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by nicoxz

東急不の再生建築ファンドが映す築古活用の転換点

by nicoxz
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はじめに

東急不動産が再生建築に特化した投資を打ち出したことは、単なるニッチ戦略ではありません。建設費の上昇が続き、都市部では新築だけで投資採算を組む難度が上がるなかで、「壊して建てる」から「残して価値を上げる」へ不動産の発想が移り始めていることを象徴しています。

再生建築は、老朽化した建物をそのまま延命する保守的な修繕ではなく、既存躯体を活かしながら法規、デザイン、用途、環境性能を更新し、別の価値をつくる手法です。ファンド化が進むなら、個別事例だった手法が投資アセットとして認識され始めたことになります。本稿では、東急不動産の先行事例、建設費高騰との関係、投資商品としての意味を整理します。

再生建築が投資テーマになる理由

建設費高騰と新築採算の難化

再生建築への注目が高まる最大の理由は、建設費の上昇です。建設物価調査会が2026年1月に公表した2025年12月分の建築費指数では、東京の事務所S造の工事原価指数は139.8で前年同月比2.8%増、集合住宅RC造は142.2で同5.5%増でした。背景には人手不足による専門工事費の上昇や、電線・ケーブルなど資材価格の上昇があります。

新築は、土地取得費に加えてこの建設費上昇をまともに受けます。とくに都市部の中小ビルでは、建て替えによって延床や用途の自由度がむしろ下がるケースもあり、投資家から見た期待利回りが出にくくなります。そこで既存躯体を残し、解体費と工期、資材投入量を抑えながら賃料単価を引き上げる再生建築が、現実的な選択肢になってきました。

国土交通省も2024年末に既存建築物の現況調査ガイドラインを公表し、既存ストック活用の円滑化を進めています。制度面でも「残して使う」方向へ環境整備が進みつつあります。

既存躯体を価値に変える設計思想

東急不動産は2022年に再生建築研究所と業務提携し、老朽化物件に対して再生建築を通じたソリューション提供を進める方針を公表しました。この提携発表では、既存躯体を活かしてCO2排出量と産業廃棄物を大幅に削減し、日本の建築を「壊す文化から残す文化」へ変えていく考え方が打ち出されています。

重要なのは、環境配慮だけではなく、不動産価値の再定義です。再生建築は、耐震、動線、採光、設備、共用部デザインなどを再設計することで、築年の古さを単なるディスカウント要因から、個性や物語性のあるアセットへ変えます。新築に似せるのではなく、古さを編集して新しい賃料耐性をつくる発想です。

COERUが示した事業化の可能性

渋谷でのバリューアップ事例

東急不動産は2024年、再生建築の手法を用いたコンパクトビルシリーズ「COERU」を渋谷で展開しました。公式リリースでは、COERU渋谷道玄坂とCOERU渋谷イーストについて、既存建物を解体せず、適正化の過程で環境性能の向上や執務環境の改善を行い、バリューアップしたと説明しています。

このシリーズが示すのは、再生建築が大型再開発の補完ではなく、都市部の中小ビル投資そのものになり得る点です。渋谷駅徒歩圏という需要の強い立地で、築古ビルを現代的なワークスペースへ転換できれば、取得価格や工事費の抑制と賃料向上を両立しやすくなります。

三鬼商事の2026年2月時点データでは、都心5地区の平均空室率は2.20%、平均賃料は2万1969円です。渋谷区の需給が比較的締まっているなかで、再生建築は「新築でなくても借り手がつく」どころか、意匠性の高い選択肢として競争力を持ち得ます。

環境価値と金融商品の接続

2025年の東急不動産のリリースでは、COERUの2物件がグッドデザイン賞を受賞し、既存躯体を活かす再生建築により、新築時と比べてCO2排出量や廃棄物量を大幅に削減しながら、需要に即した設計で新築とは異なる不動産価値を生み出したと整理されています。

ここにファンド化の意味があります。環境価値、希少性、工事費抑制、リーシング競争力を組み合わせ、投資家に説明可能なストーリーへ変えることです。単発の再生案件ではなく、複数案件を束ねるファンドになると、施工ノウハウ、リーシング実績、環境評価を再利用でき、再生建築の再現性が高まります。

つまり再生建築ファンドは、ESG色の強い商品というより、建設費高騰時代の実務的な不動産金融商品と見るべきです。環境配慮は魅力の一つですが、本質は資本効率の改善にあります。

注意点・展望

もっとも、再生建築には難しさもあります。既存建物は一棟ごとに条件が違い、法適合性の確認、耐震補強、設備更新、テナント退去、工期管理などの不確実性が新築より高いです。見た目が魅力的でも、構造条件が悪ければ投資採算はすぐ崩れます。

また、再生建築は万能ではありません。用途転換が難しい物件、立地競争力の弱い物件、空室が長く続く物件では、再生より建て替えや売却が合理的なケースもあります。ファンドとして成功するには、「何でも再生する」のではなく、再生が最も効く立地と建物タイプを見極める目利きが欠かせません。

それでも、建設費上昇と脱炭素圧力が続く限り、既存ストック活用の重要性は増します。都市部の築古中小ビルは大量に存在し、ここを投資対象として再編集できれば、不動産市場の厚みは大きく変わります。

まとめ

東急不動産の再生建築ファンドは、築古物件を「低収益資産」ではなく「再設計可能な原石」と見直す流れの先頭にあります。背景にあるのは理念より先に、建設費高騰と新築採算の悪化というきわめて現実的な環境変化です。

今後の注目点は、再生建築が渋谷のような強い立地以外でも成立するか、そして環境価値が実際に資金調達コストや出口価格へどう反映されるかです。再生建築はブームで終わるのか、それとも都市不動産の標準手法になるのか。ファンド化の成否が、その分水嶺になります。

参考資料:

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