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by nicoxz

イクメン時代でも父親の存在感が低下する理由とは

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はじめに

「イクメン」という言葉が定着し、男性の育児休業取得率は2024年度に過去最高の40.5%を記録しました。しかし、父親の育児参加が進んでいるにもかかわらず、若い世代における「父親の存在感」はむしろ低下しています。

博報堂生活総合研究所が2024年に発表した30年ぶりの若者調査では、「尊敬する点が一番多い相手」として母親が父親を逆転するという衝撃的な結果が明らかになりました。この記事では、調査データをもとに父親の地位低下の背景と、変容する親子関係の実態を解説します。

30年で逆転した「尊敬する親」

1994年と2024年の比較データ

博報堂生活総合研究所は、1994年と2024年に同じ調査手法で19〜22歳の若者を対象にした比較調査を実施しました。その結果は、親子関係の大きな構造変化を浮き彫りにしています。

1994年の調査では「尊敬している」と答えた若者は父親が53.5%、母親が45.4%でした。父親が過半数を占め、母親を8.1ポイント上回っていました。ところが2024年の調査では、母親を尊敬していると答えた人が61.5%に大幅増加した一方、父親は37.0%に低下しました。その差は24.5ポイントにまで広がっています。

価値観への影響力でも母親が圧倒

「自分の価値観や考え方に一番影響を与えている相手」を問う質問でも、変化は顕著です。父親を選んだ人は約2割で30年間ほとんど変わっていませんが、母親を選んだ人は4割以上にまで倍増しました。

さらに「母親と共通の趣味がある」と答えた若者は50.7%と過半数に達しました。注目すべきは男性の変化で、1994年の19.5%から2024年には41.6%へと2倍以上に増加しています。「母と一緒に出かけたい」という回答も、息子・娘を問わず大きく増えています。

「メンター・ママ」現象の正体

上下関係から「伴走型」へ

博報堂生活総合研究所はこの変化を「メンター・ママ」と名付けました。かつての親子関係は上下の支配関係が基本でしたが、現代ではフラットな横の関係を経て、母親が人生の先輩として子どもに伴走する「前後」の関係へと変化しています。

この構造は、近年の職場で広がっているメンター制度に似ています。母親が命令や指示を出すのではなく、経験に基づいたアドバイスや感情面でのサポートを提供する存在になっているのです。

共働き世帯の増加が背景に

この変化の背景には、共働き世帯の増加があります。1994年当時、専業主婦世帯と共働き世帯の数はほぼ拮抗していました。しかし2024年現在、共働き世帯は約1,200万世帯を超え、専業主婦世帯の2倍以上に達しています。

仕事と家庭の両方を経験している母親は、子どもにとって多面的なロールモデルとなります。キャリアの悩み、人間関係の相談、将来の進路選択など、より幅広い領域で子どもの相談相手になれる点が、尊敬を集める要因と考えられます。

イクメンは増えたのに、なぜ父親の存在感は薄いのか

育休取得率の急増と「質」の課題

厚生労働省の発表によると、2024年度の男性の育児休業取得率は40.5%に達し、前年度の30.1%から大幅に上昇しました。取得日数の平均は46.5日で、1カ月を超えています。

しかし内訳を見ると、「5日未満」が25.0%、「5日〜2週間未満」が26.5%と、2週間未満の取得が全体の半数を超えています。「取るだけ育休」、つまり育休を取得しても実際には家事や育児にほとんど関わらないケースも指摘されています。

「手伝い型」と「主体型」の違い

山梨総合研究所の2024年のレポートでは、父親の育児参加における「手伝い型」と「主体型」の違いが指摘されています。オムツを替える、お風呂に入れるといった個別のタスクをこなす「手伝い型」の父親は増えていますが、子どもの体調管理や学校行事の把握、日々の食事の準備など、育児全体をマネジメントする「主体型」の父親はまだ少数です。

子どもから見れば、日常的に自分の生活全体を把握し、感情面でも寄り添ってくれる存在は圧倒的に母親です。部分的に育児に参加する父親は「いてくれるとありがたい存在」ではあっても、「尊敬」や「相談」の対象にはなりにくいという構造があります。

「イクメン」から「トモイク」へ

厚生労働省は2010年に開始した「イクメン」プロジェクトを終了し、「共育(トモイク)」プロジェクトを新たに立ち上げました。これは、育児が母親の領域であり父親は「手伝う」という従来の枠組みからの脱却を目指す動きです。

「イクメン」という言葉自体が「育児をする男性は特別」というニュアンスを含んでおり、育児は本来両親が対等に担うものであるという認識の変化を反映しています。

注意点・展望

父親の存在感回復に必要なこと

調査結果は「父親が不要」ということを示しているわけではありません。むしろ、母親と同じレベルの感情的つながりを父親も築くことが重要だという示唆です。

国立成育医療研究センターの調査では、近年「育児不安」や「育児ストレス」に悩む父親が増えていることも明らかになっています。父親が孤立せずに育児に参加できる環境整備が求められます。

Z世代の家族観が社会を変える

今回の調査対象であるZ世代は、今後10〜20年で親世代になります。母親との密接な関係を経験した世代が親になったとき、どのような家族関係を築くのか。性別にとらわれない育児参加が当たり前になれば、父親の存在感をめぐる状況も変化する可能性があります。

まとめ

博報堂の30年変化調査は、育児参加の「量」だけでは親子の信頼関係は築けないという重要な事実を突きつけています。男性の育休取得率が過去最高を更新する一方で、父親への尊敬度が低下するという逆説的な現象は、育児の「質」や日常的な関わり方の見直しを迫るものです。

「イクメン」から「トモイク」への転換が示すように、育児は「手伝い」ではなく「共同責任」です。父親が子どもにとっての「メンター」になるためには、育休の日数だけでなく、日常の感情的なつながりを深めていくことが鍵となります。

参考資料:

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