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by nicoxz

TBSドラマ「終のひと」が描く葬儀業界のリアルと社会変化

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はじめに

2026年1月14日、TBSドラマストリーム枠で「終のひと」の放送が開始されました。柿澤勇人氏がドラマ初主演を務め、余命わずかな破天荒な葬儀屋を演じるこの作品は、小さな葬儀会社を舞台に、毎回さまざまな事情を持つ遺族と接する物語です。清水俊氏の漫画を原作としたこのドラマは、単なるエンターテインメントにとどまらず、日本社会における死生観の変化と葬儀業界の実情をリアルに描いています。プロデューサーが元同級生の葬儀で葬儀会社スタッフの仕事に「プロとしての覚悟と哲学」を見たと語るように、この作品は現代日本が向き合うべき「死」というテーマを正面から取り上げています。

ドラマ「終のひと」の概要

ストーリーとキャスト

主人公の嗣江宗助(しえそうすけ)は、「嗣江葬儀店」の社長で、余命6ヶ月のベテラン葬儀屋です。ジャージ姿に銀髪、ヘビースモーカーという型破りな外見の人物で、元刑事という異色の経歴を持っています。

もう一人の主人公・梵孝太郎(そよぎこうたろう)は、医療機器営業マンとして仕事に忙殺されていましたが、母親の突然の死を機に嗣江と出会い、「嗣江葬儀店」に入社します。余命わずかな師匠と真面目な新人という凸凹バディが、DIY葬儀、孤独死、さらにはラブドール葬まで、さまざまな異例の依頼に挑んでいきます。

原作の評価

原作漫画『終のひと』は、2020年から2022年まで『漫画アクション』で連載され、全5巻で完結しました。葬儀業界関係者からも「漫画家の方が葬儀業界で働いていたのか?と思うくらいリアル」と高く評価されています。

生活保護受給者の葬儀、遠縁の親戚の葬儀など、さまざまなケースが描かれ、人の死を葬儀屋の目線で描いた教育的な内容となっています。故人・遺族・参列者の想いが交錯する葬儀屋の世界を通じて、命の終わりを見つめるヒューマンドラマです。

葬儀業界の現状と市場動向

市場規模の推移

矢野経済研究所の調査によると、2024年の国内葬祭ビジネス市場規模(事業者売上高ベース)は、前年比108.2%の1兆8,300億円と推計されています。2025年には前年比101.8%の1兆8,633億円と予測され、コロナ禍による落ち込みから回復基調にあります。

費目別のシェアを見ると、葬儀費用が全体の72.4%、飲食費が12.7%、返礼品が14.9%となっています。コロナ禍で大きく落ち込んでいた精進落としなどの飲食費や返礼品などの関連支出も回復基調にあり、平均単価の持ち直しを後押ししています。

高齢化社会による需要増加

日本の65歳以上人口は2020年時点で総人口の約28.7%を占め、この割合は2050年までさらに増加すると予測されています。総人口は減少し続けていますが、厚生労働省の人口動態統計によると、年間死亡者数は2040年まで増加すると見込まれています。

この人口動態の変化により、葬儀機会は継続的に拡大しており、2034年の市場規模は2025年比101.5%の1兆8,915億円と予測されるなど、長期的に回復・成長基調の見通しです。

業界の二極化

葬祭ビジネス市場全体では「二極化」の傾向が進行しています。家族葬や一日葬などの「小規模葬」が主流となる一方で、会場や祭壇、音楽や映像などをオリジナル演出とした高付加価値型の葬儀提案も増加しています。

2024年上半期から2025年上半期にかけて、一日葬の比率は17.7%から25.0%へと7.3ポイント増加し、直葬/火葬式は34.5%から25.7%へと8.8ポイント減少しました。葬儀形態が急速に変化していることがわかります。

葬儀業界を取り巻く変化

葬儀の意味の転換

現代の日本では、葬儀は「社会に死を告知する場」から「家族が別れを告げる場」へと意識が変化しています。コンパクトでシンプルな家族葬や直葬が主流となり、人生100年時代に入った日本社会における死生観の変化を反映しています。

この背景には、核家族化の進行と親子が別居する生活スタイルの一般化があります。かつてのように大家族で暮らし、地域コミュニティとの結びつきが強かった時代とは異なり、個人や小家族単位での「お別れ」が重視されるようになったのです。

競争環境の激化

2024年の葬儀業の休廃業・解散は66件、倒産は8件で合計74件に達し、2013年以降で最多を更新しました。一方、2024年の葬儀業の新設法人数は105件で、新規参入が倒産などの市場退出を上回る状況が続いています。

老舗ブランドと新興勢力で二極化が進み、家族葬など新たな潮流を契機に群雄割拠の状況となっています。競争激化の中で、差別化されたサービスや顧客対応が求められる時代となっています。

納棺師という職業の認知拡大

「終のひと」で描かれる葬儀のプロフェッショナルたちの仕事は、2008年の映画『おくりびと』によって広く知られるようになりました。第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したこの映画は、納棺師という職業に対する社会の認識を大きく変えました。

納棺師(のうかんし)は、死者を棺に納めるために必要な作業を行う職業で、納棺夫、湯灌師、復元納棺師とも呼ばれます。主な仕事内容は、ドライアイスで体全体を冷やし腐敗の進行を抑える、表情を整え臭いを抑える含み綿の処置、経帷子などの衣装への着替え、顔剃りや化粧(死化粧)などです。

「故人様の尊厳を守ることが大切」とする職業であり、大切な方を亡くし大きな悲しみにいる遺族が、少しでも穏やかにお見送りできるようにサポートする重要な役割を担っています。

エンディング産業の拡大

「終活」ブームの到来

過去10年間で「終活」という言葉は一般的になりました。2012年の『週刊朝日』特集をきっかけに終活ブームが到来し、エンディングノートの普及など、自分の死後に備える活動が広く認知されるようになりました。

これは単に高齢化社会だからというだけでなく、親子が別居するようになり、突然の死に際して残された家族が困らないよう事前準備をする必要性が高まったことが背景にあります。

市場規模の拡大

終活ビジネス研究会によると、2023年の葬儀業界の市場規模は2.1兆円と予測されています。矢野経済研究所のデータでは、終活関連サービス市場規模は2021年度で約4.99兆円に達し、前年比103.5%の成長を示しています。

業界は従来の葬儀・埋葬サービスにとどまらず、相続、遺言、介護、不動産、保険などを含む総合的なサービスへと拡大しています。プラットフォームには153万件以上の相談が蓄積されるなど、エンディング産業は日本社会において重要な位置を占めるようになっています。

コロナ禍の影響

新型コロナウイルスのパンデミックは、葬儀業界に大きな影響を与えました。感染防止のため参列者を制限する必要が生じ、家族葬や直葬への移行が加速しました。

しかし2024年以降、飲食費や返礼品などの関連支出が回復基調にあることから、社会的距離が緩和されたことで、ある程度の規模の葬儀が復活しつつあることがわかります。

ドラマが投げかける社会的メッセージ

死と向き合う覚悟

プロデューサーが葬儀会社スタッフの仕事に「プロとしての覚悟と哲学」を見たという言葉は、現代日本社会が「死」というテーマから目を背けがちな現状を反映しています。

「終のひと」が描くのは、単に葬儀を執り行う技術的な側面だけではなく、人生の最期をいかに迎えるか、残された人々がいかに故人を送るかという根源的な問いです。余命わずかな主人公が葬儀のプロとして働く設定は、死と向き合う覚悟の重要性を象徴しています。

遺族に寄り添う姿勢

突然の家族の死にとまどったり、遠縁の親族が口をはさみ混乱したりと、ドラマが描くさまざまな事情を持つ遺族の姿は、多くの人が実際に経験し得る状況です。

原作では、母親が残したエンディングノートを頼りに、親族の要望やトラブル、地域のしきたりなど様々な難題に悩まされる主人公の姿が描かれています。葬儀のプロフェッショナルが寄り添い、納得のいくお別れを実現する過程は、現代の葬儀業界が求められる役割を示しています。

多様な死の形

DIY葬儀、孤独死、ラブドール葬など、ドラマが取り上げる異例の依頼は、現代社会における死の多様性を反映しています。従来の形式にとらわれない葬送のあり方が模索される時代において、こうした多様性を受け入れる柔軟性が葬儀業界にも求められています。

まとめ

TBSドラマ「終のひと」は、1.8兆円規模の葬儀業界のリアルと、高齢化社会における死生観の変化を描く作品です。映画『おくりびと』以降、納棺師という職業への認知は広がりましたが、このドラマはさらに踏み込んで、さまざまな事情を持つ遺族と葬儀のプロフェッショナルとの関わりを通じて、現代日本が向き合うべき「死」というテーマを提示しています。

葬儀の小規模化と高付加価値化という二極化、終活ブームによるエンディング産業の拡大、そして核家族化による葬儀の意味の転換—これらの社会変化の中で、葬儀業界は新たな役割を模索しています。「終のひと」が描く「プロとしての覚悟と哲学」は、人生の最期をいかに迎え、いかに送るかという問いに、私たち一人ひとりが向き合う機会を提供してくれるでしょう。

参考資料:

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