ストレスに打ち勝つ鍵は「コントロール感」にあった
はじめに
日常生活のストレスに対して、リフレッシュしたり気分転換を試みたりする方は多いでしょう。しかし最新の心理学研究では、ストレス軽減に本当に重要なのは「コントロール感」――つまり自分がストレスに対処できるという感覚であることがわかってきました。
米ペンシルベニア州立大学の研究チームが発表した成果では、コントロール感が高い日にはストレスの原因が解決される確率が61%も高まることが示されています。本記事では、この研究の詳細と、コントロール感を高める具体的な方法を解説します。
コントロール感とストレスの関係
8日間のインタビュー調査が明らかにしたこと
ペンシルベニア州立大学の研究チームは、日常のストレスとコントロール感の関係を調べるため、参加者に対して8日間にわたるインタビュー調査を実施しました。この研究は学術誌『Communications Psychology』に掲載されています。
研究では、日々のストレス要因に対して参加者がどの程度「自分でコントロールできる」と感じているかを測定し、そのストレスが実際に解決されたかどうかを追跡しました。
その結果、コントロール感が高い日には、ストレスの原因がその日のうちに解決される確率が61%高いことが判明しました。さらに注目すべきは、10年後に行った追跡調査でも同様の傾向が確認され、コントロール感が高い場合にはストレス解決の確率が65%高かったことです。
コントロール感は「固定的な性格」ではない
この研究の重要な知見は、コントロール感が生まれ持った性格特性ではなく、日によって変動するものだという点です。つまり、同じ人でもコントロール感が高い日と低い日があり、相対的にコントロール感が高まった日にストレス対処がうまくいく傾向があります。
これは、コントロール感を意識的に高めることが可能であることを意味しています。研究チームは「優先順位を設定する」「自分の手が届く範囲を再認識する」といった実践的な戦略でコントロール感を強化できると述べています。
脳と身体に及ぼす影響
神経科学的な裏付け
2025年に精神医学専門誌『Translational Psychiatry』に掲載された研究では、コントロール感がストレスへのレジリエンス(回復力)において重要な役割を果たすことが、脳科学的にも裏付けられました。
18歳から30歳の男性116名を対象に、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)やコルチゾール値の測定を行った結果、コントロール感が高い人はストレス課題に対する神経反応や内分泌反応が穏やかであることが確認されました。
コントロール感が高い人は、ストレスに直面してもコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が過剰にならず、感情面での動揺も少ない傾向がありました。つまり、コントロール感は単なる主観的な気持ちではなく、身体のストレス反応そのものを調整する力を持っているのです。
能動的な対処行動を促す
コントロール感がストレス軽減につながるメカニズムとして、研究者たちは「能動的な対処行動(アクティブコーピング)」の促進を挙げています。ストレスに対して自分で何かできると感じることで、回避や逃避ではなく、問題を直接解決しようとする行動が生まれやすくなります。
日本のストレス科学研究でも、心理的資本(サイコロジカルキャピタル)がストレス軽減に寄与するメカニズムとして、「積極的な解決行動」と「視点の転換」が媒介要因であることが示されています。
コントロール感を高める方法
日常で実践できる5つの戦略
研究成果を踏まえ、コントロール感を高めるための具体的な方法を紹介します。
1. 優先順位の明確化 すべてのストレスに一度に対処しようとせず、最も重要なものから順に取り組むことで、「自分で選んでいる」という感覚が生まれます。
2. 影響の輪を意識する 自分がコントロールできる範囲とできない範囲を明確に区別します。天候や他人の行動など、コントロールできないことに悩むのではなく、自分の行動や反応に集中することが重要です。
3. 小さな成功体験を積む 日常の小さなタスクを完了することで、「自分はやれる」という感覚を積み重ねます。大きな目標を小さなステップに分解するのも効果的です。
4. 視点の転換(リフレーミング) ストレスを「脅威」ではなく「挑戦」として捉え直すことで、コントロール感が高まります。困難な状況を成長の機会と捉える視点は、レジリエンスの向上にもつながります。
5. 身体的なケア 十分な睡眠、適度な運動、バランスの取れた食事は、心理的な安定の基盤です。身体の状態が整っていると、ストレスに対するコントロール感も自然と高まります。
注意すべきポイント
ただし、コントロール感には限界もあります。リクルートマネジメントソリューションズの研究コラムでは、もともとコントロール感が低い人に対して単に裁量権を与えても、逆にストレスが増加する可能性があると指摘されています。コントロール感の向上は段階的に行う必要があり、過度な責任を急に負わせることは逆効果になりかねません。
注意点・展望
ストレス研究の新たな潮流
従来のストレス対処法は、ストレスを「避ける」「発散する」ことに重点が置かれてきました。しかしコントロール感の研究は、ストレスそのものとの向き合い方を変えるアプローチです。この流れは、職場のメンタルヘルス対策や教育現場でのストレスマネジメントにも応用が期待されています。
職場での活用可能性
日本では2015年にストレスチェック制度が義務化されましたが、チェック後の具体的な改善策が不十分との指摘もあります。コントロール感を高める介入プログラムの導入は、職場のストレス対策を一歩前進させる可能性があります。
まとめ
ストレスに対処する鍵は、ストレスを消し去ることではなく、「自分で対処できる」というコントロール感を持つことにあります。最新の研究では、コントロール感が高い日にはストレスの解決率が6割以上高まり、脳や身体のストレス反応も穏やかになることが示されました。
コントロール感は固定的な性格ではなく、優先順位の設定や視点の転換といった日常の工夫で強化できます。ストレスと上手に付き合いたい方は、まず自分がコントロールできる範囲を意識することから始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料:
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