退職代行モームリ社長逮捕で問われる業界の法的グレーゾーン
はじめに
2026年2月3日、退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロス(横浜市)の社長、谷本慎二容疑者(37)と妻の志織容疑者(31)が弁護士法違反(非弁行為)の疑いで警視庁に逮捕されました。
退職代行サービスは、若者を中心に利用者が急増しており、モームリは累計4万人以上の利用実績を誇る業界大手でした。今回の逮捕は、急成長する退職代行業界全体に大きな波紋を広げています。
本記事では、逮捕の経緯と容疑の詳細、退職代行サービスにおける法的な問題点、そして利用者が知っておくべきリスクについて解説します。
モームリ社長逮捕の経緯と容疑の詳細
逮捕容疑の内容
警視庁保安課によると、谷本容疑者らは2024年7月から10月にかけて、弁護士資格がないにもかかわらず、退職を希望する公務員や会社員の男女6人を弁護士に紹介し、報酬を得ていた疑いがあります。
具体的には、提携先の弁護士事務所から1人あたり1万6500円の紹介料を受け取っていました。この紹介料は、ウェブ広告の業務委託費や、同社が運営する「労働環境改善組合」への賛助金という名目で振り込まれており、発覚を免れるための偽装工作が行われていたとみられています。
捜査の経緯
2025年10月22日に警視庁がアルバトロス社に家宅捜索を実施。その後の捜査で、同社が東京都内の2つの法律事務所に対して計約200人の顧客を紹介し、合計で数百万円の報酬を得ていた疑いが浮上しました。
提携していた弁護士事務所の弁護士2人についても、紹介を受けた弁護士法違反(非弁提携)の疑いで任意で調べが進められています。
容疑者の主張
取り調べに対し、谷本容疑者らは「弁護士法違反になるとは思っていなかった」と容疑を否認しています。同社は以前から「退職の意思を伝える通知役に徹している」と説明していました。
退職代行サービスと弁護士法の関係
非弁行為とは何か
弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を行うことを禁止しています。これに違反する行為を「非弁行為」と呼びます。
退職代行サービスにおいて、単に「退職の意思を伝える」だけであれば、依頼者の「使者」として伝言する行為にとどまるため、法的に問題ないとされています。しかし、退職日の交渉、有給消化の交渉、未払い賃金の請求、損害賠償に関する交渉などを行った場合は、非弁行為に該当する可能性が高いです。
今回の逮捕で問われている問題
今回の逮捕容疑は「非弁行為」そのものではなく、「非弁提携」と呼ばれる行為です。これは、弁護士資格のない者が、報酬を得る目的で法律事務を弁護士に紹介・斡旋することを指します。
東京弁護士会は以前から、民間の退職代行業者が「労働組合と提携」と称して交渉部分を外注する形態について、依頼者からお金を受け取る窓口が民間業者である以上、非弁提携に該当する可能性があると指摘していました。
業界全体への影響
今回の逮捕は、退職代行業界全体のビジネスモデルに疑問を投げかけるものです。多くの民間退職代行業者が、複雑な案件を弁護士や労働組合に「紹介」する形で対応してきた実態があり、同様のスキームを採用している他社にも捜査が及ぶ可能性があります。
急成長する退職代行業界の実態
市場規模と利用者の増加
退職代行サービスの市場規模は2025年には60億円規模に達すると予測されています。東京商工リサーチの調査によると、退職代行サービスを利用して退職した人がいた企業は、2021年の16.3%から2024年には23.2%に増加しています。
利用者の特徴
利用者の年代は20代が60.8%、30代が26.9%と、若年層が中心です。ただし、50代以上でも約9%の利用があり、幅広い年代に広がりつつあります。マイナビの調査では、20代の約5人に1人が退職代行を利用した経験があるという結果も出ています。
利用理由
退職代行を利用する理由としては、「退職を引き留められた(引き留められそうだから)」が約40%でトップ。「自分から退職を言い出せる環境でない」が約32%、「退職を伝えた後トラブルになりそう」が約24%と続きます。
職場環境への不満やコミュニケーションの困難さが、第三者を介した退職という選択につながっていることがわかります。
利用者が知るべき法的リスクと注意点
利用者が罰せられることはあるか
弁護士法は違反行為を行った業者側を取り締まる法律であり、退職代行を依頼した労働者本人が罰せられることは基本的にありません。
ただし、業者が非弁行為で逮捕された場合、利用者も警察から参考人として聞き取り調査を受ける可能性があります。また、業者が不適切な交渉を行ったことでトラブルが拡大するリスクも考慮する必要があります。
安全な退職代行サービスの選び方
法的リスクを避けるためには、以下の点を確認することが重要です。
まず、弁護士が運営する退職代行サービスを選ぶことが最も安全です。弁護士であれば、退職交渉から未払い賃金の請求、不当解雇への対応まで、すべての法的手続きを適法に行うことができます。
次に、労働組合が運営する退職代行サービスも選択肢となります。労働組合は団体交渉権を持つため、会社との交渉が可能です。ただし、「労働組合と提携」という表現には注意が必要です。窓口が民間業者で、労働組合に外注する形態の場合は、今回のような法的問題が生じる可能性があります。
退職代行を使わない選択肢
退職代行を利用せずとも、退職届を内容証明郵便で送付することで、会社と直接対面せずに退職することは可能です。民法627条により、正社員であれば退職届提出から2週間で退職が成立します。
どうしても自力での退職が困難な場合は、最初から弁護士に相談することで、適法かつ確実な対応が期待できます。
まとめ
今回のモームリ社長逮捕は、急成長する退職代行業界が抱える法的グレーゾーンの問題を浮き彫りにしました。
退職代行サービス自体が違法というわけではありませんが、「どこまでが合法で、どこからが非弁行為に該当するか」という線引きは曖昧な部分があります。今回の事件を機に、業界全体での法令遵守の徹底と、監督官庁によるガイドラインの整備が求められるでしょう。
利用者としては、料金の安さや手軽さだけで業者を選ぶのではなく、その業者がどのような法的根拠に基づいてサービスを提供しているのかを確認することが重要です。不安がある場合は、最初から弁護士に相談することをお勧めします。
参考資料:
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