トランプ経済1年目の通信簿、成長と二極化
はじめに
第2次トランプ米政権の発足から1年が経ちました。就任前には、過激な関税政策が経済の減速やインフレの加速を招くとの予測が支配的でした。しかし蓋を開けてみると、米国経済は予想以上に底堅く推移し、インフレ率も大幅な加速を免れています。
一方で、成長の恩恵は均等に行き渡っていません。AI関連投資と株価上昇の恩恵を受ける富裕層と、関税負担の増加に苦しむ中低所得層の間で「K字型」の二極化が進んでいます。本記事では、トランプ経済1年目の実績を多角的に評価します。
マクロ経済の実績
GDP成長は底堅く推移
2025年の米国経済は、実質GDP成長率が前年比+2.1%と底堅く推移しました。特に2025年第3四半期には年率4.3%の成長を記録し、2023年第3四半期以来の高い伸びとなりました。
この底堅さを支えたのがAI関連投資の拡大です。巨大テック企業群(いわゆる「マグニフィセント7」)の2025年の設備投資は約4,000億ドルに達し、GDP の1%強に相当する規模です。AI関連のデジタル投資は実質GDP成長率を平均1ポイント以上押し上げたとの分析もあります。
2026年については、利下げ効果や減税延長を背景に前年比+2.4%と緩やかな回復が見込まれています。
インフレは想定内に収まる
関税引き上げによるインフレ加速は最大の懸念事項でしたが、結果的には想定内に収まっています。コアCPI(消費者物価指数)は2025年9月時点で前年比3.0%増と、政権発足時の3.3%増からむしろやや低下しました。2025年12月の物価上昇率は前年比2.7%で、FRB(連邦準備制度理事会)の目標2%を上回るものの、パンデミック後のピーク9%から大きく改善しています。
ブルッキングス研究所の分析では、関税がインフレを大幅に加速させなかった理由として4つの要因が挙げられています。企業による利益圧縮での価格転嫁の抑制、ドル高による輸入価格の相殺、消費者の購買パターンの変化、そしてサプライチェーンの調整です。
雇用は微妙な変化
失業率は2026年1月時点で4.3%と、トランプ大統領就任時からわずかに上昇しています。雇用の伸びは2025年を通じて鈍化傾向にあり、特に製造業や建設業での雇用改善は期待されたほどには進んでいません。
関税政策の光と影
平均関税率は歴史的水準に
トランプ政権は就任以来、関税率を大幅に引き上げました。就任時に2.4%だった平均関税率は、2025年4月のピーク時には28.0%まで跳ね上がりました。これは1920年代以来の水準であり、世界の貿易秩序に大きな衝撃を与えました。
ただし2026年2月の連邦最高裁による相互関税の違憲判決を受け、相互関税は撤回に追い込まれています。代替として全世界一律10%の関税が発動される見通しですが、当初の構想からは大幅に後退した形です。
関税コストの転嫁先
ニューヨーク連銀の調査によると、関税コストの約90%は米国の企業と消費者が吸収しています。「外国が関税を払う」というトランプ大統領の主張とは裏腹に、実質的には国内の物価上昇要因となっているのです。
ただし、一部の産業では関税が国内生産の回帰を促進する効果も見られます。半導体やEV(電気自動車)関連の工場建設が進むなど、リショアリング(生産の国内回帰)の動きは確実に広がっています。
移民政策と国内投資
移民抑制が企業行動を変える
トランプ政権は移民の大幅な抑制を実施し、純移民数は1920年代以来の低水準に抑え込まれています。この移民抑制が企業の行動変化を促しているとの指摘があります。
保守系シンクタンク「アメリカン・コンパス」の創設者オレン・キャス氏は、移民の減少が企業に対して国内労働者への投資を促す効果があると評価しています。安価な移民労働力に依存してきた企業が、賃金の引き上げや自動化への投資にシフトすることで、中長期的には労働生産性の向上につながるとの見方です。
AI投資が経済を下支え
トランプ政権下で最も顕著な経済的特徴の一つが、AI関連投資の爆発的な拡大です。巨大テック企業はデータセンターの建設やAIモデルの開発に膨大な資金を投じており、この投資が建設業や電力インフラなど関連産業にも波及効果をもたらしています。
東洋経済の分析によると、2026年のトランプ経済2年目ではAI投資の伸びはやや減速するものの、減税延長などの景気刺激策が下支えとなる見通しです。
注意点・展望
「K字型」経済の深刻化
トランプ経済の最大の課題は、成長の恩恵が偏在する「K字型」経済の深刻化です。三菱総合研究所の分析では、AI関連株の上昇による資産効果が富裕層の消費を押し上げる一方、関税による生活費の増加が中低所得層を直撃しています。
この二極化は、政権への支持基盤を揺るがしかねません。トランプ大統領を支持してきた労働者層の生活が改善されなければ、政治的なリスクとなる可能性があります。
2026年の不確実性
最高裁の関税違憲判決、代替関税の発動、そしてFRBの金融政策など、2026年の米国経済には多くの不確実性が存在します。関税政策の法的な枠組みが変わる中で、企業の投資判断も影響を受ける可能性があります。
デロイトの予測では、2026年の米国経済は減税と利下げの効果で底堅さを維持するものの、関税の不確実性が投資の足かせになるリスクも指摘されています。
まとめ
トランプ経済1年目の「通信簿」は、マクロ指標では「予想よりも良好」と評価できます。GDP成長は底堅く、インフレは想定内に収まりました。AI投資の拡大が経済を強力に下支えし、関税のネガティブ効果を相殺した形です。
しかし、富裕層と中低所得層の格差拡大、関税コストの国内転嫁、雇用の伸び悩みなど、課題は山積しています。最高裁の違憲判決により関税政策の根幹が揺らぐ中、トランプ経済は2年目にさらなる試練を迎えることになるでしょう。
参考資料:
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