トランプ経済1年目の通信簿、予想を覆した実績
はじめに
第2次トランプ米政権が発足してから1年が経過しました。就任前には「過激な関税政策が経済を減速させる」「インフレが再燃する」との予測が多くの経済学者から出されていましたが、蓋を開けてみれば米国経済は底堅く推移し、インフレ率も大幅な加速を免れています。
しかし、2026年2月20日に米連邦最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税を違憲と判断したことで、トランプ経済政策は大きな転機を迎えています。本記事では、トランプ政権1年目の経済実績を多角的に分析し、今後の展望を探ります。
GDP成長率:波乱の中の底堅さ
四半期ごとの推移
2025年の米国GDP成長率は、四半期ごとに大きく変動しました。第1四半期(1〜3月)はマイナス0.5%と落ち込みました。関税発動前に企業が輸入を前倒しで増やした結果、貿易赤字が拡大したことが主因です。消費者支出も先行き不透明感から減速しました。
しかし第2四半期にはプラス3.8%と急回復し、第3四半期もプラス4.3%と力強い成長を見せました。AIブームによるデジタル関連投資が実質GDP成長率を平均1ポイント以上押し上げたことが大きな要因です。ただし第4四半期はプラス1.4%にとどまり、市場予想を下回りました。
通年では実質GDP成長率は前年比プラス2.1%程度と推計されており、景気後退を免れた形です。ゴールドマン・サックスは2026年の成長率をプラス2.8%と予測しています。
AI投資が経済を下支え
トランプ政権1年目で経済が底堅く推移した最大の要因は、AI関連投資の爆発的な拡大です。ブルッキングス研究所の分析によれば、トランプ大統領がディールの成果として掲げる対米投資計画の大半はAI関連インフラに集中しています。
一方で、政権が本来重視する自動車・造船・鉄鋼などの製造業向け投資は全体の約7%にとどまっており、「米国製造業の復活」という看板政策との乖離が指摘されています。
関税政策:最大の看板と最大の打撃
1年間の関税政策の軌跡
トランプ大統領は2025年4月、全輸入品に対して10%の基本関税を課し、57カ国にはさらに追加関税を上乗せしました。日本への追加関税は24%と設定されました。発表直後の4月8日時点で平均関税率は30%に達し、1930年代以来の高水準となりました。
その後、各国との交渉や一部関税の猶予により、足元では平均関税率は約15%まで低下しました。しかし2024年の2.4%と比較すれば依然として大幅に高い水準であり、企業の利益率悪化や物価上昇への影響は続いています。
最高裁が違憲判決を下す
2026年2月20日、米連邦最高裁は6対3でIEEPAに基づくトランプ関税を違憲と判断しました。「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」との判決で、相互関税やフェンタニル対策名目の中国・カナダ・メキシコへの関税が対象となります。
この判決はトランプ政権にとって最大級の痛手です。違法に徴収された推定1,600億〜1,750億ドルの関税の還付義務が生じる可能性もあります。トランプ大統領は即座に通商法122条に基づく一律10%の追加関税を発表しましたが、同法では150日間しか関税を維持できないという制約があります。
なお、通商拡大法232条に基づく自動車や鉄鋼・アルミニウムへの関税は今回の訴訟の対象外であり、引き続き維持されます。
インフレと消費者への影響
インフレ率は「意外にも」抑制的
関税の導入で物価の急上昇が懸念されていましたが、インフレ率は当初の予想ほど加速しませんでした。コアCPIは2025年1月時点の前年比3.3%から、9月には3.0%へとむしろやや低下しています。第4四半期もインフレ率は3%前後で推移しました。
ただし、これは全体の数字であり、品目別に見ると関税の影響が色濃く出ている分野もあります。輸入品に依存する消費財では価格上昇が顕著で、低中所得層ほど負担感が大きくなっています。
「K字型」経済の深刻化
三菱総合研究所の分析によれば、米国経済は「K字型」の二極化が進んでいます。高所得層はAI関連の株式投資や不動産価格の上昇で恩恵を受ける一方、低中所得層は関税による物価上昇の負担を直接受けて消費を抑制しています。
この経済格差の拡大は、2026年にはさらに加速すると予測されています。全体のGDP成長率が堅調であっても、その恩恵が広く行き渡っていない点が、トランプ経済の構造的な課題です。
移民政策と労働市場
トランプ政権は不法移民の摘発を大幅に強化しました。移民・関税執行局(ICE)による月間の新規拘束者数は、2024年末の約8,000人から約2万4,000人へと3倍に急増しています。
移民の減少は一部の労働集約型産業で人手不足を引き起こす一方、労働市場の競争を緩和し、賃金の下支えにつながったとの見方もあります。アメリカン・コンパス創設者のオレン・キャス氏は、移民の減少が企業の設備投資や自動化投資を促進する効果があると指摘しています。
注意点・展望
トランプ政権1年目の評価は、見る角度によって大きく異なります。GDP成長率や株価といったマクロ指標では一定の成果が見られますが、貿易赤字は前年とほぼ変わらず、トランプ大統領が主張する「78%削減」とは大きく乖離しています。
最高裁のIEEPA違憲判決は、今後の通商政策の枠組みを根本的に変える可能性があります。トランプ大統領は通商法122条での代替を打ち出しましたが、150日間の期限付きであり、恒久的な関税政策の法的根拠をどう確保するかが課題です。議会との連携による新たな関税法の制定が焦点になります。
世論調査ではトランプ大統領の支持率は36%と、過去50年の大統領の中で1年目終了時点として最低を記録しています。経済指標の底堅さが必ずしも国民の実感に結びついていない現状は、2026年11月の中間選挙に向けた大きな懸念材料です。
まとめ
トランプ政権1年目の経済は、「予想を覆した底堅さ」と「構造的な課題」が共存する結果となりました。GDP成長率は通年でプラスを維持し、インフレの急加速も回避しました。しかし、経済の二極化は深刻化し、関税政策は最高裁によって法的根拠を否定されるという大きな転換点を迎えています。
2年目に入るトランプ経済は、最高裁判決への対応、K字型経済の是正、そして中間選挙を見据えた政策運営という三重の課題に直面します。AI投資の追い風が続く一方で、関税政策の再構築がどのような形になるか、世界経済への影響も含めて注視が必要です。
参考資料:
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