日経平均に影落とすトランプ関税の不透明感と国内政策期待
はじめに
2026年2月24日、3連休明けの東京株式市場は複数の不確実性を抱えて取引を迎えました。前週末の23日に米国市場でダウ工業株30種平均が821ドル安と大幅に下落したことが投資家心理を冷やしています。下落の背景にはトランプ大統領による新たな関税政策への懸念と、人工知能(AI)が既存企業のビジネスモデルを揺るがすとの警戒感がありました。一方で、2月18日に発足した「高市内閣2.0」が掲げる積極財政路線への期待が、国内市場の下支え要因として注目されています。本記事では、トランプ関税の最新動向と国内政治要因が日本株に与える影響を多角的に解説します。
トランプ関税をめぐる激動の1週間
米最高裁がIEEPA関税を違憲と判断
2月20日、米連邦最高裁判所は6対3の判決で、トランプ大統領が1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて各国に課した関税は大統領権限の逸脱にあたると判断しました。この判決により、2025年から段階的に導入されてきた相互関税の法的根拠が失われる事態となりました。米税関・国境警備局によると、訴訟に関連した関税徴収額は2025年12月時点で約1,330億ドル(約21兆円)に達しており、還付問題も今後の焦点となります。
最高裁判決はIEEPAが「大統領に関税を課す権限を与えていない」と明確に断じました。この判断は、大統領の通商権限に関する歴史的な制約として今後の政策に大きな影響を及ぼすと見られています。
通商法122条による新関税と即座の引き上げ
トランプ大統領は最高裁判決を受けた同日中に、1974年通商法122条に基づき世界一律10%の関税を課す大統領令に署名しました。通商法122条は国際収支上の問題に対処するため、大統領に最長150日間、最大15%の関税を課す権限を認める規定です。新関税は米東部時間2月24日午前0時1分(日本時間同日午後2時1分)に発効する予定でした。
しかし、発動を待たずして翌21日にトランプ大統領は自身のSNSで関税率を10%から15%へ引き上げると表明しました。「徹底的かつ詳細に精査した結果」と説明しましたが、わずか1日での方針変更は市場に大きな動揺をもたらしました。適用除外品目として乗用車や医薬品、重要鉱物、エネルギー関連製品などが指定されたものの、多くの輸入品に15%の関税が課される見通しとなっています。
なお、通商法122条の適用期間は最長150日であり、中間選挙を控える議会が延長を認める可能性は低いとの指摘もあります。
米国市場の急落とリスク回避の波及
NYダウ821ドル安の衝撃
2月23日の米株式市場は大幅な下落に見舞われました。ダウ工業株30種平均は前週末比821ドル91セント(1.66%)安の4万8,804ドル06セントで取引を終了しています。S&P500種株価指数やナスダック総合指数も軒並み下落し、リスク回避姿勢が市場全体に広がりました。
下落の要因は大きく二つあります。第一に、トランプ大統領による15%への関税引き上げ表明が投資家の不安を増幅させたことです。最高裁がIEEPA関税を無効としたにもかかわらず、別の法的根拠で即座に新たな関税を打ち出す姿勢に、市場は先行きの不透明感を強めました。
AI脅威論の再燃も重なる
第二の要因として、AI関連の懸念が広がったことが挙げられます。AIが既存企業のビジネスモデルを根本から変革するとの分析レポートが市場で材料視され、金融セクターを中心に売りが広がりました。KKRが9%安、ブラックストーンが6%安、アメリカン・エキスプレスが7%安と、個別銘柄にも大きな影響が出ています。
投資家はリスク回避として金や米国債に資金を移す動きを見せ、米10年債利回りは一時4.01%台まで低下しました。関税による物価上昇懸念とAIによる産業構造変化への不安が重なり、市場の警戒感は極めて高い水準にあります。
高市内閣2.0の積極財政が下支え要因に
第2次高市内閣の経済政策
2月18日に発足した「高市内閣2.0」は、積極財政路線を継続する方針を明確にしています。高市首相は記者会見で、2026年度予算案において公債依存度を低下させるなど財政の持続可能性に配慮してきたと説明しつつ、「挑戦しない国に未来はありません」と成長投資への意欲を示しました。
具体的な施策として、AI・半導体など17の戦略分野を確定した日本成長戦略本部を中心に、3月からロードマップの策定が始まります。夏に取りまとめる成長戦略に反映させる計画です。また、片山さつき財務相が担当する「日本版DOGE」(租税特別措置・補助金見直し担当室)も始動しており、政府支出の効率化と成長投資の両立を目指しています。
市場が注目する「サナエノミクス」の実効性
高市政権が掲げる積極財政は、2025年11月に閣議決定された総合経済対策で一般会計17.7兆円、国費等合計21.3兆円規模の予算を確保するなど具体化が進んでいます。ガソリン税の暫定税率廃止や電気ガス代の支援策、約1.2兆円規模の所得減税など、家計への直接的な支援が含まれており、消費下支え効果が期待されます。
債務残高の対GDP比を安定的に引き下げる方針も示しており、財政規律と成長投資のバランスに市場の信認を確保する狙いがあります。海外市場が不安定化するなか、こうした国内の財政拡張的政策は主力株への押し目買いを誘う要因として働いています。
注意点・展望
今週は注目イベントが相次ぎます。24日(日本時間25日)にはトランプ大統領の一般教書演説とAI大手NVIDIAの決算発表が予定されています。さらに26日には米・イランによる核開発を巡る第3回協議も控えており、地政学リスクの動向にも注意が必要です。
通商法122条に基づく関税の適用期間は150日と限定的であり、議会の延長承認が不透明なことから、関税政策の持続性自体が不確実要素として残ります。一方で、トランプ大統領がさらなる関税強化や新たな法的手段を模索する可能性も否定できません。市場では「不確実性そのものがリスク」との見方が支配的であり、当面はボラティリティの高い展開が続くことが予想されます。
為替市場ではドル円が155円前後で推移しており、関税政策の行方次第では円高方向への振れにも警戒が必要です。
まとめ
3連休明けの日経平均は、米国発の関税不透明感とAI懸念という二重の逆風にさらされています。米最高裁がIEEPA関税を違憲と判断したにもかかわらず、トランプ大統領が通商法122条で新関税を即座に打ち出し、さらに15%への引き上げを表明したことで市場の警戒感は収まっていません。一方で、高市内閣2.0が掲げる積極財政と成長戦略への期待は国内市場の下支え要因として機能しています。今週は一般教書演説やNVIDIA決算など重要イベントが控えており、短期的な相場変動に備えたリスク管理が重要となります。
参考資料:
- NYダウの振り返りと見通し:トランプ関税政策への警戒感が再燃(OANDA)
- Dow tumbles more than 800 points as tariff uncertainty and AI disruption fears roil markets(CNN)
- 相互関税、違憲判決 米最高裁「大統領に権限なし」(時事ドットコム)
- トランプ氏、世界一律関税の15%への引き上げを表明(Bloomberg)
- 「高市内閣2.0」始動、財政持続可能性配慮で市場の信認確保(Bloomberg)
- 高市政権の日本成長戦略本部と国民会議と日本版DOGEの役割(三井住友DSアセットマネジメント)
- 日経平均株価 週間見通し:トランプ新関税で米ドル安・円高警戒(IG証券)
- 高市内閣2.0のスタート:消費税減税実現に向けた多くの課題(野村総合研究所)
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