おひとり様高齢者の介護、甥姪が担う現実と制度の壁
はじめに
未婚や離婚、死別などで子や配偶者がいない単身高齢者、いわゆる「おひとり様」が増え続けています。こうした高齢者が介護を必要とするとき、親族や第三者を頼ることが多くなりますが、特に目立つのが甥(おい)や姪(めい)が介護を担うケースです。
かつてお世話になった「恩返し」として支える事例も少なくありませんが、甥や姪は介護休業制度の対象外であり、仕事と介護の両立に大きな負担を強いられています。本記事では、単身高齢者の増加の背景と、甥姪が介護を担う際の課題、そして利用可能な支援制度について解説します。
単身高齢者の急増
2050年には1084万人に
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、単独世帯の高齢者は2050年には1084万人まで増加する見通しです。全世帯に占める単独世帯の割合は44.3%に達し、75歳以上の単独世帯は704万人と2020年の1.7倍に増えると予測されています。
2050年には山形を除く46の都道府県で、75歳以上人口に占める一人暮らしの割合が2割を超える見込みです。
頼れる親族がいない高齢者の増加
独居高齢者のうち子がいない人は29%に上ります。50歳時未婚率は2000年から2020年の間に、男性は9%から28%、女性は5%から18%へと大幅に上昇しました。
65歳以上の未婚者数は2050年には現在の3倍以上となる約700万人、子のいない高齢者は1,049万人に達する見通しです。従来のように子や配偶者による支援を前提とした仕組みの見直しが急務となっています。
孤立のリスク
日本の単独世帯の高齢者のうち、他者との会話が「ほとんどない」と回答した人の割合は7.0%です。これは二人以上の世帯(2.2%)や諸外国の単独世帯(アメリカ1.6%、ドイツ3.7%、スウェーデン1.7%)と比較して高い水準です。
2024年1月から3月に、一人暮らしの自宅で亡くなった65歳以上の高齢者は約1万7千人に上ると警察庁が公表しました。
甥や姪が介護を担う理由
「恩返し」としての介護
おひとり様が介護を必要とするとき、親族の中で甥や姪に頼るケースが増えています。子供時代にかわいがってもらった、学費を援助してもらったなど、かつてお世話になった叔父・叔母への「恩返し」として介護を引き受ける事例が目立ちます。
直系の子供がいない高齢者にとって、甥や姪は最も身近な若い親族となることが多く、自然と頼る相手となりやすいのです。
身元保証人としての役割
入院や施設入所の際には身元保証人が求められることが一般的ですが、おひとり様にとってこれが大きな壁となります。甥や姪に身元保証人を依頼するケースが多いものの、「働き盛りの甥を休ませることになるかもしれない」「その度にお礼の品を渡すことが精神的に辛い」といった声も聞かれます。
介護休業制度の対象外という壁
対象家族の範囲
育児介護休業法に基づく介護休業・介護休暇を取得できる対象家族は、配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫に限定されています。
甥や姪は法律上の対象家族に含まれていません。叔父・叔母の介護を理由として法定の介護休業を取得することはできないのです。
仕事との両立の困難
介護休業が利用できないため、甥や姪は有給休暇を使うか、場合によっては離職を余儀なくされます。介護が長期化すると、自身のキャリアや収入に大きな影響を及ぼすリスクがあります。
対象となる労働者は対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業を取得できますが、甥や姪にはこの権利がありません。
金融機関での制限
銀行の代理人届けの範囲は「生計を共にする親族」や「2親等以内の親族」に限られているケースが多くあります。甥姪は3親等にあたるため、代理人として認められないことがあります。
叔父・叔母の預金を代わりに引き出すといった日常的な金銭管理においても、制度上の壁が存在します。
甥姪が知っておくべき支援策
公的介護保険の早期利用
無理せず公的介護保険などを早めに利用することが重要です。65歳以上で要介護・要支援認定を受けた方は、さまざまな介護サービスを原則1割負担(所得によっては2〜3割負担)で利用できます。
在宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスを組み合わせて利用することで、甥姪の負担を軽減できます。
地域包括支援センターへの相談
地域包括支援センターは、高齢者の日常生活を地域全体でサポートするための施設です。「高齢者相談センター」などの名称で呼ばれることもあります。
介護や医療の分野に精通したスタッフが在籍しており、相談費用は無料です。すべて親族内で解決しようとせず、プロの手を借りることが推奨されています。
任意後見契約の検討
叔父や叔母が自分で決断できなくなったときに備えて、任意後見契約を結ぶ方法があります。これにより、本人に代わって財産管理や介護サービスの契約などを行う権限を得ることができます。
元気なうちに契約を結んでおくことで、将来の手続きがスムーズになります。
協力範囲の明確化
自分の生活をしながら介護するのは負担が大きいため、あらかじめ協力できる範囲を伝えることが大切です。「長期休暇中だけ」「土日だけ」といった無理のない範囲を探りましょう。
燃え尽きを防ぐためにも、できることとできないことの境界線を明確にしておく必要があります。
相続と特別寄与料
甥姪は原則として相続人ではない
甥姪は、例外(代襲相続など)を除いて相続人にはなりません。最後まで面倒を見ていたとしても、何も準備していなければ相続人にすらならないケースがあります。
住んでいた部屋が賃貸の場合の片付けや、大家への引き渡しについても、法的な立場が不明確になりがちです。
特別寄与料の請求
2019年7月の法律改正により、相続権を持たない親族でも特別の貢献(寄与)をした場合は、遺産の中からその対価を請求できるようになりました。これを「特別寄与料」といいます。
甥姪は3親等内の親族なので、介護に貢献した場合は特別寄与料を請求できる可能性があります。ただし、他の相続人との調整が必要となります。
遺言書の作成を促す
叔父・叔母に遺言書を作成してもらうことで、介護を担った甥姪に財産を遺贈することが可能になります。本人の意思を明確にしておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
今後の展望と課題
制度改正の必要性
単身高齢者の増加と、甥姪による介護の増加を踏まえ、介護休業制度の対象家族の拡大が検討されるべきでしょう。現行制度は従来の家族構成を前提としており、社会の変化に追いついていません。
本人による早期準備の重要性
おひとり様自身が元気なうちから、将来の介護に備えた準備を行うことが重要です。任意後見契約の締結、遺言書の作成、身元保証サービスの利用検討などを進めることで、甥姪への負担を軽減できます。
見守りサービスなど、社会とのつながりを維持する仕組みも積極的に活用すべきです。
まとめ
未婚や死別で子や配偶者がいない単身高齢者が増加する中、甥や姪が介護を担うケースが増えています。しかし、甥姪は介護休業制度の対象外であり、金融機関の代理人範囲からも外れるなど、制度的な壁が存在します。
甥姪が介護を担う場合は、公的介護保険を早めに利用し、地域包括支援センターへの相談を通じてプロの支援を受けることが重要です。また、任意後見契約や遺言書の作成など、法的な準備を進めることで、将来のトラブルを防ぐことができます。
介護する側もされる側も、無理のない形で支え合える体制づくりが求められています。
参考資料:
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