トランプ政権1年目の物価対策と中間選挙への影響
はじめに
2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、2026年1月20日で丸1年を迎えました。この1年間、トランプ大統領は減税や関税政策など、選挙公約の実現に邁進してきましたが、物価高対策については有権者からの評価が厳しく、支持率は低迷を続けています。
2026年11月に控える中間選挙では、「価格の手ごろさ(アフォーダビリティ)」が最大の争点となる見込みです。本記事では、トランプ政権の経済政策の実績と課題、そして中間選挙に向けた政治的な駆け引きについて、最新のデータと専門家の分析をもとに解説します。
トランプ政権1年目の経済政策
「一つの大きな美しい法案」の成立
2025年7月4日、トランプ大統領は政権の目玉政策である「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA、通称ビッグ・ビューティフル法)」に署名しました。この法律は、2017年の税制改革で導入された個人所得税率の恒久化を柱としています。
主な内容には以下が含まれます。
- チップ非課税: 2025年から2028年まで、サービス業従事者のチップ収入が年間最大2万5000ドルまで非課税に
- シニア向け追加控除: 65歳以上の高齢者に対し、標準控除に加えて6000ドルの追加控除
- SALT控除の拡大: 州・地方税控除の上限を、年収50万ドル未満の納税者に対して4万ドルに引き上げ
- トランプ口座: 子供の将来のために、雇用主が年間最大2500ドルを非課税で拠出できる投資口座制度
税制財団の分析によると、これらの税制措置は長期的にGDPを1.2%押し上げ、約94万人分の雇用を創出する効果があるとされています。一方で、今後10年間で約5兆ドルの税収減が見込まれ、財政赤字の拡大が懸念されています。
関税政策とインフレへの影響
トランプ政権の関税政策は、物価上昇の主要因となっています。現在の平均実効関税率は11.2%に達し、1943年以来の高水準です。
関税がインフレに与える影響について、ゴールドマン・サックスのエコノミストは、2025年のインフレ率上昇分0.5ポイントのうち、ほぼ全てが関税に起因すると分析しています。連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も、インフレ率がFRBの目標である2%を上回って2.7%となった原因は関税政策にあると指摘しました。
議会予算局(CBO)の試算では、関税政策により2025年から2026年にかけて年間インフレ率が約0.4ポイント押し上げられ、2026年末までに物価水準が0.9%上昇すると予測されています。
物価高と支持率低迷
支持率の推移
トランプ大統領の支持率は、就任時の47%から低下傾向にあります。エコノミスト誌とユーガブの2025年12月の調査では39%となり、CNNの調査では経済運営に対する不支持率が61%に達しました。
特に深刻なのは、経済政策に対する評価です。同調査によると、「インフレ・物価」に関する純支持率(支持率から不支持率を引いた値)はマイナス28%と、全体の支持率を大きく下回っています。
有権者の経済認識
CBSニュースの世論調査では、トランプ政権の物価対策を「不十分」とする回答が75%を占めました。また、政権の政策が自身の経済状況を「悪化させている」と回答した人は51%に上ります。
現在の経済状況の責任について問う設問では、47%が「トランプ政権の政策」と回答し、「バイデン政権の政策」の22%を大きく上回りました。就任から1年が経過し、経済状況に対する責任の所在が前政権から現政権へと移行していることが読み取れます。
「K字型経済」の深刻化
三菱総合研究所の分析によると、米国経済は「K字型」の二極化が進行しています。高所得層が消費を牽引する一方、低中所得層は関税による物価上昇の負担を受けて消費を抑制しており、経済格差が拡大しています。
関税のコスト負担について、JPモルガンの分析では2025年は企業が約80%を吸収していましたが、2026年には企業の負担割合が20%程度まで低下し、消費者への転嫁が本格化すると予測されています。関税発動前に積み上げた在庫が底をつき、企業が価格転嫁に踏み切らざるを得なくなるためです。
中間選挙に向けた政策転換
焦りを見せるトランプ政権
2026年11月の中間選挙を控え、トランプ大統領は物価対策に軸足を移しつつあります。ワシントン・タイムズ紙によると、トランプ大統領はダボス会議で新たな経済対策を発表する意向を示すなど、経済政策の発信を強化しています。
注目すべきは、トランプ大統領が一部の政策で民主党の主張を取り入れていることです。クレジットカード金利の上限設定や、機関投資家による一戸建て住宅の購入禁止といった施策は、もともと民主党が提唱していたものです。
「ポピュリズム的政策」への傾斜
三井住友DSアセットマネジメントの分析によると、トランプ政権は2026年に入り、低中所得層向けの政策にシフトする公算が大きいとされています。具体的には、食品への関税撤廃(2025年11月に実施済み)、医療費削減、住宅価格改革などが挙げられます。
こうした政策転換の背景には、中間選挙で「負けられない」という政治的危機感があります。現時点の世論調査では、経済運営の信頼度で民主党が共和党を上回っており(民主党40%対共和党35%)、無党派層では11ポイント差、ヒスパニック系では15ポイント差がついています。
注意点・今後の展望
2026年の経済見通し
モーニングスターの予測では、2026年のインフレ率は2.7%に上昇する見込みです。関税コストの消費者への転嫁が本格化するためで、耐久財価格は2025年から2027年にかけて累計4.5%、非耐久財は5.6%の上昇が見込まれています。
FRBとの関係も不透明要素です。2026年1月には司法省がパウエルFRB議長に対して召喚状を発行したと報じられ、中央銀行の独立性を巡る懸念が浮上しています。金融政策の政治化は、インフレ対策をさらに複雑にする可能性があります。
関税政策の司法判断
トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した関税について、連邦最高裁判所が合法性を審理中です。2026年前半に判決が下される見通しで、違憲判断が出れば関税政策の大幅な見直しを迫られる可能性があります。
また、医薬品への関税については、2026年後半にも最大200%への引き上げが検討されているとの情報があり、物価への影響がさらに拡大する恐れがあります。
まとめ
トランプ政権1年目は、減税法案の成立という成果を上げた一方、関税政策による物価上昇で有権者の不満を招く結果となりました。支持率は40%を下回る水準で推移し、経済運営への評価は厳しいものがあります。
2026年中間選挙に向けて、トランプ大統領は物価対策を前面に打ち出す姿勢を強めていますが、関税コストの消費者転嫁が本格化する中、インフレ圧力との戦いは続きます。「価格の手ごろさ」を巡る攻防が、中間選挙の帰趨を左右することになりそうです。
参考資料:
- Trump cheers steady inflation numbers as affordability fight shapes 2026 midterm battle
- The economy weakened support for President Trump in 2025 and may do so again in 2026 | Brookings
- Fearing midterm losses, Trump floods the zone with economic proposals - Washington Times
- One Big Beautiful Bill Act - Wikipedia
- Trump Tariffs: The Economic Impact of the Trump Trade War | Tax Foundation
- Inflation Set to Rise in 2026 as Tariff Costs Hit Consumers | Morningstar
- トランプ米大統領の支持率再び低下し39%に | JETRO
- トランプ政権下で二極化する米国経済の展望 | 三菱総合研究所
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