三菱重工、カタール初の最新鋭ガスタービン受注の意義
はじめに
三菱重工業が、カタール向けに最新鋭の大型ガスタービン「M701JAC形」を4台受注しました。同社にとってカタールでのJAC形ガスタービン受注は初めてとなり、中東市場における存在感を一段と高めることになります。
世界のガスタービン市場では、三菱重工は米GEベルノバ、独シーメンス・エナジーと並ぶ「3強」の一角を占め、大型機種では世界シェア1位の座を維持しています。一方、カタールはLNG(液化天然ガス)輸出で世界最大級の生産能力を持ち、2030年に向けた大規模な増産計画を進めています。今回の受注は、両者の戦略が合致した結果と言えるでしょう。
受注の概要
プロジェクトの詳細
三菱重工が受注したのは、カタールの首都ドーハ南方約25キロメートルのラス・アブ・フォンタス地域で建設が計画されている発電造水プラント「ファシリティE」向けのガスタービンです。
発注元は、カタール国営石油会社およびカタール送電水道公社、住友商事および四国電力、韓国南部発電および韓国海外インフラ都市開発支援公社によって設立された合弁会社「ラス・アブ・フォンタス パワー カンパニー」です。
三菱重工は、設計・調達・建設(EPC)のとりまとめを請け負う韓国サムスンC&Tと共同で受注しました。2028年の運転開始を目指しています。
供給能力
完成後の「ファシリティE」は、カタールの送電容量の約20%に相当する240万kWの電力を供給します。また、発電時の廃熱を海水の淡水化にも活用し、1日当たり49.5万トンの淡水を生産する予定です。
電力と水の両方を効率的に供給するこの施設は、カタールで増大するインフラ需要に応える重要な役割を果たすことになります。
M701JAC形ガスタービンの技術力
世界最高水準の熱効率
M701JAC形ガスタービンは、三菱重工の最新鋭機種です。タービン入口温度を1650℃まで高めることで、コンバインドサイクル(複合火力)発電において世界最高水準の熱効率64%を実現しています。
主な技術的特徴として、高圧力比圧縮機(25:1)、強制空冷燃焼器、先進TBC(遮熱コーティング)の超厚膜化などが挙げられます。M701JAC(50Hz)単体の出力は563MW、コンバインドサイクル出力は818MWに達します。
高い運用性と信頼性
JAC形ガスタービンは、燃焼器に蒸気冷却ではなく空冷システムを採用しています。これにより、起動時間の短縮など高い運用性を実現しながら、性能面でも従来機種と同等以上の能力を発揮します。
同社のJ形ガスタービンシリーズは、稼働時間が230万時間を突破し、累計受注台数は120台を超える実績を持っています。
水素発電への対応
今回受注したガスタービンは、天然ガスを主燃料としながら、将来的には燃焼器を交換することで水素を混焼させることも可能です。三菱重工は大型ガスタービンに30%の水素を混焼する技術をすでに確立しており、2030年までに水素専焼技術の実用化を目指しています。
カタールが将来的に水素・アンモニア分野への展開を視野に入れていることを考えると、この柔軟性は大きなアドバンテージとなります。
三菱重工のガスタービン事業
世界シェア1位を連覇
三菱重工は2023年のガスタービン受注実績(出力ベース)で世界シェア36%を獲得し、1位となりました。米マッコイ・パワー・レポートの調査によると、検証可能な2013年以降で1位獲得は2年連続2回目です。
2位は米GEベルノバの27%、3位は独シーメンス・エナジーの25%となっており、この「3強」が世界のガスタービン市場を分け合っています。
大型機種で圧倒的優位
特筆すべきは、出力30万kW以上の大型ガスタービンに限ると、三菱重工のシェアが56%に達することです。世界の大型ガスタービンの2台に1台が三菱重工製という圧倒的な存在感を示しています。
高効率・高出力の大型機種で競争力を持つことは、発電所の大規模化が進む世界市場において大きな強みとなっています。
過去最高の受注高
ガスタービンの需要は世界的に急拡大しています。三菱重工でガスタービンを手掛けるGTCC事業の受注高は2023年度に1兆2,593億円と過去最高を更新しました。
脱炭素化の流れの中で、石炭火力からの転換先として二酸化炭素排出量が比較的少ない天然ガス火力への需要が高まっていることが背景にあります。
カタールのエネルギー戦略
LNG生産能力の大幅拡大
カタールは世界最大級のLNG輸出国であり、さらなる生産能力の拡大を進めています。国営企業QatarEnergyは「North Field West」プロジェクトを通じて、2030年末までにLNG生産能力を現在の年間7,700万トンから1億4,200万トンへ、約85%増加させる計画です。
中国をはじめとするアジア諸国からの需要の高まりを取り込み、エネルギー輸出大国としての地位をさらに強化する狙いがあります。
脱炭素化への取り組み
一方で、カタールは脱炭素化にも積極的に取り組んでいます。2024年4月に発表された「カタール国家再生可能エネルギー戦略」では、大規模な再生可能エネルギー発電の設備容量を4GWまで拡大し、電源構成に占める再エネの割合を現在の5%から18%まで引き上げることを目標としています。
また、2030年までにメタンの排出量をゼロにすることも目指しています。メタンの地球温暖化への寄与度はCO2の28倍とされており、LNG生産国としてメタン削減に取り組むことは、天然ガスの環境面での優位性を維持する上で重要です。
日本との関係強化
カタールは日本にとって重要なLNG供給パートナーです。2023年7月の日・カタール首脳会談では、両国がエネルギー市場安定化のために協力を続けることで合意しました。
今回の三菱重工によるガスタービン受注は、日本とカタールのエネルギー分野における協力関係が、貿易だけでなく技術面でも深化していることを示しています。
今後の展望と課題
競争環境の変化
ガスタービン市場では新たな競合も台頭しています。韓国の斗山エナビリティが米国向けに大型ガスタービンの輸出を実現し、「第四極」として存在感を高めつつあります。
三菱重工がシェア1位を維持していくためには、技術革新を続けながら、コスト競争力も高めていく必要があります。
水素・アンモニアへの対応
脱炭素化が進む中、ガスタービンの将来は水素やアンモニアといったクリーン燃料への対応能力にかかっています。三菱重工は2030年までの水素専焼技術確立を目指しており、この分野でのリードを維持できるかが中長期的な競争力を左右するでしょう。
まとめ
三菱重工のカタール向けM701JAC形ガスタービン受注は、同社の技術力と市場競争力を改めて示すものとなりました。世界最高水準の熱効率、高い運用性、水素発電への対応能力を備えた最新鋭機種は、カタールのエネルギー戦略とも合致しています。
今後も世界的な脱炭素化の流れの中で、高効率なガスタービンへの需要は続くと見られます。三菱重工が技術革新を続け、水素対応などの次世代技術で先行できるかが、同社のエネルギー事業の将来を左右することになるでしょう。
参考資料:
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