東洋エンジニアリング株連日ストップ高:レアアース国産化への期待
はじめに
プラント建設大手の東洋エンジニアリング(6330)の株価が急騰しています。2026年1月15日には前日比15.69%高の7370円となり、連日でストップ高を記録しました。年初から7連騰し、昨年末と比べてすでに株価は2倍になっています。
背景にあるのは、中国によるレアアース(希土類)の対日輸出規制強化と、日本の排他的経済水域(EEZ)内での国産レアアース開発への期待です。東洋エンジニアリングは南鳥島沖のレアアース試掘プロジェクトに携わっており、国産資源開発の恩恵を受ける銘柄として注目を集めています。
本記事では、東洋エンジニアリング株急騰の背景と、日本のレアアース戦略について解説します。
東洋エンジニアリング株急騰の背景
中国の対日輸出規制が引き金に
2026年1月6日、中国商務部は「デュアルユース物品の対日輸出管理の強化に関する公告」を発表しました。軍民両用品について、日本への輸出を即時禁止するという内容で、対象品目にはレアアースも含まれるとされています。
さらに1月9日には、民生用のレアアース関連製品についても輸出許可が滞っていることが明らかになりました。中国政府が軍民両用の審査を厳格化したことで、事実上の輸出制限状態に陥っています。
この規制は、高市早苗首相の台湾有事をめぐる国会答弁を念頭に、経済圧力を強める目的とみられています。日本経済への影響は大きく、野村総合研究所の試算によれば、レアアース輸入の3カ月間停止による経済損失は約6,600億円、1年間では2.6兆円に達するとされています。
国産レアアース開発への期待
このような状況下で、国内でのレアアース調達を可能にするプロジェクトへの期待が高まっています。東洋エンジニアリングは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が主導する南鳥島沖のレアアース試掘プロジェクトに参画しており、事業拡大への連想から買いが集中しました。
同社は2015年に「次世代海洋資源調査技術研究組合(J-MARES)」の設立に参加。2018年からは戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の海洋課題に民間実施機関として参画し、南鳥島周辺EEZ海域のレアアース泥を対象とした技術開発を続けてきました。
昨年も高市首相が重要鉱物の安定供給強化を推進する中、政策期待から株価は約4.2倍に上昇していました。今回の中国規制強化で、さらに国産資源開発への期待が高まった形です。
南鳥島レアアース開発プロジェクトの概要
世界初の深海採鉱試験
JAMSTECは2026年1月11日、地球深部探査船「ちきゅう」を清水港から出港させ、南鳥島沖EEZ海域で世界初となる深海レアアース泥の採鉱システム接続試験を開始しました。2月14日に帰港予定です。
南鳥島は日本の最東端に位置し、周辺のEEZ海底下にはレアアース元素の含有量が特に高いレアアース泥が存在します。埋蔵量は1,600トン超で、開発に成功すれば日本は世界第3位のレアアース供給国になる可能性を秘めています。
試験では、水深約6,000メートルの海底で「閉鎖型循環方式」の採鉱システムを用いてレアアース泥を回収します。海洋石油・天然ガス掘削で用いられる「泥水循環方式」に独自技術を加えたもので、採鉱時に発生する懸濁物の漏洩・拡散を抑制できるのが特徴です。
2027年の本格採鉱に向けて
今回の接続試験は、2027年2月に予定されている本格的な採鉱試験への布石となります。順調に進めば、2027年2月には1日あたり350トンのレアアース泥掘削が実施される見込みです。
JAMSTECのプロジェクトでは、東洋エンジニアリングが海底6,000メートルからレアアース泥を回収するシステムの技術開発を担当しています。2023年には後継組織である「次世代海洋調査株式会社」が発足し、同社も出資しています。
レアアースをめぐる地政学的リスク
中国依存度の実態
日本が輸入するレアアースの中国依存度は、2010年の尖閣諸島問題時の約90%から、現在は約60%に低下しました。しかし、この数字だけでは実態を正確に反映していません。
特に深刻なのは、EV用モーターに使用されるネオジム磁石の補助材料であるジスプロシウムやテルビウムです。これらのレアアースは、ほぼ100%を中国に依存しています。
中国の輸出規制が長期化すれば、自動車、電子機器、風力発電など幅広い産業に影響が及びます。レアアースはハイテク製品に欠かせない素材であり、代替が困難なケースも多いのが現状です。
フレンドショアリングの加速
この状況を受け、同盟国・友好国からの優先調達を志向する「フレンドショアリング」の動きが加速しています。2025年10月には、米国のトランプ大統領とオーストラリアのアルバニージー首相がレアアースを中心とした重要鉱物開発で合意文書に署名しました。
両政府は半年で30億ドル(約4,500億円)超を投資し、8兆円規模の資源開発を行う計画で、日本も一部参画する予定です。レアアースのサプライチェーンは、地政学的な再編期に入っています。
投資の視点からみた課題
期待先行の懸念
東洋エンジニアリング株の急騰について、市場では「期待先行」との見方もあります。レアアース開発が同社の業績に本格的に寄与するまでには時間がかかり、現在の株価には相当程度の期待が織り込まれている可能性があります。
空売り勢が踏み上げを余儀なくされているとの報道もあり、需給面での株価上昇の側面もあります。投資判断には慎重な分析が必要です。
採算性の課題
南鳥島沖のレアアース開発には、採算性という根本的な課題があります。JAMSTECも指摘するように、本土から遠く離れた離島海域で、水深6,000メートル付近という過酷な環境での採掘は、コスト面で困難を伴います。
豊富な埋蔵量が確認されても、中国産と価格競争できる水準でコストを抑えられるかは未知数です。経済安全保障の観点からは意義があっても、純粋なビジネスとしての採算性は別問題として検討する必要があります。
今後の展望
技術実証から産業化へ
2026年1月の接続試験、2027年2月の本格採鉱試験を経て、南鳥島レアアース開発は次のフェーズに進みます。技術的な実証が成功すれば、産業化に向けた議論が本格化するでしょう。
SIP海洋は、今回の試験で得られる成果が「日本のレアアースサプライチェーンの構築において確かな一歩を刻むものになる」としています。ただし、商業ベースでの採掘実現には、さらなる技術革新とコスト削減が必要です。
経済安全保障の強化
中国の輸出規制は、日本の資源戦略における中国依存のリスクを改めて浮き彫りにしました。国産資源開発、フレンドショアリング、リサイクル技術の向上など、複合的なアプローチで供給リスクを分散する必要があります。
東洋エンジニアリングをはじめとする関連企業への投資家の関心は、こうした経済安全保障の文脈と密接に結びついています。短期的な株価変動だけでなく、中長期的な国家戦略の動向を注視することが重要です。
まとめ
東洋エンジニアリング株の連日ストップ高は、中国のレアアース対日輸出規制という地政学的リスクと、南鳥島沖での国産レアアース開発への期待が重なった結果です。
日本の排他的経済水域内に眠るレアアース資源は、経済安全保障の観点から戦略的価値が高いといえます。2026年1月から始まる試掘プロジェクトの成否は、日本の資源戦略に大きな影響を与えるでしょう。
ただし、投資判断においては、現在の株価に織り込まれている期待の程度や、商業化までの道のりの長さを冷静に評価する必要があります。レアアース開発は国家プロジェクトとしての意義と、ビジネスとしての採算性を分けて考えることが求められます。
参考資料:
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