NOT A HOTEL、世界的建築家と築く住宅革命の全貌
はじめに
「自宅にもなり、ホテルにもなる」という新しい不動産の形を提唱するNOT A HOTELが、世界的建築家との協業によって急成長を遂げています。藤本壮介氏、ビャルケ・インゲルス率いるBIG、ジャン・ヌーヴェルなど、建築界のトップランナーたちがこぞって参画する同社のプロジェクトは、日本の宿泊・不動産業界に大きなインパクトを与えています。
創業からわずか数年で累計契約額が数百億円規模に達したNOT A HOTELの躍進を支えるのは、社内に設けられた建築チーム「NOT A HOTEL ARCHITECTS」の存在です。用地探しから設計ディレクション、施設運用までを一貫して担うこのチームが、ブランドの世界観をどのように構築しているのか。本記事では、NOT A HOTELのビジネスモデルと建築戦略の全貌を掘り下げます。
NOT A HOTELのビジネスモデルと拠点展開
「所有」と「宿泊」を融合させる仕組み
NOT A HOTELは、2021年に代表の濱渦伸次氏が創業したスタートアップです。濱渦氏は、かつてアパレルEC企業「アラタナ」を創業し、ZOZO Technologiesの取締役を務めた経歴を持つ起業家です。NOT A HOTELの基本コンセプトは「自宅としてもホテルとしても使える住宅」という点にあります。
所有者は専用アプリを通じて、自分が使わない日程を自動的にホテルとして貸し出すことができます。たとえば1棟の物件を12分の1のシェアで購入すれば、年間約30泊の利用権が得られ、さらに他の拠点との交換利用も可能です。10億円相当の物件であれば、約8,300万円からの分割所有が実現します。この「フラクショナルオーナーシップ(共同所有)」モデルにより、従来は富裕層しかアクセスできなかった高級別荘を、より幅広い層に開放しています。
オーナーが利用しない期間のホテル売上はオーナーに還元されるため、インフレリスクを運営の仕組みで吸収できる点も大きな特徴です。単なる不動産購入ではなく、収益を生むアセットとしての設計が、投資家層からの支持を集めています。
全国に広がる拠点ネットワーク
NOT A HOTELは現在、日本各地で複数の拠点を展開しています。初期の主要拠点として、栃木県那須、宮崎県青島、群馬県水上(みなかみ)の3カ所が稼働しており、その後、石垣島、福岡、東京・広尾、そして瀬戸内にもプロジェクトが拡大しています。
那須では、建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」の谷尻誠氏・吉田愛氏が手がけた「MASTERPIECE」「CAVE」「THINK」の3棟が展開されています。特に「CAVE」は、建物全体をモルテックス(特殊左官材)で覆い、自然の高台から生え出したかのような洞窟的な造形が特徴です。3階建ての構造で、目の前には馬を飼育する広大な牧場が広がり、パノラマビューを楽しめます。
青島では「MASTERPIECE」「CHILL」「GARDEN」「SURF」の4つのタイプが用意され、サーファー向けに設計された「SURF」など、ライフスタイルに寄り添った多彩なコンセプトが展開されています。各棟はすべて異なるデザインで、「同じ建物は2つとない」というNOT A HOTELの哲学を体現しています。
世界的建築家との協業と社内チームの役割
藤本壮介、BIG、ジャン・ヌーヴェルの参画
NOT A HOTELの最大の差別化要因は、世界的建築家との本格的なコラボレーションにあります。その象徴的な存在が、石垣島の「NOT A HOTEL ISHIGAKI “EARTH”」です。設計を手がけたのは、2025年大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーとしても知られる藤本壮介氏です。
EARTHは約10,000平方メートルの海沿いの敷地に建つ、延床面積約1,500平方メートル(テラス・プール含む)の円形ヴィラです。ボウル状の屋根には緑が植えられ、石垣島の自然と一体化するランドスケープデザインが施されています。最大10名が宿泊可能な4つの寝室を備え、リビング・ダイニングからは海を一望できます。2025年7月に開業し、NOT A HOTELのネットワーク内で最大規模の施設となっています。建設前のパース段階で分割所有権が完売したことからも、ブランドへの信頼の高さがうかがえます。
さらに、デンマーク出身の建築家ビャルケ・インゲルス率いるBIG(Bjarke Ingels Group)が設計を担当する「NOT A HOTEL SETOUCHI」プロジェクトが、瀬戸内海の小島で進行中です。BIGはニューヨークの高層集合住宅「VIA 57 West」やコペンハーゲンの「8 House」など、革新的な建築で世界的に知られる設計事務所であり、日本での本格プロジェクトとして注目を集めています。
また、フランスの建築界を代表するジャン・ヌーヴェルとのプロジェクトも発表されています。ヌーヴェルはプリツカー賞受賞者であり、アブダビのルーヴル美術館やパリのアラブ世界研究所などを手がけた巨匠です。これら世界三大陸にまたがるトップ建築家の参画は、NOT A HOTELが単なる不動産スタートアップではなく、建築・デザインの分野で国際的な評価を獲得している証拠です。
NOT A HOTEL ARCHITECTSの機能と存在意義
こうした著名建築家との協業を成立させているのが、社内の建築チーム「NOT A HOTEL ARCHITECTS」です。このチームは、単なる設計部門ではありません。用地の探索・取得から、建築家との設計ディレクション、施工管理、さらには竣工後の施設運用まで、プロジェクトの全工程を一貫して管理する「プロジェクトマネージャー」としての役割を果たしています。
建築チームのCreative Director of Architectureを務める松井一哲氏は、世界的建築家との協業においてブランドの世界観を翻訳する役割を担っています。建築家のビジョンとNOT A HOTELの事業コンセプトを融合させ、「住みたくなるホテル」「泊まりたくなる自宅」という独自の価値を建築空間に落とし込む作業は、外部への丸投げでは実現できません。
社内チームが建築のゼロベース設計から、世界的建築家やデザイナーとのコラボレーション、さらには家具・家電の開発に至るまでを横断的にカバーすることで、NOT A HOTELは各拠点に一貫したブランド体験を実装しています。「風景を残すこと」が建築の役割だとする同社の哲学は、地域の自然や文化を尊重しながらも、現代的なデザインで新しい価値を創出するという姿勢に表れています。
今後の展望と注目ポイント
NOT A HOTELは2026年、次世代の建築家を発掘する「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2026」を開催しました。第2回となる今回の舞台は世界自然遺産の屋久島で、40歳以下の建築家・クリエイターを対象に作品を募集。世界112カ国から1,058作品の応募が集まりました。審査員にはビャルケ・インゲルス、藤本壮介、そしてインテリアデザイナーの片山正通氏が名を連ね、優勝作品には賞金1,000万円に加え、実際に建設されるという破格の待遇が用意されています。今年からは25歳以下を対象とした「Student Award」も新設され、若手育成にも力を入れています。
海外市場への展開も加速しています。累計契約額は創業4年で270億円を超え、海外売上が急増している状況です。今期の売上目標は200億円規模とされ、海外投資家からの関心も高まっています。日本の建築・デザイン力を武器に、グローバルなラグジュアリー不動産市場での存在感を拡大する同社の動向は、不動産テック業界全体にとっても注視すべきポイントです。
ただし、フラクショナルオーナーシップモデルは日本ではまだ歴史が浅く、景気後退期における資産価値の維持や、共同所有者間の利害調整など、中長期的な課題も残されています。拠点の急拡大に伴う品質管理やブランド体験の均一化も、今後の成長において重要な論点となるでしょう。
まとめ
NOT A HOTELは、藤本壮介、BIG、ジャン・ヌーヴェルという世界的建築家の力を結集し、「所有と宿泊の融合」という新しい不動産カテゴリーを切り拓いています。その成功の鍵は、社内建築チーム「NOT A HOTEL ARCHITECTS」が用地選定から運用までを一気通貫で管理し、外部の著名建築家のビジョンをブランドの世界観に統合する仕組みにあります。
累計契約額270億円超、世界112カ国からの設計コンペ応募という実績は、同社が単なる国内スタートアップの枠を超え、グローバルな建築・不動産ブランドとしての地位を確立しつつあることを示しています。建築の力で地域の風景に新しい価値を加え、所有の概念そのものを再定義するNOT A HOTELの挑戦は、今後の日本の不動産・観光業界に大きな示唆を与えるものです。
参考資料:
- NOT A HOTEL公式サイト - Properties
- Sou Fujimoto’s NOT A HOTEL ISHIGAKI “EARTH” - designboom
- NOT A HOTEL NASU MASTERPIECE - SUPPOSE DESIGN OFFICE
- NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2026 - ArchDaily
- NOT A HOTEL NASU CAVE - designboom
- NOT A HOTELグローバル戦略 - MUGENLABO Magazine
- NOT A HOTEL - Wallpaper*
- NOT A HOTEL ISHIGAKI “EARTH” - Dezeen
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