サンケイビル系REITが583億円で非公開化へ
はじめに
フジ・メディア・ホールディングス傘下のサンケイビル系列会社が運用するサンケイリアルエステート投資法人が、公開買付け(TOB)による非公開化を決定しました。買付総額は約583億円で、トーセイとシンガポール政府投資公社(GIC)の連合が取得します。
この記事では、今回のTOBの詳細、J-REIT非公開化の背景にある市場構造の課題、そして投資家への影響について解説します。
TOBの概要
買付条件と主体
サンケイリアルエステート投資法人に対するTOBは、トーセイ傘下のトーセイ・アセット・アドバイザーズが運用管理するファンドを通じて実施されます。具体的には、Tiger投資事業有限責任組合とLion投資事業有限責任組合が買付主体となります。
買付価格は1投資口につき12万5000円です。TOB公表前営業日の終値10万3000円に対して、21.4%のプレミアムが上乗せされています。買付期間は1月7日から2月19日までで、買付代金の総額は約584億円です。
サンケイリアルエステート投資法人の概要
サンケイリアルエステート投資法人は、サンケイビル傘下の資産運用会社によって2018年に設立されました。2019年に東証REIT市場に上場し、東京都内のオフィスビルを中心に評価額で約950億円相当の不動産を運用しています。
今回のTOBが成立すれば、すべての投資口が取得され、上場廃止となります。その後、保有不動産のポートフォリオ再構築が進められる見通しです。
非公開化の背景
NAV割れ状態の継続
今回の非公開化の主な理由は、J-REIT市場の構造的な制約にあります。サンケイリアルエステート投資法人の投資口価格は、純資産価値(NAV)を下回る状態が続いていました。
NAV割れとは、REITの市場価格が保有不動産の純資産価値を下回っている状態を指します。NAV倍率が1倍未満だと、新規物件取得のための増資が既存投資主の利益希薄化につながるため、外部成長が困難になります。
フジHDへのアクティビスト圧力
フジ・メディア・ホールディングスは、旧村上系ファンドから不動産事業のスピンオフや完全売却に向けた動きを求められていたと報じられています。株式を買い増すとの通知を受けており、今回の売却はそうした株主からの圧力も背景にあるとみられています。
長期的視点での価値向上
非公開化により、上場REITとしての短期的な市場圧力から解放されます。買収側のトーセイとGICは、長期的な視点で物件の価値向上を図る方針です。
上場REITは四半期ごとの分配金支払いや情報開示が求められ、大胆な資本支出や開発投資が難しい側面があります。非公開化により、こうした制約なく不動産ポートフォリオの再編が可能になります。
J-REIT市場の現状と課題
4年ぶりの回復基調
J-REIT市場は2021年から2024年まで低迷が続いていましたが、2025年に入り回復基調に転じました。東証REIT指数は11月に2,000ポイント台まで一時回復し、底打ちの機運が高まりました。
回復の背景には、インフレ上昇分を賃料へ転嫁する動きや、不動産市場のファンダメンタルズの改善があります。金利上昇環境下でも、REITの分配金利回りと国債利回りのスプレッドが依然として大きいことが評価されています。
アクティビストによるTOBの増加
2025年には、シンガポール系投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズがNTT都市開発リート投資法人や阪急阪神リート投資法人に対してTOBを実施しました。割安なバリュエーションに着目した動きで、J-REIT市場にアクティビストの関与が増加しています。
ただし、3Dの案件は買付予定数に達せず不成立に終わり、スポンサー企業による投資口買い増しなどの防衛策も講じられています。
構造的な課題
J-REIT市場には構造的な課題があります。NAV倍率が1倍を下回る銘柄が多く、新規物件取得のための増資が困難な状況が続いています。また、スポンサー企業との利益相反問題も指摘されており、物件売却時にスポンサーグループに優先的な購入機会が提供されるケースもあります。
投資家への影響
既存投資主への対応
TOBに応募する投資主は、1投資口あたり12万5000円で売却できます。直前の市場価格に対して約21%のプレミアムがつくため、短期的にはメリットがあります。
ただし、TOBに応募しない場合、最終的に上場廃止後の強制買取りプロセスに移行する可能性があります。投資主優待として実施されていた「インターゲートホテルズ」の宿泊料金5%割引は廃止されることが発表されています。
他のJ-REITへの波及
今回の事例は、他のNAV割れ銘柄にも影響を与える可能性があります。スポンサー企業による非公開化や、外部からのTOBが増加する可能性があり、市場再編の動きが加速することも考えられます。
今後の展望
2026年のJ-REIT市場見通し
2026年のJ-REIT市場は、高値で2,200ポイント程度、下値で1,750ポイント程度と予想されています。金利上昇環境が続く中でも、分配金利回りと国債利回りのスプレッドが投資妙味を支える要因となります。
一方で、増資による需給悪化や、長期金利の大幅上昇は価格下落要因として警戒されています。
法改正による影響
2024年5月に成立した金商法改正により、TOBのルールが変更されます。3分の1ルールの閾値が30%に引き下げられ、市場内取引にも適用されるようになります。施行は2026年頃の見込みで、TOBの実施要件が厳格化されます。
まとめ
サンケイリアルエステート投資法人のTOBによる非公開化は、J-REIT市場の構造的な課題を浮き彫りにしています。NAV割れ状態の継続や、アクティビストからの圧力が非公開化を後押しする要因となりました。
J-REIT市場は回復基調にあるものの、金利上昇環境下での不透明感は残ります。投資家は、個別銘柄のNAV倍率やスポンサー企業の動向を注視しながら、投資判断を行うことが重要です。
参考資料:
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