オリックスが空飛ぶクルマ発着場20カ所整備、西日本路線網を構築
はじめに
「100年に一度の移動革命」と呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)、いわゆる「空飛ぶクルマ」の社会実装が、いよいよ具体的な段階に入りました。オリックスが2030年秋までにeVTOLの発着場(バーティポート)を20カ所整備する計画を明らかにしています。
関西国際空港を拠点に、淡路島を中継地点として瀬戸内海の観光地を結ぶ路線網を構築する構想です。2030年秋に開業予定の大阪IR(統合型リゾート)との相乗効果も狙います。本記事では、オリックスの空飛ぶクルマ戦略とその背景、さらに日本におけるeVTOL産業の現在地を解説します。
関空を核とした西日本の空のネットワーク
20カ所の発着場が描く路線網
オリックスが構想するのは、関西国際空港を起点とした広域的な空のモビリティネットワークです。大阪湾岸から兵庫県淡路島を中継地点として、瀬戸内海エリアの観光地や主要都市を結ぶ路線網の構築を目指しています。
関西空港や神戸空港に到着した旅行者が、空飛ぶクルマを使って瀬戸内海沿岸や京都・奈良といった観光地へ短時間で移動できるようになる姿が想定されています。従来の鉄道やバスでは数時間かかるルートを、空飛ぶクルマなら数十分に短縮できる可能性があります。
関空運営で培ったインフラノウハウ
オリックスがこの事業を主導できる背景には、関西空港の運営参画で蓄積したインフラ運営の実績があります。オリックスは仏空港運営大手バンシ・エアポートとの企業連合で、2016年4月から関西国際空港と大阪国際空港(伊丹空港)の運営を担っています。運営期間は44年間で、2018年からは神戸空港の運営も開始しました。
空港というインフラの運営・管理で培った安全管理体制や利用者サービスのノウハウが、バーティポートの整備・運営にも活かされます。空港コンセッション(運営権の民間委託)で実績を持つオリックスだからこそ、20カ所という大規模な発着場ネットワークの計画を打ち出せるのです。
万博からIRへ、つながるロードマップ
万博で実証した「EXPO Vertiport」
オリックスの空飛ぶクルマ事業は、2025年の大阪・関西万博で大きな一歩を踏み出しました。万博会場内に整備された空飛ぶクルマの離着陸施設「EXPO Vertiport」は、日本初となる2台分の駐機スペースを備えた本格的なバーティポートです。
敷地面積約7,944平方メートルのEXPO Vertiportは、国土交通省航空局のバーティポート整備指針に準じて設計されました。万博期間中はANAホールディングス、日本航空(JAL)、丸紅、スカイドライブの4陣営が運航事業を展開し、オリックスがポート事業全体を統括しています。
2030年大阪IR開業との連動
計画の時間軸は、2030年秋に開業予定の大阪IR「MGM大阪」と一致しています。大阪IRは大阪湾の人工島・夢洲に建設中で、投資額は約1兆5,130億円に上ります。年間来場者数約2,000万人を見込む巨大施設です。
3つの高級ホテル、最大6,000人収容の国際会議場、劇場、カジノなどが集積するIRには、国内外から大量の来場者が訪れます。関空からIR、IRから瀬戸内海の観光地へと空飛ぶクルマで移動できるインフラが整えば、西日本全体の周遊型観光に革命をもたらす可能性があります。
段階的な事業展開のタイムライン
オリックスの計画は段階的に進みます。2025年の万博でバーティポートの運営実績を積み、万博閉幕後は2026年に大阪上空での実証運航を実施します。2027年には商用運航の開始を目指し、2030年秋のIR開業までに20カ所の発着場ネットワークを完成させるスケジュールです。
万博会場で得られた運営データや安全管理のノウハウを、商用化に向けた施設設計にフィードバックしていく計画です。
eVTOL産業の現在地と今後の課題
日本で動き出す複数のプロジェクト
空飛ぶクルマの商用化に向けた動きは、オリックス以外にも加速しています。国産eVTOL大手のスカイドライブは国土交通省航空局から型式証明の適用基準を発行され、社会実装が秒読み段階に入りました。JR東日本はスカイドライブの機体1機をプレオーダーし、2026年春に岩手県の小岩井農場での運航開始を予定しています。
AirXはEve Air Mobilityと機体2機の導入に向けた基本契約を締結し、2029年の運航開始を目指しています。日本全体で見ると、2026年から2027年にかけて実証・商用運航が相次いで始まる見通しです。
世界市場は2050年に180兆円超へ
eVTOL市場の将来性は巨大です。矢野経済研究所の予測では2025年の世界市場規模は約608億円ですが、2040年には約225兆円、2050年には180兆円を超える規模に成長するとの見通しがあります。現在の航空機業界の4倍以上に相当する規模です。
中国市場も急成長が見込まれ、2040年には約6兆円規模に達する予測があります。日本が早期にインフラ整備と規制対応を進めることで、このグローバル市場で先行者利益を確保できるかが問われています。
注意点・展望
技術的・制度的なハードル
空飛ぶクルマの商用化には、まだ複数の課題が残っています。最も重要なのは型式証明の取得です。乗客を乗せて飛行するためには、航空当局による厳格な安全認証が必要です。日本では型式証明の基準策定が進んでいますが、実際の認証取得にはさらに時間がかかる見通しです。
バッテリー技術の制約も無視できません。現在のeVTOLは航続距離や飛行時間に限りがあり、長距離路線の運航には充電インフラの整備が不可欠です。淡路島を中継地点とする路線設計は、こうした航続距離の制約を考慮したものとも読み取れます。
採算性と社会受容の壁
20カ所の発着場を整備するには莫大な投資が必要です。初期段階では利用者数が限られるため、採算が取れるまでに相当の時間がかかる可能性があります。運賃設定をどの水準にするかによって、一般的な移動手段として定着するかどうかが左右されます。
また、都市部での騒音問題や安全性に対する住民の懸念など、社会受容の課題も存在します。万博での実績を通じて安全性への信頼を高めつつ、段階的に路線を拡大していくアプローチが現実的でしょう。
まとめ
オリックスの「2030年秋までに発着場20カ所」という計画は、万博での実証経験、関空運営のインフラノウハウ、そして大阪IR開業というタイミングが揃った、戦略的な構想です。単なる新技術の導入にとどまらず、西日本全体の観光インフラを再定義する可能性を秘めています。
eVTOL産業はまだ黎明期にあり、技術・制度・採算性の課題は残ります。しかし、関空を拠点に瀬戸内海を結ぶ路線網が実現すれば、訪日観光客の動線を大きく変え、地方の観光資源へのアクセスを飛躍的に向上させるでしょう。2030年に向けた空の移動革命の行方に、今後も注目が集まります。
参考資料:
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