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by nicoxz

三菱商事が米シェールガス企業を1.2兆円で買収、過去最大

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はじめに

三菱商事が2026年1月16日、米国の天然ガス開発企業エーソン・エナジー・マネジメント(Aethon Energy Management)を買収すると発表しました。負債引き受けを含めた買収総額は約1.2兆円(75.3億ドル)に上り、三菱商事として過去最大の買収案件となります。

この買収は、トランプ政権が推進するLNG(液化天然ガス)輸出規制緩和という政策転換を追い風にしたものです。データセンターの急増やAI需要の拡大により、世界的な電力需要が増加する中、三菱商事は米国シェールガス市場への本格参入を決断しました。

本記事では、この大型買収の背景、エーソン社の事業内容、三菱商事のLNG戦略、そして今後のエネルギー市場への影響について詳しく解説します。

買収の全容と戦略的意義

取引の詳細

三菱商事はエーソン社の全株式を52億ドル(約8,200億円)で取得し、さらに23.3億ドル(約3,700億円)の負債を引き受けます。これにより、買収総額は75.3億ドル(約1.2兆円)となります。

エーソン社の既存株主には、カナダのオンタリオ州教職員年金基金(Ontario Teachers’ Pension Plan)やレッドバード・キャピタル・パートナーズ(RedBird Capital Partners)が含まれています。なお、エーソン・エナジー・マネジメントは、上流・中流資産の最大25%を買い戻す権利を保持する条件となっています。

株式取得は2026年4〜6月期の完了を見込んでおり、規制当局の承認を経て正式に成立する予定です。

エーソン社の事業概要

エーソン社はテキサス州ダラスに本社を置く非上場の独立系エネルギー企業です。石油メジャーに属さない独立企業として、テキサス州東部からルイジアナ州北西部にまたがるヘインズビル盆地(Haynesville Basin)でシェールガスの開発・生産を行っています。

ヘインズビル盆地は米国で最も有望なシェールガス産地の一つです。地表から約3,200〜4,000メートルの深さに位置し、面積は約23,000平方キロメートルに及びます。米国地質調査所の推定によると、技術的に回収可能なシェールガス資源は174.6兆立方フィートで、アパラチア地域に次ぐ米国第2位の規模を誇ります。

同盆地の最大の強みは、LNG輸出基地が集積するメキシコ湾岸に近い立地にあります。生産したガスを効率的に輸出できるため、国際市場へのアクセスが容易です。

生産能力と将来性

エーソン社の現在のガス生産量は、LNG換算で年間約1,500万トンです。これは米国内で10位程度の規模ですが、2027〜2028年にはピークの1,800万トンに達する見込みです。

この1,800万トンという数字は、日本の年間LNG輸入量(約7,000万トン)の約4分の1に相当します。単独企業としては極めて大きな供給能力であり、三菱商事のLNG事業を大幅に強化することになります。

トランプ政権のエネルギー政策転換

LNG輸出規制の緩和

今回の大型買収の背景には、トランプ政権によるエネルギー政策の大転換があります。バイデン前政権は環境重視の観点からLNG新規輸出許可を一時停止していましたが、トランプ政権は2025年1月の就任初日にこの措置を解除しました。

トランプ大統領は「米国のエネルギーを解き放つ」と題した大統領令に署名し、LNG輸出の迅速な再開、重要鉱物の採掘・加工に関する規制緩和などを指示しました。2025年2月には、解除後初の輸出許可がエネルギー省から発行されています。

さらに2025年4月には、LNG輸出に関する監視義務や、輸出ターミナル施設が許可取得から7年以内に輸出を開始する義務を撤廃するルールも廃止されました。

エネルギードミナンス戦略

トランプ政権は国際エネルギー戦略の理念として「エネルギードミナンス(Energy Dominance)」を掲げています。これは化石燃料の輸出国としての優位性を活用し、国内では雇用促進に、対外的には同盟国のエネルギー安全保障強化に役立てるという方針です。

この政策転換により、米国ではLNG輸出施設の建設が活発化しています。現在、テキサス州とルイジアナ州で5カ所の施設が建設・拡張中で、全てが完成すれば米国の年間液化能力は約1億6,000万トンに倍増する見込みです。

2025年には、LNG輸出基地への民間投資が過去最大を記録しました。米国のLNG輸出量は2024年の約8,700万トンから、2030年までに倍増する見通しです。

三菱商事のLNG戦略

世界最大級のLNG事業者

三菱商事は日本企業として最大のLNG生産能力を持ち、世界全体で年間1,490万トンの権益を保有しています。LNG事業を擁する天然ガスグループの純利益は2023年度で2,195億円に達し、金属資源事業に次ぐ収益の柱となっています。

同社はブルネイ、マレーシア、インドネシア、オーストラリア、オマーン、ロシア、米国の7カ国で、計12件のLNGプロジェクトに出資しています。出資先プロジェクトのLNG総生産能力は年間1億トンを超え、そのうち三菱商事の持分は約1,212万トンです。

米国での事業拡大

これまで三菱商事は、米国ではルイジアナ州のキャメロンLNGプロジェクトのみに参画していました。キャメロンLNGは2019年に商業運転を開始し、年間1,200万トンのLNGを生産する液化事業です。

しかし、キャメロンLNGは液化・輸出事業であり、上流のガス生産権益は含まれていませんでした。エーソン社の買収により、三菱商事は米国内でもガスの採掘から液化・輸出まで一貫したバリューチェーンを構築できるようになります。

マレーシアでの権益延長

三菱商事は2024年9月、マレーシアのペトロナス社と合意し、マレーシアLNGデュア事業の権益を2025年から約10年間延長しました。また、2023年に権益が満了していたティガ事業にも再参入し、10%の権益を取得しています。

マレーシアLNGプロジェクトは年間生産能力2,930万トンで世界最大規模を誇り、日本向けでは単一拠点として最大のLNG供給量を持ちます。

収益見通しと今後の展望

業績への寄与

三菱商事は、エーソン社買収により2027年度以降、連結純利益で700億〜800億円の上乗せを見込んでいます。これは同社の2023年度純利益(約9,640億円)の7〜8%に相当する規模です。

エーソン社のガス生産がピークに達する2027〜2028年以降は、さらなる収益拡大が期待できます。

2030年代に向けた成長戦略

三菱商事は2030年代前半までにLNG生産権益を年間1,800万トンまで拡大する方針を掲げています。現在の約1,490万トンから約4割増となる計算です。

エーソン社買収のほか、オーストラリアのブラウズ事業、キャメロンLNGの拡張なども進めており、これらが順調に進めば、三菱商事は世界でも有数のLNG事業者としての地位をさらに固めることになります。

注意点・今後の見通し

リスク要因

大型買収には当然リスクも伴います。第一に、天然ガス価格の変動リスクがあります。シェールガス開発は市況に左右されやすく、価格下落時には収益が圧迫される可能性があります。

第二に、規制環境の変化です。トランプ政権の政策が追い風となっていますが、将来的に政権が交代すれば、環境規制が再び強化される可能性もあります。

第三に、脱炭素化の潮流です。天然ガスは石炭や石油に比べてCO2排出量が少ない「移行燃料」と位置付けられていますが、長期的には再生可能エネルギーへの転換が進む可能性があります。

市場環境の追い風

一方で、中期的にはLNG需要の拡大が見込まれています。新興国での発電需要増加、欧州のロシア産ガスからの脱却、データセンターやAI関連の電力需要増加など、天然ガスの需要を押し上げる要因は多くあります。

日本政府も天然ガスを2050年以降も重要な移行燃料と位置付けており、電力需要は今後10年間で大幅に増加すると予測しています。

まとめ

三菱商事による米国エーソン社の約1.2兆円での買収は、日本企業による米国シェールセクターへの投資として過去最大規模となりました。トランプ政権のLNG輸出促進政策を追い風に、三菱商事は米国内でのガス採掘から液化・輸出までの一貫したバリューチェーンを構築します。

この買収により、三菱商事のLNG生産能力は大幅に強化され、2030年代前半には年間1,800万トンの権益確保を目指す成長戦略が加速します。エネルギー安全保障の重要性が高まる中、日本の大手商社によるエネルギー上流権益の獲得は、国全体のエネルギー調達の安定化にも寄与するものと考えられます。

参考資料:

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