東邦銀行が大東銀行の筆頭株主に、福島地銀再編の行方
はじめに
2025年12月26日、福島県最大の地方銀行である東邦銀行が、同県郡山市に本店を置く第二地方銀行・大東銀行の株式18.11%を取得し、筆頭株主となりました。取得価格は約20億円で、既存保有分と合わせた持株比率は19.67%に達しています。
東日本大震災以降、大きな変化のなかった福島県の地銀勢力図がついに動き出した形です。人口減少が進む地方において、地域金融機関の再編は全国的な潮流となっています。千葉県では投資ファンド主導で千葉銀行と千葉興業銀行の経営統合が決まるなど、地銀を取り巻く環境は大きく変化しています。
本記事では、今回の株式取得の経緯と背景、福島県の地銀事情、そして今後の展望について詳しく解説します。
株式取得の経緯と背景
「寝耳に水」だった大東銀行
今回の株式取得について、大東銀行関係者は「寝耳に水だった」と振り返っています。東邦銀行から株式取得の意向が大東銀行側に伝わったのは、2025年12月に入ってからでした。
株式の売り手となったのは、それまで大東銀行の筆頭株主だったHSホールディングス(東京都)です。HSホールディングスは2025年春ごろから株式売却の意向を示していました。この間、大東銀行は自社での株式取得を検討していたとされています。
大東銀行の好調な業績
大東銀行が自社取得を検討した根拠は、良好な経営状況にありました。2025年3月期の単体税引利益は12億円を計上し、14期連続の黒字を達成しています。中小企業向け融資に強みを持ち、特に本店を置く郡山市では高いシェアを誇っています。
大東銀行の鈴木孝雄会長・社長は「当行は安定経営を続けており、これまでの経営方針をより一層徹底していくことが取引先へのサービスと株主価値の向上につながると確信している」とコメントしています。
HSホールディングスからの売却打診
東邦銀行は2025年5月にHSホールディングスから株式売却の打診を受けました。HSホールディングスは2023年2月にSBIホールディングスから大東銀行の全株式(約19.5%)を取得していました。
SBIホールディングスは2019年9月に「第4のメガバンク構想」を掲げ、複数の第二地方銀行と資本業務提携を進めていましたが、大東銀行については早期に株式を手放す判断をしていました。
東邦銀行の狙いと戦略
「守り」の株式取得
東邦銀行の佐藤稔頭取は、株式取得の理由について「本県の人口減少に歯止めがかからない中、地域の持続可能性を高めるために、同じ営業基盤を持つ金融機関同士が互いの強みを活かした連携が重要と考えた」と説明しています。
一方で、東邦銀行は「20%以上の大東銀株の取得は予定していない」「経営統合や合併は考えていない」と明言しています。19.67%という持株比率は、関連会社となる20%をわずかに下回る水準であり、一定の距離を保ちながら関係を構築する意図がうかがえます。
県外勢への牽制
今回の株式取得には、県外の金融機関やファンドによる大東銀行への関与を防ぐ「守り」の側面があるとみられています。地方銀行の株式を取得する投資ファンドが増加する中、福島県内の金融秩序を維持する狙いがあります。
東邦銀行は福島県および県下多数の市町村の指定金融機関を受託しており、県内企業のメインバンク調査ではシェア約40%でトップを占めています。県内最大手として、地域金融の安定に責任を持つ立場といえます。
福島県の地銀事情
3行体制の現状
福島県には東邦銀行、大東銀行、福島銀行の地銀3行が存在しています。帝国データバンクの2025年メインバンク調査によると、東邦銀行がトップ(約9,000社、シェア39%)、2位が大東銀行(約2,000社、シェア9%)、3位が福島銀行(約1,800社、シェア8%)となっています。
上位4位までを地元地銀3行と地元信金が占め、合計シェアは61%に達しています。一方で、年商50億円以上の企業では県外金融機関のシェアが高まる傾向があります。
人口減少の影響
福島県は全国的にみても人口減少が深刻な地域です。野村資本市場研究所の推計によると、2010年の人口を100とした場合、福島県は2025年時点で87.7、2040年時点で73.2まで減少すると見込まれています。
三菱総合研究所の分析では、生産年齢人口が1〜2割減少する東北地方などでは、貸出残高が1割前後減少すると推計されています。地域金融機関にとって、縮小する市場での競争激化は避けられない課題です。
千葉地銀再編との類似点
ファンド主導の再編劇
今回の福島の事例で注目されるのは、千葉県で起きた地銀再編との類似点です。千葉銀行と千葉興業銀行は2025年9月29日に経営統合で基本合意し、2027年4月に持株会社を設立する予定です。
この再編を主導したのは投資ファンド「ありあけキャピタル」でした。元ゴールドマン・サックス証券の銀行アナリストが設立した金融特化型ファンドで、2022年から千葉興銀株を買い進め、2025年1月には議決権比率19.9%で筆頭株主となりました。
第二地銀の減少
全国的にみると、第二地方銀行の再編は加速しています。2026年1月には長野銀行が八十二銀行と合併、同年5月には福邦銀行が福井銀行に吸収合併される予定で、長野県と福井県から第二地銀が消滅します。
1990年末には132行存在した地方銀行は2025年には97行に減少し、そのうち第二地銀は68行から36行へとほぼ半減しています。
今後の展望
経営統合の可能性
現時点では東邦銀行・大東銀行ともに経営統合を否定していますが、市場環境の変化次第では将来的な統合の可能性は否定できません。金融庁の報告書でも、地域金融機関の経営状況は二極化しており、経営統合を後押しする施策の延長が検討されています。
「金利のある世界」が戻ってきたことで、地方銀行の収益構造は改善傾向にあります。しかし、預金獲得競争の活発化など競争は激化しており、規模のメリットを追求する動きは今後も続くとみられます。
大東銀行の独自路線
大東銀行は「地域に密着したコミュニティ銀行」を経営理念に掲げ、中小企業・個人向け取引に強みを持っています。第6次中期経営計画では経営基盤の強化と人財育成体制の構築に取り組んでおり、独自路線の維持を目指す姿勢を示しています。
南東北地方の第二地銀(きらやか銀行・仙台銀行・福島銀行)とATM相互無料提携「東北おむすび隊」を展開するなど、広域連携にも積極的です。
まとめ
東邦銀行による大東銀行株式の取得は、人口減少が進む地方において地域金融機関がどう生き残るかという課題を浮き彫りにしています。経営統合を否定しながらも筆頭株主となった東邦銀行の動きは、県外勢への牽制と将来への布石の両面があるとみられます。
今後、両行がどのような連携策を打ち出すのか、また大東銀行が独自路線を維持できるのかが注目されます。千葉地銀再編のようにファンド主導で事態が動く可能性も否定できず、福島県の地銀を巡る動向は引き続き注視が必要です。
参考資料:
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