地銀業績を株高が下支え、含み益3.3兆円で債券安を補完
はじめに
日本の株式市場の好調が、地方銀行の業績を大きく下支えしています。非上場を含む地方銀行全97行の2025年4〜12月期決算で、有価証券の含み益は3兆3,000億円に達し、前年同期比で2割増加しました。上場地銀73行・グループでは65社が増益・黒字転換を果たし、連結純利益の合計は約1兆3,140億円と前年同期から32%増加しています。
一方で、日銀の利上げに伴う金利上昇により、保有国債の含み損が拡大するという課題も抱えています。本記事では、株高と金利上昇が交錯する中での地銀経営の実態と今後の見通しを解説します。
株高が生む含み益の拡大
有価証券含み益3.3兆円の内訳
地方銀行が保有する有価証券の含み益が3兆3,000億円に達した背景には、日本株式市場の堅調な推移があります。日経平均株価は2024年から2025年にかけて歴史的な高値圏で推移しており、地銀が保有する政策保有株式や投資信託の評価額が大幅に上昇しました。
政策保有株式とは、取引先企業との関係維持を目的として地銀が保有する株式です。銀行業界では近年、企業統治の観点から政策保有株式の縮減が求められていますが、皮肉にもその保有株の含み益が業績を支える構図となっています。
株式売却益が債券安を補完
注目すべきは、地銀が株式の売却益を戦略的に活用している点です。金利上昇局面では、保有する国債などの債券価格が下落し、含み損が発生します。この含み損を処理するために債券を売却すると損失が計上されますが、その損失を含み益のある株式の売却益で補完しているのです。
2025年4〜12月期の決算では、債券の売却損が約700億円と前年同期から4割増加した一方、株式売却益は約1,200億円を計上しました。株式売却益が債券売却損を大きく上回ることで、有価証券全体ではプラスの収益を確保できています。
金利上昇がもたらす光と影
利ざや改善という追い風
日銀の段階的な利上げにより、地銀にとっての本業である貸出ビジネスの収益性が改善しています。預貸利ざや(貸出金利回りから預金等利回りを差し引いた差)が拡大し、コア業務純益は前年同期比29.4%増の1兆637億円に達しました。
長年の超低金利環境で圧縮されていた利ざやが回復に向かうことは、地銀の本業の収益力強化を意味します。政策金利のさらなる引き上げが予想される中、貸出収益はしばらく改善傾向が続くと見込まれています。
国債含み損の拡大という逆風
一方で、金利上昇は地銀が保有する国債の価格下落をもたらします。地銀全体の国内債券の含み損は拡大傾向にあり、一部の地銀では含み損が経営の重荷となっています。特に中小規模の地銀では、保有する債券ポートフォリオの含み損処理が追いつかず、経営指標が悪化するリスクがあります。
上位行では含み損の「損切り」を積極的に進めていますが、下位行ではリスクが蓄積されている状況です。金利がさらに上昇した場合、含み損がさらに膨らむ可能性があり、地銀間の「優勝劣敗」が鮮明になることが懸念されています。
65社増益の裏側にある課題
規模による格差
上場地銀73行のうち65社が増益となった一方、8社は減益でした。この数字の裏側には、規模や地域性による格差が潜んでいます。大規模な地銀は貸出金利の引き上げを進めやすく、保有株式も大型株が多いため含み益も大きい傾向があります。
一方、小規模な地銀では貸出先の選択肢が限られ、金利引き上げの交渉も難航しがちです。地域経済の活力によっても業績が左右されるため、人口減少が進む地方の小規模地銀にとっては、金利上昇の恩恵を十分に受けられない状況が続いています。
持続可能性への問い
株式売却益に依存した業績構造には持続可能性の問題があります。含み益のある株式を売却し続ければ、いずれその原資は枯渇します。また、政策保有株式の縮減圧力が強まる中で、株式保有自体を減らす方向に動かざるを得ません。
地銀の真の収益力は、本業である預貸ビジネスの利ざやと、手数料収入や資産運用コンサルティングといった非金利収益にかかっています。
注意点・展望
金利動向が業績を左右
今後の地銀業績は、日銀の金融政策と株式市場の動向に大きく左右されます。利上げが継続すれば利ざやの改善は進みますが、同時に債券含み損の拡大リスクも高まります。株式市場が調整局面に入れば、含み益による業績の下支え効果も薄れます。
地銀再編の加速も
業績格差の拡大は、地銀再編の動きを加速させる可能性があります。経営基盤の弱い地銀同士の統合や、異業種との連携強化が進むと見られています。金利上昇局面を経営基盤強化の好機と捉え、本業の収益力向上に取り組めるかが、各地銀の将来を分ける鍵となります。
まとめ
地方銀行の業績は株高に支えられ、全97行の有価証券含み益が3.3兆円に達するなど好調に推移しています。株式売却益で国債の含み損処理を補完する構図が機能している一方、この手法の持続可能性には限界があります。
金利上昇による利ざや改善という本業の追い風を活かしつつ、株式に依存しない収益基盤を構築できるかが、地銀経営の今後の焦点です。投資家としては、個別の地銀の収益構造やリスク管理の質を見極めることが重要です。
参考資料:
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