三井住友FG、米ネット銀行ジーニアスから撤退へ
はじめに
三井住友フィナンシャルグループ(FG)が、2023年に米国で立ち上げたインターネット銀行「Jenius Bank(ジーニアス・バンク)」の事業から撤退することが明らかになりました。2026年1月8日に新規口座開設とローンの取り扱いを停止しています。
米銀との間で金利競争が激化し、当初の期待ほど収益が高まらないと判断したためです。資金需要が旺盛な米国市場は引き続き重視しつつ、海外事業の自己資本利益率(ROE)10%台半ば達成に向けて、事業の選別を急ぐ方針です。
ジーニアスバンク撤退の経緯
立ち上げからわずか2年で撤退
ジーニアスバンクは、SMBCグループの100%子銀行である「SMBC MANUBANK」が2023年に立ち上げた、米国在住の個人向けデジタルリテールバンクです。高利回りの普通預金口座と個人ローンを提供し、最初の1年で10億ドル以上の預金と約9億ドルの個人ローンを獲得していました。
しかし、立ち上げからわずか2年余りで撤退を決定。金利競争の激化により、当初描いていた収益計画を達成できなかったことが主な要因です。
赤字が続く収益構造
SMBC MANUBANKは2024年第1四半期に3,830万ドルの損失を報告しました。これは主にジーニアスバンクのサポートにかかる高いコストに起因しています。
撤退の理由として「市場パフォーマンス」が挙げられており、デジタルバンクがまだ利益を上げておらず、親会社が望むほど早く収益化できないとの判断がありました。
従業員への影響
閉鎖に伴い、161人の従業員がレイオフとなります。銀行の社長や最高情報責任者(CIO)も含まれており、影響を受ける従業員は60日間の通知期間後、2026年3月10日頃に雇用が終了します。通知期間中は通常の給与と福利厚生が支給されます。
米国デジタルバンク参入の背景
巨大市場への挑戦
SMBCグループが米国デジタルバンク市場に参入した背景には、その市場規模の魅力がありました。米国の預金市場は巨大で、デジタル預金も二桁%の成長を見せており、日本よりも遥かに成長性の高い市場とされていました。
また、米国では銀行免許の取得が非常に困難で、フィンテック企業も参入に苦戦しています。既に銀行免許を持つSMBCグループにとって、これは競争優位性になると期待されていました。
野心的な目標設定
ジーニアスバンクは、10年後にSMBCグループ全体から見ても意義ある収益貢献ができる事業を目指していました。米国リテール市場の1%ほどのシェア獲得を目標とし、JPモルガンやシティバンクと直接競合するのではなく、ターゲティングされたニッチ市場を狙う戦略でした。
初回投資額は1.5億ドルで、これは一般的なスタートアップのシリーズD(第4段階の資金調達)に相当する規模です。大企業グループとして大きな投資を最初から受けられることがメリットとされていました。
激化する米国銀行市場の競争
金利競争の壁
米国のデジタルバンク市場では、預金獲得のための金利競争が激化しています。高金利の預金商品を提供しなければ顧客を獲得できない一方、高金利での預金調達はコスト増につながり、収益を圧迫します。
ジーニアスバンクは24時間365日電話対応できる体制を整え、チャットボットに頼る他のデジタルバンクとの差別化を図っていましたが、顧客獲得コストと金利負担の重さを克服できませんでした。
先行する競合との差
米国では、マーカス(ゴールドマン・サックス系)やチャイム、ソーファイなど、多くのデジタルバンクが激しく競合しています。後発参入のジーニアスバンクは、ブランド認知度や顧客基盤の面で不利な状況にありました。
世界で最も先進的とされる銀行基幹システムを採用し、迅速な商品開発が可能としていましたが、市場での存在感を確立するには至りませんでした。
今後の米国戦略
撤退でも米国重視は継続
ジーニアスバンクからの撤退にもかかわらず、三井住友FGは引き続き米国市場を重要視する方針です。資金需要が旺盛な米国市場での事業機会は依然として大きく、法人向けビジネスや投資銀行業務など、他の分野での成長を追求します。
ROE目標達成に向けた選別
三井住友FGは海外事業でROE10%台半ばの達成を目標としています。収益性の低い事業を整理し、収益貢献度の高い事業に経営資源を集中させる方針です。
ジーニアスバンクの撤退は、この戦略に沿った判断といえます。デジタルリテールバンクという未知の領域への挑戦は収益化に時間がかかると判断し、早期に見切りをつけた形です。
まとめ
三井住友FGによるジーニアスバンク撤退は、海外デジタルバンク事業の難しさを示す事例となりました。巨大な市場規模と成長性に魅力を感じて参入したものの、金利競争の激化と顧客獲得コストの高さから、収益化の見通しが立たなくなりました。
立ち上げからわずか2年での撤退決定は、損失拡大を避けるための合理的な判断ともいえます。三井住友FGは米国市場自体は重視しつつ、より収益性の高い事業に経営資源を振り向ける方針です。
参考資料:
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