飲食店ファストパスとは?行列スキップの仕組みと料金を解説
はじめに
テーマパークでおなじみの「ファストパス」が、街の飲食店にも広がり始めています。人気のラーメン店やパンケーキ専門店などで、500〜1000円程度の手数料を支払えば行列をスキップして優先的に入店できるサービスが登場しました。
「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する消費者が増える中、時間をお金で買うという新しい消費スタイルが定着しつつあります。この記事では、飲食店ファストパスの仕組み、主要なサービス、導入店舗、そしてこのトレンドが生まれた背景について詳しく解説します。
飲食店ファストパスとは?2つの主要サービス
TableCheck FastPass
2024年2月にサービスを開始した「TableCheck FastPass」は、飲食店向け予約管理システムを提供するTableCheck社が展開する有料優先案内サービスです。
事前にオンラインで手数料を支払うことで、指定した時間帯に優先的に入店できる仕組みです。当初は都内の人気ラーメン店6軒からスタートしましたが、現在は20軒以上に拡大。ラーメンだけでなく、カレー、うどん、パンケーキ、寿司・刺身といった業態にも広がっています。
先行導入した店舗には、「Japanese Soba Noodles 蔦」「銀座 八五」「Japanese Ramen 五感」「博多ラーメンでぶちゃん」など、ミシュラン掲載店を含む人気店が名を連ねています。ファストパスの手数料は390〜500円に設定されています。
SuiSui(スイスイ)
一方、2025年5月にサービスを開始した「SuiSui」は、店頭でリアルタイムにチケットを購入する方式を採用しています。TableCheck FastPassが事前予約型なのに対し、SuiSuiは店舗に訪れた時点でスマートフォンからQRコードを読み取り、チケットを購入すると次に席が空いた時に優先的に入店できます。
SuiSuiの特徴は「ダイナミックプライシング」の導入です。ファストパスを購入する人が増えすぎることを防ぐため、同時に並ぶ人が増えるとチケット料金が上がる仕組みになっています。例えば、1人目は500円、2人目は750円、3人目は1000円といった具合です。平均価格は900〜1000円ですが、人気店のランチ帯では1000円を超えることもあり、期間限定コラボイベントなどでは最大5000円になるケースも報告されています。
SuiSuiは日経トレンディ「2026年ヒット予測ベスト30」で第7位に選出されており、導入店舗数は全国の主要都市を中心に約70店舗に上ります。
導入店舗と利用シーン
導入している主な飲食店
SuiSuiを導入している代表的な店舗には以下があります。
- みそかつ「矢場とん」:名古屋駅エスカ店、名古屋駅名鉄店、金シャチ横丁店、栄LACHIC店など6店舗
- ラーメン「つじ田」:東京駅八重洲地下街など
- お好み焼き「千房」
- 牛かつ「もと村」
TableCheck FastPassは、ミシュラン1つ星を獲得した「銀座 八五」をはじめ、都内の人気ラーメン店を中心に展開しています。
パンケーキ専門店でも需要
「奇跡のパンケーキ」で知られるパンケーキ専門店「FLIPPER’S(フリッパーズ)」も行列ができる人気店です。渋谷店では開店前から行列ができることも珍しくありません。北海道産の牛乳や国産小麦、竹鶴ファームの卵など厳選素材を使用したふわふわのパンケーキを求めて、多くの客が訪れます。
こうした人気店では、特に週末や休日の待ち時間が1〜2時間に及ぶことも多く、ファストパスサービスへの需要が高まっています。
なぜ今「タイパ消費」が広がるのか
Z世代を中心に広がるタイパ意識
「セイコー時間白書2024」の調査によると、15歳〜69歳の男女1,200人のうち58.0%が「タイパを意識して行動している」と回答しています。さらに、78.5%が「なるべく早く正解にたどり着きたい」、71.5%が「なるべく無駄な時間は過ごしたくない」と答えており、時間効率を重視する傾向が顕著です。
特にZ世代では68%が「タイパを意識している」と回答しており、デジタルネイティブとして膨大な情報を処理する必要がある環境で育ったことが背景にあります。動画の倍速視聴、ネタバレ消費、ショート動画の利用など、短時間で効率よくコンテンツを消費するスタイルが定着しています。
インバウンド需要も後押し
訪日外国人観光客にとっても、ファストパスは魅力的なサービスです。限られた滞在時間でできるだけ多くの体験をしたいインバウンド客は、長時間の行列に並ぶことに価値を感じません。あらかじめ時間を指定できるシステムは、有料であっても歓迎される傾向にあります。
「銀座 八五」では、「時間をお金で買えるシステムはうれしい」との声が年配の方や時間のない観光客から寄せられているといいます。
店舗側のメリットと収益効果
新たな収益源の創出
ファストパスは店舗側にとっても新たな収益源となります。「矢場とん」では、SuiSui導入後に月間70万円以上の追加売上を記録しました。最大1人6,000円の利用ニーズも観測されています。
SuiSuiの場合、導入時の初期費用や月額費用はかからず、チケット代の半分を店舗とSuiSui社でレベニューシェアする仕組みです。導入は最短3営業日から可能で、月に30万円以上の売上を上げている店舗もあります。
ダイナミックプライシングの活用
閑散期は安く、繁忙期は高く設定する「ダイナミックプライシング」を活用することで、需要に応じた価格設定が可能になります。これにより、混雑の平準化と収益の最大化を両立できます。
飲食業界では、ワタミグループの「鳥メロ」が2022年9月から深夜料金+10%を導入し、顧客離反なく運用を継続しています。また、東京都の定食屋「お食事処asatte」では、11時30分からは1100円、12時1分からは1500円など、時間帯によって異なる価格を設定しています。
注意点と今後の展望
賛否両論の反応
飲食店ファストパスに対しては賛否両論があります。「時間を効率的に使える」「観光や買い物の時間が増える」という支持の声がある一方、「並ぶことも食の一部」という考えを持つ人も少なくありません。
また、「席だけでお金を取るのか」というネガティブな反応や、経済的に余裕のある顧客だけが優遇されることへの不公平感を指摘する声もあります。店舗側は、ブランドイメージへの影響を考慮しながら導入を判断する必要があります。
順番待ちシステムとの併用
ファストパスとは別に、無料の順番待ちシステムを導入する店舗も増えています。浅草の人気ラーメン店「麺 みつヰ」では、近隣への行列の迷惑を懸念し、Webから整理券を取得できる「VACAN Noline」を導入。店頭に並ばなくても順番待ちができ、待ち時間を自由に過ごせます。
「麺場 田所商店」では、EPARKの「将来順番」機能を活用し、日時指定での順番待ち予約が可能です。有料のファストパスと無料の順番待ちシステムは、異なるニーズに応える選択肢として併存していくと考えられます。
今後の市場拡大
タイパ重視の消費行動はZ世代だけでなく、働く世代全体に広がりつつあります。女性の社会進出や男性の育児参加といったライフスタイルの変化により、時間の価値はますます高まっています。
飲食店ファストパスは、2026年のヒット予測にランクインするなど、今後さらなる普及が見込まれます。訪日外国人観光客の増加も追い風となり、特に都市部の人気店を中心に導入が進むと予想されます。
まとめ
飲食店のファストパスは、500〜1000円程度の手数料で行列をスキップできる新しいサービスです。TableCheck FastPassやSuiSuiといった主要サービスが、人気ラーメン店やカフェ、パンケーキ専門店などで導入を広げています。
タイパを重視するZ世代や、限られた時間で多くの体験を求めるインバウンド観光客を中心に支持を集めており、店舗側にとっても新たな収益源となっています。一方で、「並ぶことも食の一部」という価値観との衝突や、経済格差による不公平感といった課題も指摘されています。
飲食店を訪れる際は、ファストパスの有無や料金を事前に確認し、自分のライフスタイルに合った選択をすることをおすすめします。時間をお金で買うか、行列を楽しむか—その判断は、それぞれの価値観次第です。
参考資料:
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