退職代行「モームリ」社長逮捕、弁護士紹介で非弁行為の疑い
はじめに
退職代行サービス大手「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの社長らが、2026年2月3日、弁護士法違反(非弁行為)の疑いで警視庁に逮捕されました。
容疑は、弁護士資格を持たないにもかかわらず、退職を希望する依頼者を弁護士に有償で紹介していたというものです。急成長を遂げてきた退職代行業界に大きな衝撃を与えるとともに、サービスの法的リスクが改めて問われる事態となりました。
本記事では、逮捕の詳細と非弁行為の法的解説、退職代行サービスの現状と今後の展望について解説します。
逮捕の経緯と容疑の詳細
逮捕された容疑者
警視庁保安課に逮捕されたのは、株式会社アルバトロス(横浜市)の社長・谷本慎二容疑者(37)と、社員で妻の志織容疑者(31)の2人です。両容疑者は容疑を否認し、「弁護士法違反になるとは思っていなかった」などと話しています。
逮捕容疑の内容
逮捕容疑は2024年7月から10月にかけて、弁護士資格がないにもかかわらず、報酬を得る目的で公務員や会社員の男女6人を弁護士に紹介した疑いです。
紹介対象となっていたのは、団体交渉権のない公務員や、給料の未払いなど勤務先とトラブルを抱えていた利用者でした。これらのケースは通常の退職代行では対応できず、法的な交渉が必要となるため、弁護士への引き継ぎが行われていました。
紹介料の実態
弁護士事務所からは、紹介料として1人当たり1万6500円が支払われていたとされます。この紹介料はウェブ広告の「業務委託費」や、同社が設立した労働組合への「賛助金」名目で振り込まれていました。
警視庁は、広告業務や労働組合には実態がなく、紹介料の隠蔽を図っていたとみています。紹介を受けていた2つの弁護士事務所の弁護士らについても、同法違反容疑で捜査が進められています。
捜査の経緯
2025年10月、警視庁はアルバトロス本社や都内の法律事務所を家宅捜索していました。残業代請求などの交渉を弁護士に斡旋していた疑いがあるとして、捜査が続けられてきた結果の逮捕となりました。
「モームリ」とは
サービスの概要
「モームリ」は2022年に事業を開始した退職代行サービスです。依頼者に代わって企業の担当者に退職の意思を伝えるとともに、有給休暇の日数確認や必要書類の手配など、退職手続きをサポートしていました。
業績と利用者数
東京商工リサーチによると、アルバトロスは2022年2月の創業から急成長を遂げ、業界最大手と呼ばれるまでになりました。2025年1月期には売上高約3億3000万円を計上し、累計利用者数は4万人を超えていたとされます。
元従業員からの告発
一方で、元従業員からは社内のブラックな実態を告発する声も上がっています。退職者が相次ぎ、弁護士法違反容疑以外にも問題点があったとする報道もあり、急成長の裏側には課題があったことがうかがえます。
弁護士法違反(非弁行為)の解説
弁護士法72条の規定
弁護士法72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を取り扱ったり、これらの「周旋」をすることを業として禁止しています。
ここでいう「周旋」とは、報酬を得る目的で、弁護士を含む第三者に対して法律事件に関する法律事務の遂行を依頼する行為を指します。つまり、弁護士への有償紹介も非弁行為に該当する可能性があります。
今回の事件のポイント
今回の逮捕で問題とされているのは、モームリ自身が法律事務を直接行ったことではなく、依頼者を弁護士に紹介する行為(法律事務の周旋)です。
退職代行サービスが単に「退職の意思を伝える」だけであれば法律事務には該当しませんが、給料未払いの交渉や残業代請求など法的な問題が絡む案件を弁護士に有償で紹介することは、非弁行為として違法となる可能性があります。
罰則と弁護士側の責任
この法律に違反した場合、「2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性があります(弁護士法77条3号)。
また、弁護士側も、非弁業者から事件の周旋を受ける「非弁提携」として同様の刑事罰が科される可能性があります。弁護士は、弁護士法72条から74条の規定に違反する者から事件の周旋を受けることが禁じられています(弁護士法27条)。
退職代行サービスの現状
急成長する市場
退職代行サービスの市場は急拡大しており、2025年には60億円規模に達するとの予測もあります。別の推計では約500億円規模とされ、200〜300社が事業を展開しています。
2024年から2025年にかけて、退職代行の利用率は約15%前後で推移し、特に若年層で高い傾向があります。利用者は20代が約6割を占め、ネットやSNSが身近なZ世代やミレニアル世代が中心です。
利用が増える背景
退職代行サービスを利用する主な理由として、「退職を言い出しにくかったから」(50%)、「すぐに退職したいから」(44%)、「人間関係が悪かったから」(32%)、「パワハラやセクハラの被害に遭っていたから」(31%)などが挙げられています。
上司に退職を切り出せない、引き止めにあって辞められないといった心理的・実務的なハードルがあるため、第三者の力を借りるニーズが高まっています。
業種別の傾向
利用率は対人サービス業や高ストレス職種で特に高く、理美容(33.3%)、金融(31.4%)、IT(29.8%)、営業職(25.9%)などで顕著です。製造業やドライバー職は退職しやすい環境にあり、利用率は低めとなっています。
注意点・今後の展望
退職代行サービスの法的リスク
今回の逮捕を受け、退職代行業界には大きな影響が予想されます。専門家からは「民間経営の退職代行は縮小ないし撤退していく可能性が高い」との指摘も出ています。
退職代行サービスを利用する際は、そのサービスがどこまでの業務を行うのか、弁護士との連携がどのような形で行われるのかを確認することが重要です。
弁護士運営と民間運営の違い
退職代行サービスには、弁護士や弁護士法人が運営するものと、民間企業が運営するものがあります。弁護士運営の場合は法的な交渉まで対応可能ですが、民間運営の場合は「退職の意思を伝える」ことが基本的な業務範囲となります。
給料未払いや残業代請求など法的問題を抱えている場合は、最初から弁護士に相談することも選択肢です。
企業側の対応
企業側でも、退職代行を利用した従業員の退職が増加しています。約3割の企業が「退職者の業務カバーで従業員の残業が発生した」と回答しており、突然の退職への対策が課題となっています。
まとめ
退職代行サービス大手「モームリ」の社長らが弁護士法違反容疑で逮捕された事件は、急成長する業界の法的リスクを浮き彫りにしました。依頼者を弁護士に有償で紹介する行為が「周旋」として非弁行為に該当するとされ、業界全体への影響が懸念されています。
退職代行サービス自体は、パワハラや引き止めに悩む労働者にとって有効な選択肢となり得ます。しかし、法的な交渉が必要なケースでは、サービスの法的な立ち位置を理解し、必要に応じて弁護士への相談を検討することが重要です。
今回の事件を機に、退職代行サービスの適法な運営のあり方について、業界全体で再検討が進むことが予想されます。
参考資料:
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