中国の天然ガス生産が過去最高を更新、シェールガス開発が加速
はじめに
中国の天然ガス生産が2025年に過去最高を更新し、国内エネルギー自給率の維持に成功しています。特に内陸部のシェールガス開発が急速に進展し、生産増加の主要な原動力となっています。
世界最大のエネルギー消費国である中国にとって、エネルギー安全保障は国家戦略上の最重要課題の一つです。地政学的な緊張が高まる中、中国は海外依存度を抑制しながら、国内生産とパイプライン・LNG輸入を組み合わせた多角的な調達戦略を推進しています。
本記事では、中国の天然ガス生産の現状、シェールガス開発の進展、そしてエネルギー安全保障戦略について詳しく解説します。
中国の天然ガス生産の急成長
過去最高を更新し続ける生産量
中国の天然ガス生産は着実な成長を続けています。2024年には年間生産量が2,464億立方メートルに達し、前年から大幅に増加しました。2025年には2,590億立方メートル以上に達すると予測されており、第14次五カ年計画で設定された目標(2,300億立方メートル)を大きく上回っています。
注目すべきは、2017年以降毎年100億立方メートル以上の増産が続いていることです。これは中国政府が2018年に打ち出した国内エネルギー生産強化策の成果であり、習近平国家主席が「輸入石油・ガスへの依存を減らす必要がある」と指示して以来、国有石油大手3社が集中的に開発を進めてきました。
2024年には、中国の石油・ガス生産量の合計が初めて石油換算4億トンを超える歴史的な節目を迎えました。これは中国のエネルギー自立に向けた大きな前進を示しています。
自給率6割を維持する戦略
中国は現在、年間約4,000億立方メートル以上の天然ガスを消費しています。このうち約6割を国内生産で賄い、残りの4割を輸入に依存しています。政府はこの自給率を維持・向上させることをエネルギー政策の柱としています。
輸入ガスの内訳は、パイプラインガスとLNGがほぼ半々です。2024年のパイプラインガス輸入は約710億立方メートル、LNG輸入は約1,070億立方メートル(約7,900万トン)でした。中国は2024年に世界最大のLNG輸入国となり、世界のLNG貿易量の約2割を占めています。
シェールガス開発の飛躍的進展
四川盆地を中心とした開発加速
中国のシェールガス開発は近年急速に進展しています。2013年にはわずか1日あたり0.02億立方フィートだった生産量が、2023年には1日あたり25.1億立方フィート(年間約250億立方メートル)にまで拡大しました。
開発の中心は四川省と重慶市にまたがる四川盆地です。この地域には涪陵(ふうりょう)シェールガス田など、中国初の大規模商業シェールガス田が存在します。2023年9月には、涪陵ガス田の累計生産量が600億立方メートルを突破しました。
また、貴州省でも開発が進んでおり、2025年には年間12億立方メートルの生産を目指しています。シェールガスは中国国内の天然ガス生産増加の重要な牽引役となっています。
技術革新による課題克服
中国のシェールガス開発は、当初多くの困難に直面しました。中国のシェール層は米国とは地質構造が異なり、より深く複雑な地層に存在するため、開発コストが高くなる傾向がありました。
しかし、過去10年間で中国企業は地質への理解を深め、水圧破砕技術や自動化技術を大幅に向上させました。2024年には深層シェール層からの商業的に採算の取れるガス採掘に成功するなど、技術的なブレークスルーを達成しています。
現在、世界でシェールガスを商業規模で生産している国は、米国、カナダ、アルゼンチン、そして中国の4カ国のみです。中国は世界最大級のシェールガス埋蔵量(推定20兆立方メートル)を持つとされており、今後さらなる増産が期待されています。
エネルギー安全保障戦略の全体像
多角的な調達先の確保
中国はエネルギー調達先の分散を国家戦略として推進しています。パイプラインガスの主要な供給元は、ロシア(シベリアの力1)と中央アジア(トルクメニスタン)です。2024年のロシアからのガス輸入は前年比45%増加し、パイプラインとLNGを合わせて約1,750万トンに達しました。
2025年9月には、習近平国家主席がロシア・モンゴルの首脳と北京で会談し、「シベリアの力2」パイプラインに関する法的拘束力のある覚書に署名しました。このパイプラインが完成すれば、モンゴル経由で年間500億立方メートルの天然ガスが中国に供給される予定です。
さらに中央アジアからは、Dラインパイプライン計画も進行中です。これが完成すれば、トルクメニスタンから追加で年間300億立方メートルの輸入が可能になります。
LNG輸入の戦略的意義と課題
LNGは調達の柔軟性が高い一方、地政学的リスクを抱えています。中国へのLNG輸送はマラッカ海峡やホルムズ海峡といった戦略的要衝を通過するため、国際情勢の影響を受けやすいという弱点があります。
パイプラインガスはこうしたリスクに対してより堅牢です。中国がロシアや中央アジアからのパイプライン輸入を拡大している背景には、こうしたエネルギー安全保障上の考慮があります。
一方、米中関係の悪化により、2025年6月までに中国の米国産原油・LNG・石炭の輸入はほぼゼロに落ち込みました。これは中国のエネルギー調達戦略における西側諸国離れを象徴する動きといえます。
国産エネルギーの総合的強化
中国のエネルギー自給率は80%以上を維持しています。これは石炭(自給率約9割)、再生可能エネルギー、原子力発電の貢献によるものです。2025年には風力・太陽光発電の設備容量を約2億キロワット新設する計画であり、再生可能エネルギーによる国産エネルギーの強化も進んでいます。
天然ガスについては、需要が2040年頃に年間6,000〜6,700億立方メートルでピークを迎えると予測されています。一方、国内生産は2035〜2040年頃に3,100億立方メートル程度で頭打ちになると見られており、輸入量は現在の約1,800億立方メートルから2,900〜3,900億立方メートルに増加する見通しです。
注意点・今後の展望
過度な楽観は禁物
シェールガス開発の進展は目覚ましいものの、いくつかの課題も残されています。中国のシェール層は深く複雑で、開発コストが高止まりする傾向があります。また、水資源の制約や人口密集地域での環境問題も、開発の障壁となる可能性があります。
政府が当初設定した2020年のシェールガス生産目標(年間300億立方メートル)は達成できなかった経緯もあり、長期的な増産計画には不確実性が伴います。
地政学リスクへの備え
ロシアへのエネルギー依存拡大は、別のリスクを生み出す可能性があります。欧州がロシア産ガス依存からの脱却を進めた教訓を踏まえ、中国も単一の供給源への過度な依存は避ける方針です。
米中対立の長期化により、中国のエネルギー調達戦略は今後も変化を続けるでしょう。国内生産の最大化と調達先の多様化という二本柱は、引き続きエネルギー政策の基本となる見込みです。
今後の注目点
2030年代に向けて、以下の点が注目されます。第一に、シェールガス開発技術のさらなる進歩により、より深い地層からの採掘が経済的に可能になるかどうか。第二に、「シベリアの力2」など大型パイプラインプロジェクトの進捗状況。第三に、再生可能エネルギーと水素などの新エネルギーがガス需要をどの程度代替するか、という点です。
まとめ
中国の天然ガス生産は2025年に過去最高を更新し、シェールガス開発の加速がその原動力となっています。エネルギー自給率約6割を維持しながら、ロシア・中央アジアからのパイプラインガスとLNG輸入を組み合わせた多角的な調達戦略を推進しています。
地政学的緊張が高まる中、中国はエネルギー安全保障を国家戦略の最重要課題と位置づけ、海外依存度の抑制と国内生産の最大化を図っています。シェールガス開発の技術的進歩や新規パイプラインプロジェクトの動向は、今後の世界エネルギー市場に大きな影響を与えることになるでしょう。
参考資料:
- China’s oil and gas output exceeds 400 million tons in 2024 - Global Times
- Oil and gas output hits new peak - China Daily
- China’s Gas Growth Casts a Shadow over LNG Demand - OilPrice.com
- Rising Production, Consumption Show China is Gaining Ground in Its Natural Gas Goals - Columbia University CGEP
- China’s natural gas consumption, production, and imports all increased in 2023 - EIA
- Power of Siberia 2 reshapes China’s energy security calculus - East Asia Forum
- 中国のエネルギー自給率、24年も80%以上を維持 - Science Portal China
- 中国のエネルギー需給・調達の現状と今後の方向性 - JOGMEC
関連記事
三菱商事が1.2兆円で米エーソン買収、エネルギー安保強化へ
三菱商事が過去最大規模の1.2兆円で米ヘインズビル・シェールガス事業を展開するエーソンを買収。日本のLNG安定供給とエネルギー安保強化の戦略を解説します。
日伊が重要鉱物とLNG供給で連携強化―エネルギー安全保障の新戦略
2026年1月16日、高市首相とメローニ伊首相が会談し、重要鉱物のサプライチェーン構築とLNG緊急融通で合意しました。中国依存脱却と資源調達多様化を目指す日本のエネルギー戦略と、イタリアとの協力の意義を解説します。
中国とロシアが原発建設で圧倒的シェア、新興国への影響力拡大
2025年に世界で着工した原発の9割が中国・ロシア製。建設中・計画中の原発の6割を両国が占め、エネルギー分野での影響力を急速に拡大。ベースロード電源開発と新興国への技術輸出で地政学的優位を築く。
三菱商事が米ガス大手を1.2兆円で買収、純利益目標達成に市場は慎重
三菱商事が過去最大規模となる約1.2兆円でAethonのシェールガス資産を買収。2028年3月期の純利益1.2兆円達成を目指すが、株式市場は中立的評価を維持し、実現性に疑問の声も。
三菱商事が米シェールガス企業を1.2兆円で買収、過去最大
三菱商事が米国エーソン社を約1.2兆円で買収。トランプ政権のLNG輸出規制緩和を追い風に、テキサス・ルイジアナのシェールガス権益を獲得し、日本企業最大のLNG事業者としての地位を固めます。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。