サウジがイラン攻撃拒否、米空母派遣で中東緊迫
はじめに
2026年1月下旬、トランプ米大統領がイランに対し「大艦隊」を派遣すると宣言し、中東の緊張が一気に高まっています。原子力空母エーブラハム・リンカーンを中核とする打撃群が中東海域に到着する一方、サウジアラビアやUAEなど親米の湾岸諸国は自国の領空・領土を対イラン攻撃に使わせないと明確に表明しました。
この動きの背景には、2025年12月末からイランで続く大規模な反政府デモと、それに対する政権側の武力弾圧があります。本記事では、米国の軍事的圧力の実態、湾岸諸国の立場、イランの対応、そして今後の見通しについて、複数の情報源をもとに解説します。
米国の軍事的圧力とその狙い
空母打撃群の展開
米海軍の原子力空母エーブラハム・リンカーンと随伴する3隻の軍艦は、1月26日に中東海域に到着しました。もともと南シナ海で演習を行っていた同打撃群は、急遽中東に転進するよう命じられたものです。
トランプ大統領はSNSで「大艦隊がイランに向かっている」と投稿し、「時間がなくなりつつある」とイランに警告しました。さらに「必要であれば速度と暴力をもって任務を遂行する準備ができている」と威嚇的な表現を用いています。
追加の軍事アセット
空母打撃群に加え、米国防総省は英国レイクンヒース基地からF-15Eストライクイーグル戦闘機の飛行隊を中東に移動させました。航空追跡データの分析によると、パトリオットミサイルシステムなどの防空装備を輸送する米軍貨物機が数十機、同地域に向かっていることが確認されています。
トランプ大統領の「レッドライン」
トランプ大統領は2つの「レッドライン」を示しています。1つは平和的なデモ参加者の殺害、もう1つは拘束者の大量処刑です。ただし、実際に軍事力を行使するかどうかについては明確にしておらず、「我々は大規模な艦隊をその方向に派遣しているが、使わなくて済むかもしれない」とも述べています。
湾岸諸国の「ノー」と地域の仲介外交
サウジアラビアの明確な拒否
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、イランのペゼシュキアン大統領との電話会談で、「いかなる軍事行動にも自国の領空や領土を使用させない」と明確に約束しました。これはサウジが米国の同盟国でありながら、対イラン攻撃の拠点となることを拒否したことを意味します。
UAEとその他の湾岸諸国
UAEも同様の立場を示しました。カタールやエジプトは仲介役として動き、高官がイラン指導部やトランプ政権の中東特使と連絡を取り合っています。イスラエルのネタニヤフ首相もトランプ大統領にイランへの軍事攻撃の延期を要請したと報じられています。
湾岸諸国が慎重な理由
湾岸諸国が対イラン攻撃に距離を置く背景には、複数の要因があります。まず、2019年にサウジの石油施設がイラン関連勢力に攻撃された経験から、地域紛争のエスカレーションを強く警戒しています。また、近年サウジとイランは中国の仲介で2023年に国交を回復しており、この関係改善を損ないたくないという思惑もあります。
さらに、イランは周辺国に対し、「米国がイランを攻撃した場合、それらの国の米軍基地が攻撃される」と警告しており、湾岸諸国が報復の標的になるリスクが現実的な懸念となっています。
イランの国内情勢と対外姿勢
反政府デモの激化
2025年12月28日、イラン通貨リアルの急落をきっかけに始まった抗議デモは、瞬く間に全国規模の反体制運動に発展しました。米国を拠点とする人権活動家ネットワーク(HRANA)によると、治安部隊によるデモ弾圧で少なくとも6,000人以上が死亡し、4万2,000人以上が逮捕されています。
イラン政府はこの数字を大幅に下回る3,117人と発表し、一部を「テロリスト」と分類しています。また、イランは史上最も包括的なインターネット遮断を2週間以上続けており、情報の透明性が著しく損なわれています。
イランの軍事的対応
イラン側は空母の到着について「イランの国家防衛の決意に影響を与えない」と強調しています。国連駐在イラン代表部は、米国が過去の中東での失敗を繰り返していると批判し、「対話に応じる用意はあるが、追い詰められれば、これまでにない形で反撃する」と警告しました。
ただし、2025年のイスラエルによる攻撃でイランの防空システムと軍事力は打撃を受けており、実際の軍事能力には限界があるとの分析もあります。一方で、イラクやイエメンのイラン支援民兵組織が新たな攻撃を示唆しており、代理戦争のリスクは依然として存在します。
注意点・展望
外交的解決の可能性
トランプ大統領は軍事的圧力をかけつつも、「うまくいけばイランがテーブルにつき、公正な取引を交渉するだろう」と核合意の再交渉に言及しています。これは軍事オプションが最終手段であり、交渉による解決を完全に排除していないことを示唆しています。
エスカレーションのリスク
しかし、イラン国内の人権状況が悪化し続ければ、トランプ政権が自ら設定したレッドラインを超えたと判断する可能性があります。海上からの攻撃であればサウジやUAEの領空を使用する必要がなく、湾岸諸国の反対を回避できるという点も重要です。
地域全体への影響
仮に軍事衝突が発生した場合、石油輸送の要所であるホルムズ海峡の封鎖リスクが高まり、世界のエネルギー市場に大きな影響を及ぼす可能性があります。中東の地政学的バランスは極めて不安定な状態にあり、今後数週間が重要な局面となります。
まとめ
トランプ政権の空母派遣は、イランに対する最大限の軍事的圧力ですが、サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国の明確な拒否姿勢は、地域が全面戦争を望んでいないことを示しています。イラン国内のデモ弾圧の行方、トランプ大統領の最終判断、そして湾岸諸国の仲介外交の成否が、今後の中東情勢を大きく左右します。
日本にとっても、エネルギー安全保障の観点から中東の安定は死活的に重要です。原油輸入の約9割を中東に依存する日本は、情勢の推移を注視し、外交的解決に向けた国際社会の取り組みを支持していく必要があります。
参考資料:
- US military moves Navy, Air Force assets to the Middle East: What to know - Al Jazeera
- Aircraft carrier reaches Middle East, bolstering Iran options for Trump - The Washington Post
- Trump Warns Iran That Time Is Running Out as Ships Enter Region - Military.com
- At least 6,126 people killed in Iran’s crackdown on nationwide protests - NPR
- 米空母「脅し」と批判 サウジ皇太子と電話会談 - 時事ドットコム
- Trump Says ‘Massive Armada’ Heading to Iran - TIME
- On the verge of strikes in Iran, the US held off. What happens next is up to Trump - CNN
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