大阪ダブル選は選挙をもてあそぶ愚行か、維新の戦略を解説
はじめに
2026年1月15日夜、大阪府の吉村洋文知事(日本維新の会代表)は、16日付で大阪府知事と大阪市長が辞職願を提出し、2月8日投開票が想定される衆院選と同日で出直し選挙に挑むことを正式表明しました。大阪都構想の実現を争点に掲げるこの決定に対し、日本経済新聞は社説で「選挙をもてあそぶ愚行」と厳しく批判しています。本記事では、今回のダブル選の背景、維新の戦略的意図、そして何が問題視されているのかを詳しく解説します。
大阪ダブル選の概要と批判の理由
ダブル選の日程と概要
衆院選が2月8日投開票の場合、出直し知事選の告示日は1月22日、市長選は1月25日となります。現職の吉村知事と横山英幸大阪市長が辞職し、改めて選挙に臨む形です。
「選挙をもてあそぶ」との批判
日本経済新聞の社説は、今回のダブル選を「選挙をもてあそぶ愚行」と厳しく批判しています。その最大の理由は、知事と市長の任期がいずれも2027年春までであり、仮に今回の選挙で両首長が当選しても、約1年後に再びダブル選挙を行う必要があるという点です。
わずか1年のために多額の選挙費用と行政リソースを投入することは、税金の無駄遣いであり、住民の利益にならないとの指摘があります。大阪市選挙管理委員会の試算では、知事選と市長選の同時実施で約20億円の費用がかかるとされています。
身内からも困惑の声
注目すべきは、日本維新の会の内部からも「する意味が分からない」と困惑や反発の声が広がっている点です。吉村知事は1月16日の緊急会見で正当性を訴えましたが、党内からも今回の決定に対する疑問の声が上がっています。
他党は対抗馬擁立に消極的で、自民、立憲民主、公明各党の府組織は候補を立てない方向で調整しています。共産党のみが候補擁立を検討していますが、維新の「独り相撲」となる可能性が高い状況です。
大阪都構想の歴史と2度の否決
大阪都構想とは何か
大阪都構想は、政令指定都市である大阪市を廃止し、複数の特別区を設置することで、大阪府と大阪市の二重行政を解消し、広域行政の効率化を目指す構想です。東京23区のような特別区制度を大阪にも導入する計画として、大阪維新の会が一貫して推進してきました。
具体的には、大阪市の権限と財源を大阪府に集約し、府が広域行政(インフラ整備、経済政策など)を一元的に担う一方、住民に身近なサービスは特別区が担うという役割分担を想定しています。
2015年の第1回住民投票
2015年5月17日、大阪市で第1回目の住民投票が実施されました。政令指定都市である大阪市を廃止し5つの特別区を設置する是非が問われましたが、反対票が賛成票をわずかに上回り、特別区の設置は否決されました。投票結果は僅差でしたが、構想は廃案となりました。
2020年の第2回住民投票
2015年11月の大阪府知事・市長ダブル選挙で、大阪維新の会の松井一郎・吉村洋文が当選し、都構想の再挑戦を掲げた松井が当選したことで、都構想が再び議論されることとなりました。
2020年11月1日、2度目の住民投票が実施されました。今度は大阪市を4つの特別区に再編する案が提示されましたが、賛成67万5829票(49.37%)、反対69万2996票(50.63%)という僅差で再度否決されました。投票差はわずか1万7167票でした。
都構想の正式な廃案
2度の住民投票で否決されたことを受け、大阪維新の会の松井一郎代表(当時大阪市長)は2023年4月の任期満了で政界を引退すると表明し、吉村洋文代表代行(府知事)は「僕が都構想に挑戦することはない」と述べました。これをもって大阪市は存続することとなり、10年に及んだ都構想の議論は正式に廃案となったはずでした。
副首都構想と連立政権の影響
自民・維新連立と副首都構想
2025年10月21日、高市早苗氏が日本初の女性首相として就任し、自民党と日本維新の会の連立政権が発足しました。連立合意の重要項目として「副首都構想」が盛り込まれ、2026年の通常国会で関連法案を成立させることが合意されました。
副首都構想は、大規模災害に備えて首都機能の一部を東京以外の都市に移転させる構想です。日本維新の会は、この副首都として大阪を想定しており、副首都実現のための条件として「特別区の設置」、すなわち大阪都構想の実現を法案に盛り込むことを目指しています。
自民党内の反発と協議の難航
しかし、自民党内では副首都構想に対する反発が強まっています。小林政調会長は「副首都は特定都市に限らず」と述べ、大阪前提の構想に疑問を呈しています。
副首都構想の実現要件に「大阪都構想の実現」を盛り込むことに対し、自民党大阪府連は「副首都と都構想は別問題」と繰り返し主張しており、党内調整は難航しています。当初年末までに結論を出す予定でしたが、協議は継続中です。
都構想復活への道筋
今回のダブル選で吉村知事と横山市長が「大阪都構想の実現」を争点に掲げ、勝利すれば「民意を得た」として、副首都構想の法案審議の中で都構想実現への道筋をつける狙いがあると見られています。
日本維新の会にとって、都構想は「一丁目一番地」の政策であり、連立政権という政治的レバレッジを活用して、2度否決された構想を復活させようとする戦略的な動きと言えます。
問題点と懸念
住民投票の結果を軽視する姿勢
最大の問題は、2015年と2020年の2度にわたる住民投票で明確に否決された大阪都構想を、わずか数年後に再び推進しようとする姿勢です。民主主義においては、住民投票の結果は重く受け止められるべきであり、「負けるまで何度でもやる」という姿勢は民意の尊重という観点から疑問が残ります。
特に2020年の住民投票の際、松井代表は「これで最後」と明言していた経緯があり、その約束を反故にする形となっています。
選挙費用と行政リソースの無駄
任期まで1年余りしかない状況で、約20億円の選挙費用を投じることは、財政的に合理性を欠きます。また、選挙実施のための行政職員の負担や、選挙期間中の政策決定の遅延など、行政効率の低下も懸念されます。
副首都構想との混同
副首都構想と大阪都構想は本来別の政策であるにもかかわらず、日本維新の会がこれらを連動させることで、議論が混乱しています。副首都としての機能強化は都構想の実現なしでも可能であるという指摘もあり、政策の必然性に疑問が持たれています。
対立候補不在の「信任投票」
主要政党が対抗馬を擁立しない方針のため、事実上の「信任投票」となる可能性が高く、真の民意を問う選挙とは言えないとの批判もあります。
今後の展望と課題
連立政権への影響
副首都構想の協議が難航し、実現が遠のけば、日本維新の会から自民党への反発が強まり、連立政権の運営に影響を及ぼす可能性があります。高市政権にとって、維新との関係をどう維持するかは重要な政治課題となります。
住民の理解と納得
仮に今回のダブル選で勝利したとしても、それが直ちに都構想への「民意」を示すものとは言えません。対抗馬不在の選挙での勝利が、2度の住民投票での否決を覆す正当性を持つかどうかは、大きな論点です。
3度目の住民投票を実施する場合、住民に対する丁寧な説明と、前回までの否決理由への真摯な対応が求められます。コスト削減効果や二重行政解消のメリットを具体的に示し、住民の理解を得ることが不可欠です。
地方自治のあり方
今回の問題は、地方自治のあり方や、住民投票の法的位置づけという大きなテーマも提起しています。住民投票の結果にどの程度の拘束力を持たせるべきか、何度まで同じテーマで住民投票を実施できるのかといった論点は、大阪に限らず全国的な課題です。
まとめ
日本維新の会による2026年2月の大阪府知事選・市長選のダブル選実施決定は、2度否決された大阪都構想の復活を狙う戦略的な動きです。副首都構想という国政レベルの政策と連動させることで、都構想実現への道筋をつける狙いがありますが、住民投票の結果を軽視する姿勢、選挙費用の無駄、任期1年余りでの再選挙という非効率性など、多くの問題点が指摘されています。
身内からも疑問の声が上がり、主要政党が対抗馬を擁立しない「独り相撲」となる可能性が高い中、この選挙が真に民意を問うものとなるかは疑問です。仮に勝利したとしても、それが2度の住民投票での否決を覆す正当性を持つかどうかは、今後の大きな論点となるでしょう。
有権者は、選挙の意義と費用対効果を冷静に見極め、地方自治のあり方について改めて考える機会とすべきです。
参考資料:
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