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by nicoxz

ローム東芝三菱電機の連合は成るか パワー半導体再編の勝算と課題

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はじめに

ローム、東芝、三菱電機の3社がパワー半導体の統合協議に入るとの観測は、日本の半導体再編の中でも重い意味を持ちます。パワー半導体は、電流や電圧を制御して電力損失を減らす基幹部品で、EV、産業機械、鉄道、再生可能エネルギー設備、AIデータセンターの電源機器まで用途が広がっています。

生成AI向けの電力需要増加と自動車の電動化が同時進行するなかで、この分野では技術だけでは足りません。大量生産、モジュール化、車載品質、顧客基盤まで含めた「総合力」が必要です。本記事では、なぜ今この3社連合が浮上したのか、統合が実現した場合に何が強みになるのか、逆にどこが最大の障害になるのかを整理します。

なぜ今、再編が必要なのか

需要はEVだけでなくAIデータセンターでも膨らんでいる

パワー半導体の追い風は明確です。IEAによると、2024年の世界の電気自動車販売は1700万台を超え、2025年には2000万台超に達する見通しです。EVでは駆動インバーター、オンボードチャージャー、急速充電器などでパワー半導体が不可欠です。とくにSiCは、高電圧・高効率が求められる領域で採用が広がっています。

一方、AIデータセンターの拡大も見逃せません。IEAの「Energy and AI」は、データセンターの世界の電力消費が2030年に約945TWhへ倍増超するとみています。受配電設備やUPS、冷却装置の効率改善が重要になるため、ここでもパワー半導体の需要が増えます。車載向けが一服しても、電力変換需要そのものは広い産業で伸びる構造です。

日本勢は技術があっても、規模では欧米勢に見劣りする

問題は、日本勢が強い技術を持ちながら、企業ごとに分散していることです。Infineonが投資家向け資料で示したOmdiaベースの2022年データでは、世界のパワー半導体市場でInfineonが20.6%で首位、STMicroelectronicsが7.6%、三菱電機が4.2%、東芝が3.5%、ROHMが3.0%でした。ここから導けるのは、3社を単純合算すれば10%強となり、理論上は世界2位級の規模になるということです。

もちろん、単純合算がそのまま競争力になるわけではありません。ただ、顧客から見ると、供給量、コスト、開発スピード、製品ラインアップの幅が大きいほど採用しやすくなります。日本の経済産業省が半導体・デジタル産業戦略でパワー半導体を重点支援対象に置いてきたのも、まさにこの規模の壁を意識しているからです。

3社連合の強みはどこにあるのか

SiCのローム、Si量産の東芝、モジュールの三菱電機

3社の補完関係は比較的わかりやすい構図です。ロームはSiCの技術と製品展開で先行しており、2026年2月にはGaNでもTSMC技術を取り込んだ供給強化を打ち出しました。車載や産業向けの高効率パワーデバイスで、次世代材料への布石を先に打っています。

東芝はシリコン系パワー半導体の量産力が強みです。2024年5月には石川県の加賀東芝で300ミリウエハー工場を完成させ、フル稼働時の生産能力を2021年度比2.5倍に高める計画を示しました。300ミリラインはコスト競争力で有利で、車載・産業向けのMOSFETやIGBTの大量供給に向きます。

三菱電機はモジュール化と高信頼用途で厚みがあります。2024年には12インチSiウエハー由来のパワー半導体チップの量産供給を始め、2025年には熊本の新しい8インチSiC工場を完成、2026年に試験生産、2027年量産を視野に入れています。鉄道、送配電、産業機器、家電まで含めて実装ノウハウが厚く、単体チップより一段上流のソリューション提案が可能です。

この3社がまとまれば、SiCとSi、ディスクリートとモジュール、車載と産業向けが一つの連合の中でそろいます。顧客にとっては、「一部材だけ強い会社」より、「複数の電圧帯と用途を一括で相談できる会社」の方が採用しやすい場面が増えます。

すでに下地はあるが、再編の主導権はまだ流動的

再編の下地もあります。ロームと東芝は2023年12月にパワーデバイスの製造協業で合意し、総額3883億円の投資計画について経産省の支援も受けました。単なる観測段階ではなく、製造面ではすでに共同歩調を始めています。

ただし、今回の再編は一直線には進みません。最大の理由は、ロームが別の選択肢も抱えていることです。DENSOは2025年5月にロームと半導体分野の戦略提携で基本合意し、2026年3月には株式取得を含む提案をロームに出したと公表しました。ロームは、東芝・三菱電機との統合とDENSOとの資本関係強化を比較する局面にあります。

統合を難しくする論点

統合は「足し算」ではなく、経営判断の擦り合わせが本丸

統合の一番難しい点は、工場や製品を並べることではなく、誰が主導権を持つかです。ロームは材料とデバイスに強く、東芝は量産設備の効率化が武器で、三菱電機はモジュールと長期顧客関係が強い。強みが補完的である一方、どの領域を中核に置くかで出資比率や経営体制の議論が複雑になります。

また、足元の需要にも不確実性があります。EVの中長期成長は確かでも、短期では地域差が大きく、三菱電機は2025年10月に完成した新SiC工場について、設備増強の一部を2031年度以降へ後ろ倒しする方針を示しました。需要は伸びるが、立ち上がりの速度は読みにくく、統合会社をつくるなら先行投資の水準も問われます。

さらに、顧客の重なりと競合関係も調整が必要です。自動車メーカーやTier1は、供給安定のために複数ソースを求める傾向があります。統合で供給力が増しても、顧客が購買先を一本化するとは限りません。むしろ「一社依存」を避けるため、一定の競争環境を残したいという見方もあり得ます。

注意点・展望

この再編をみるうえでの注意点は、「世界2位級」という数字だけで楽観しないことです。これは既存シェアの単純合算から導ける推計であり、実際の統合効果は製品ポートフォリオの重複、顧客維持、設備統合で大きく変わります。規模の論理だけでは収益力は保証されません。

それでも、再編の方向性自体には合理性があります。パワー半導体は、ロジック半導体のように最先端微細化だけで勝負する市場ではなく、材料、製造、実装、品質保証、供給能力の総合戦です。日本企業が強みを残している数少ない半導体分野だからこそ、断片的な競争を続けるより、用途と工程をつないで戦う意味は大きいと言えます。

まとめ

ローム、東芝、三菱電機の連合構想が注目されるのは、EVとAIデータセンターの拡大でパワー半導体の重要性が一段と高まるなか、日本勢が規模の壁を越える数少ない選択肢だからです。Omdiaベースの既存シェアを単純合算すれば10%強となり、世界2位級の布陣になります。

ただし、実現の鍵は市場シェアではなく、主導権と資本関係の設計にあります。ロームにはDENSOとの選択肢もあり、短期のEV需要もなお不安定です。今回の再編は、日本のパワー半導体産業が「技術はあるが小粒」という状態を脱せるかどうかを占う試金石です。

参考資料:

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