村氏の経営スタイルを特徴づけるのが、人材への大胆な投資です。1976年の新卒採用では、当時の売上の約1割に相当する1,200万円を採用活動に投じました。「恐怖ではなく信頼で人は動く」という信念のもと、社員の自主性を尊重する組織づくりを実践してきました。
また、1989年以降はマイナースポーツの選手支援を積極的に行い、オリンピック選手を多数輩出しています。1992年には「きのくに子どもの村学園」の設立にも関わるなど、子どもの教育・育成に対する情熱は事業の枠を超えて広がっています。
次期社長・竹田欣克氏の人物像
グローバル経験が豊富な後継者
竹田欣克氏は1974年石川県生まれ。東京大学法学部を卒業後、1998年に三起商行に入社しました。2001年にはボストン大学のビジネススクールに留学し、MBA取得後の2011年にはMIKI HOUSE Americas, Inc.の代表取締役社長に就任しています。
現在は海外17カ国・108店舗のグローバル事業を統括しており、海外展開の実務経験は社内随一です。WWDJAPANの報道によれば、竹田氏は創業者一族ではなく、実力で選ばれた後継者です。
海外売上比率の拡大を牽引
三起商行の近年の成長を支えてきたのが、竹田氏が主導してきた海外事業です。海外の売上高はすでに国内を上回っており、顧客の約70%が外国人となっています。特に中国の富裕層向け市場では57店舗以上を展開し、急速な出店拡大を進めてきました。
ミキハウスの経営戦略
高級路線への転換
ミキハウスは近年、明確な高級路線へと舵を切っています。2022年秋冬には富裕層向けライン「ゴールドレーベル」を発表し、カシミヤや海島綿など最高級素材を使用した商品を投入しました。コートが41万8,000円、セーターが19万8,000円という価格帯は、子供服の常識を覆すものです。
この戦略の背景には、少子化による国内市場の縮小があります。量を追うのではなく、品質と希少性で付加価値を高め、世界の富裕層から選ばれるブランドを目指す方針です。
インバウンド需要の取り込み
訪日外国人の増加に伴い、百貨店のミキハウス売り場はインバウンド需要の恩恵を受けています。高品質な日本製子供服は、特にアジアの富裕層から高い評価を得ており、お土産やギフト需要も旺盛です。
中東市場への進出
ファッションスナップの報道によれば、次期社長の竹田氏は新たな成長市場としてアラブ圏の富裕層に注目しています。中東では大家族が多く、子供服への支出が大きいことから、ミキハウスの高級路線と親和性が高いと見られています。
注意点・展望
創業者からの社長交代は、どの企業にとっても大きな転換点です。木村氏は代表権を持つ会長として引き続き経営に関与しますが、54年間のワンマン経営からの脱却がスムーズに進むかは未知数です。
今後の課題としては、海外市場での競合激化への対応が挙げられます。グローバルな高級子供服市場ではBonpointやBurberryなどの欧州ブランドが先行しており、ミキハウスがこれらのブランドとどう差別化を図るかが問われます。
また、少子化が進む国内市場では、ブランド価値の維持と顧客基盤の確保が引き続き重要な経営課題となります。高級路線の深化と、ミドル層向け商品とのバランスをどう取るかも注目すべきポイントです。
まとめ
三起商行の54年ぶりの社長交代は、日本の老舗企業における世代交代の成功モデルとなるかが注目されます。創業者・木村皓一氏が築いた「信頼で人を動かす」経営哲学を受け継ぎつつ、竹田欣克新社長のグローバル経験を活かした成長戦略が期待されます。
ミキハウスの今後の展開は、日本のアパレル企業が少子高齢化とグローバル競争にどう向き合うかの試金石でもあります。国内外のブランド戦略や事業承継のあり方に関心のある方は、6月の社長交代後の動向を注視する価値があるでしょう。
参考資料:
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