穴吹工務店「二刀流」戦略、地方都市で高品質マンション拡大
はじめに
香川県高松市に本社を置く穴吹工務店が、地方都市での分譲マンション開発を積極的に拡大しています。同社の最大の強みは、不動産デベロッパーとゼネコン(総合建設会社)の両方の機能を持つ「二刀流」のビジネスモデルです。
2025年末時点で沖縄県を除く全国46都道府県に累計1,500棟以上、約8万7,000戸以上のマンションを供給してきました。リーマン・ショック後の経営破綻を乗り越え、近年は量より質を重視する戦略に転換しています。
穴吹工務店の歴史と「二刀流」の源流
明治後期からの歩み
穴吹工務店は明治後期に香川県高松市で創業した建設会社です。地方の中堅ゼネコンとして実績を積み重ねた後、自社ブランドの分譲マンション「サーパス」シリーズを展開し始めました。
一般的なマンション開発では、デベロッパーが企画・販売を担当し、建設は別のゼネコンに発注します。しかし穴吹工務店は、用地取得から企画、設計、施工、販売、さらには完成後の保守・管理まで、住まいづくりの全工程を自社で一貫して手がけています。
「二刀流」のメリット
デベロッパーとゼネコンの機能を併せ持つことには、複数のメリットがあります。まず、設計段階から施工の実現性を考慮できるため、品質と効率の両立が可能です。中間マージンが不要で、コスト競争力にも優れています。
また、地方都市では大手デベロッパーが手を出しにくい小規模な案件でも採算が取れるため、地方ならではのニーズにきめ細かく対応できます。この土地ならではの気候、交通、教育環境といった要素に配慮した地域密着型のアプローチは、中四国や九州を中心に高い評価を得ています。
リーマン・ショックからの復活
急拡大の代償
穴吹工務店は2007年、国内住宅供給戸数でデベロッパー1位に輝きました。地方を中心に分譲マンションの供給を急拡大し、業界に旋風を巻き起こしていました。
しかし、この急拡大が裏目に出ました。2008年のリーマン・ショックにより不動産市場が急速に冷え込み、在庫が膨れ上がりました。マンション業界全体が打撃を受ける中、他社の経営破綻に伴うダンピング販売も加わり、穴吹工務店の経営環境は急速に悪化しました。
会社更生法の適用
2009年11月、穴吹工務店はグループ全体で約1,540億円の負債を抱え、会社更生法の適用を申請しました。マンション業界の革命児と称された企業の破綻は、業界全体に大きな衝撃を与えました。
オリックスグループ入りと再建
会社更生手続きを経て、2013年4月に大手不動産会社の大京の子会社となりました。その後、2019年1月に大京がオリックスの完全子会社となったことで、穴吹工務店もオリックスグループの一員に組み込まれました。
オリックスの資金力とグループのネットワークを背景に、穴吹工務店は着実に再建を進めてきました。2012年9月期には売上高約318億円、営業利益約67億円を計上し、黒字に復帰しています。
量から質への戦略転換
地方都市の最上位マンション
経営破綻の教訓を踏まえ、穴吹工務店は「量より質」の戦略に大きく舵を切りました。かつての大量供給モデルから、地方都市の立地条件に恵まれたエリアに高品質な物件を厳選して供給するモデルへと転換しています。
地方都市では人口減少が進む一方、中心部への人口集中と高齢化に伴う利便性重視のニーズは強まっています。駅前や中心市街地など、資産価値が維持されやすい好立地に質の高いマンションを供給する戦略は、この市場環境に合致しています。
「サーパス」ブランドの強み
自社ブランド「サーパス」は、中四国や九州を中心に高い認知度を誇ります。地方では「サーパス」の名前だけで安心感を持つ購入者も多く、長年にわたる供給実績が信頼のブランドとして定着しています。
穴吹工務店の物件は、全国平均と比較して管理品質の評価が高いことでも知られています。自社グループで管理まで一貫して行うことで、入居後の住環境の維持にも責任を持つ姿勢が評価されています。
新たな事業領域への展開
近年は分譲マンションだけでなく、学生向け賃貸マンション事業にも新規参入しています。地方都市の大学周辺エリアでの需要を取り込む狙いで、デベロッパー×ゼネコンの「二刀流」の強みを新たな領域でも発揮しようとしています。
注意点・展望
地方都市のマンション市場には構造的な課題もあります。人口減少と少子高齢化が進む中、マンションの長期的な資産価値の維持は容易ではありません。特に、地方の中核都市以外のエリアでは需要の先細りが懸念されます。
建設資材の高騰や人手不足も課題です。自社施工が強みである穴吹工務店にとって、建設コストの上昇は直接的な収益圧迫要因となります。質の高い物件を適正価格で提供し続けるためには、施工効率の向上と原価管理の徹底が不可欠です。
一方で、地方創生の流れやリモートワークの普及は、地方都市の住宅需要を下支えする追い風でもあります。オリックスグループの資源を活用しながら、地域密着の強みを生かした独自路線を貫けるかが、今後の成長の鍵を握ります。
まとめ
穴吹工務店は、デベロッパーとゼネコンの「二刀流」という独自のビジネスモデルで、地方都市のマンション市場に確固たる地位を築いています。リーマン・ショックによる経営破綻からの復活を果たし、量から質への戦略転換で着実に成長を続けています。
全国46都道府県に1,500棟以上の供給実績を持つ「サーパス」ブランドの信頼を基盤に、オリックスグループの一員として新たな成長フェーズに入っています。地方都市の住宅市場が転換期を迎える中、その「二刀流」の真価が問われる局面です。
参考資料:
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